Nicotto Town



よく馴染んでいる

や、東の方角から迫りくる夕闇は強いくせに無垢で、それに背を向けると、ぐいと背を押されて無理やり歩かされる気分になった。

 胸が、苦しかった。息の仕方を忘れたような、思い出したような――。

(おさまれ。どうしたんだ……)

 土牢に入ってから石玖王に投げ飛ばされるまで、ろくに意識はなかった。頭が思うように動かず、無意識に支配された。いや、それは、土牢に入る前から、もっといえば、狭霧に会ってからずっとそうだ。

 狭霧……と、その名を思うと、やはり、不気味な濁流に脅かされている気分になる。それは、さっきと同じく「死」を連想させる。狭霧のことを考えると、どうしても高比古は死にたくなった。

(あいつはあんなに生きてるのに、どうして、そんなことを……)

 ちっ。舌打ちをした。
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 それは、解けそうで解けない問いで、答えが見えそうになると吐き気がする。

(落ちつけ。なんなんだよ、くそ……)

 こんなふうに、死にたい、死にたいと望むなど、どう考えても尋常ではない。

 高比古はひとまず、逃げる場所を探した。どこか、風が吹く場所を。頭が真っ白になるくらい、風に吹かれてぼんやりできる場所を――。
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 夏草で覆われた茂みを踏み分けながら、足は、兵舎を抜けて大路を目指した。

 そして、宵闇に誘われるように早足で進んでいると、本宮につながる大路と交差する十字路が見えてくる。そこまで来ると、はっとして足を止めた。無意識のうちに自分の足が向かおうとする場所がいったいどこなのかと、気づいたのだ。

 その十字路を曲がると、大国主の居場所、本宮に着く。その隣に建つ館には、狭霧がいるはずだ。

 狭霧とは、用が済んだらいくと約束をしていた。でも――。

 高比古の用とは、土牢での尋問だった。その用はたしかに済んでいたが、納得のいく終わり方では決してなかった。

(――いい。いまは会いたくない。そんな気分じゃない)

 約束など、やぶってしまえばいい。放っておこう。

 うつむいて、再び歩き始めると、これまでどおりに一人になれる場所を探すことにした。

 幸い、雲宮は広い。広大な敷地の中には林も庭もあるし、高比古一人がひそかに寝転ぶ場所くらい困らないだろう。

(そうしよう、そのほうが正しい。狭霧に会ったら、たぶんいまの妙な焦りがつのるだけだ。死にたくなって、終わりたくなる。――終わる? なにを終わらせる気だ? ……わからない。でも、もういい)

 逃げ道にすがるように、高比古の足は大路を歩き続けた。できるだけ狭霧から離れたいと願った。

(あそこさえ越えれば、遠ざかる。早く――)

 その十字路は、しだいに近づいてくる。

 胸の高鳴りを鎮めながら早足で歩いていたが、結局高比古は、その十字路にいきつく前に足を止めることになった。左手の方角から、馬の蹄の音が近づいていた。

 本宮のほうからやって来たのは、馬に乗った武人たちの群れ。立派な馬にまたがる武人のなかには、見覚えのある青年もいた。その青年は、まっすぐ前を見据えて手綱を操っていて、顔立ちはすこし大国主に似ている。盛耶(もれや)だった。

 彼は、八つ当たりをするように部下へ文句をこぼしていた。

「親父殿はどこへいったのだ。いつになったら戻るんだ!」

 盛耶は、出雲風とはすこし異なる黒衣に身を包んでいた。襟元や帯は毛皮や皮で縁取られていて、青年の雄々しい風貌に、その黒衣はよく馴染んでいる。

 高比古と盛耶は、会えばいつも口論になる仲だ。姿を見られたらまたややこしいことになると、高比古は咄嗟に大路を逸れて木立に身を隠した。実のところ、いま出会って喧嘩をふっかけられても、いい返せる




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