自作小説倶楽部6月投稿
- カテゴリ:自作小説
- 2026/06/30 22:40:17
『猫の命』
長い休暇で勘が鈍った。と気が付いたのは突然、伸びてきた手に身体を掴まれた時だ。
俺は「うなあ、」と情けない声を上げて慌てて振り払おうとしたが、がっしりと俺を拘束する両手はびくともしない。
「よおっし! 捕まえたよ」
はて、おかしい。俺は木の上の猫じゃなかったはずなんだが、
12年程まえ、可愛い妹のために木の上で休んでいた俺を捕まえた少年がいたっけ、思い出すと少し懐かしい。
再度攻撃をする前に俺は俺を捕まえた誰かに興味を覚えて相手を見上げる。
少しくたびれた中年男だった。不安定な場所にいるというのに奴が被っている中折れ帽は身体の一部であるかのように奴の頭にはまっている。
攻撃しようとしたが何故か身体に力が集まらなかった。
「おい、」
「これで依頼達成、いやあ、苦労した。こんなところまで探しに来てしまった」
「おい、こんなところまで探しにくるお前は何者だ?」
睨みつけると奴はやっと俺を見た。
「仕事だよ。俺は探偵なんだ。チャーリー、お前の飼い主が依頼人だ」
「俺に飼い主なんていない」
「いや、君はミス・レインのペットとして自治体に登録されているよ。法律的にも飼い主はミス・レインだ」
「そもそも、猫じゃない」
「しかし猫のふりをして人間に可愛がられていた。何年ぐらい人間の社会をたのしんだんだい? そもそもきっかけは?」
「忘れたね」
いや、覚えている。猫の姿をして歩き回り、人間に拾われた。10回くらい生まれ変わる前だ。大勢の人間どもは馬鹿な戦争をしていたけれど、最初に俺を拾った人間は俺に優しくしてくれた。
思い返せばあれがけちの付き始めなのだが、それなりに面白かったから良しとしよう。
問題は俺を捕まえている探偵とやらだ。
「おい、離せ、このままではただじゃおかないぞ」
「駄目だ。俺も生活が懸かっているんだ。そもそもミス・レインは君がいなくなって悲嘆にくれている。突然いなくなるなんてひどいじゃないか」
「俺を猫扱いしておいて、そう言うか? 突然いなくなるなんてよくあることだ」
「ただの猫とは違い、飼い主の失望にも配慮したっていいじゃないか。ミス・レインは食事も喉を通らないくらい弱っているんだ」
「くだらない」
俺は全力で探偵の手を振り払おうと思ったが、急に不安を覚える。
俺が探偵に負けるとは思わない。力加減を間違えるとも思えない。そこまで考えて俺はかつての飼い主たちを思い出した。人間どもは優しくはあったが、どいつももろくて弱かった。
「ミス・レインね。恋人のプロポーズも断ったらしいよ。結婚したら引っ越す予定だったけど、君が帰って来るのを待つためにね」
「アホだな」
俺は心底、ミス・レインにあきれた。しかしこのままでは後味が悪かった。
俺は少しだけ譲歩することにした。
「ああ、探偵さん? ええ、元気にやっているわ。
いろいろあったけど彼とは来年挙式する予定よ。
チャーリーのことは本当に残念だったけど、探偵さんには感謝しているわ。
あのね。笑わないでね。輪廻転生って信じる?
チャーリーの生まれ変わりのような子猫がうちにやって来たのよ。
毛並みだけじゃなくて、癖も同じ。
そんな猫がアパートの裏庭で鳴いていたの。
わたしが近寄るとチャーリー見たいに飛びついて来たから思わず「チャーリーなの?」って聞いてしまったわ。
チャーリーって何歳かわからなかったけどずいぶん歳だったのは間違いないわ。きっと老いた身体を脱ぎ捨てて子猫になって戻って来てくれたのね」




























探偵さんとどんなふうに、話しをつけたのだろうか。
気になるところ。