Nicotto Town


人に優しく。


二十年前に


何分かして、黒い修道服を身にまとった、背の高い修道士が現れた。

彼はぼくを見てにこやかな笑顔になった。

額の広いその顔は、ほとんど白髪のない栗色の小さな巻き毛に縁取られており、同じように栗色の髭がペンダントのように垂れ下がっていた。

彼はどう見ても五十以上ではないだろうとぼくは推測した。

「わたしはジョエルといいます。あなたのメールにお答えしたのはわたしです」と、彼は言うと、有無を言わさずぼくの旅行カバンを持った。

「部屋までご案内します」

彼は背筋をしっかり伸ばし、ぼくのカバンは重いのに軽々と持ち、健康そのもののようだった。

「またあなたにお会いできてうれしく思います。もう二十年になりますか」

ぼくは、何も分からないという表情で彼を見つめなければならなかった。

彼はぼくにこう言った。

「二十年前にわたしたちのところにいらっしゃいましたね。その頃、ユイスマンスについてお書きになっていたでしょう」

それは本当のことだったが、ぼくは、彼が自分のことを覚えているのに驚愕していた。

ぼくの方は、彼の顔にはまったく見覚えがなかった。





ー 『服従』 ミシェル・ウエルベック ー




 




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