夏の香り
- カテゴリ:小説/詩
- 2025/08/07 01:14:25
もう少し雨が降っていて欲しい
もう少し駅が遠くにあって欲しい
そう思っていてもあなたは早歩きで進む
この雨が少し強すぎるから
少しぐらい濡れても良いのに
夏の雨だよ冷たくはないよ
なぜ黙って進んでいくの
いつもは笑って話をしてくれるのに
組んだ腕が引っ張られる
傘の位置もいつもより高い
雨の中を小走りに進む
こんな時に限って駅前の横断歩道の信号は青
駅に着くと傘をたたみ
あなたは大きなため息をつく
「ばか」と一言
「ん、何が」とあなた
少し小降りになってきた
傘を差してもう一度戻ろうよ
そんな事を言えるはずもない
あなたに触れていた腕が
少しだけ熱い
雨の中に微かに
あなたと夏の香りがする