Nicotto Town



Winter of christmas

物語は10年前に遡る



12月23日


「前線だと言うのに暢気なもんだなここは」

真紅の旗が棚引く城を見てラーアルはつぶやいた。

「本日も異常な~し」

フィリユーレは少しおどけて報告した。

戦線は膠着、多少の小競り合いは時々あるものの

戦闘と呼べるものは、ここでは起こらなかった。

「なあフィル、お前明日から3日間休暇だったよな?」

「ああ、久々にサブドゥアに帰るつもりだ。 25日には戻るぜ」

「そいつは、ナイスだ!少し頼まれてくれないか?」

「ん? 一体なんだ?」

「ちょっと注文していた武器をな ジュエリーアンジェで受け取ってきて欲しいんだ」

ラーアルは、悪戯をする少年みたいな顔で言った。

「武器? そんなもんここに腐るほどあるだろう? それに宝石店?」

フィルのとんちんかんな物言いに、ラーアルは少し可笑しくなった。

「とっておきってやつさ、出来れば一撃必殺といきたいが… じゃよろしく頼んだぜ」

そういうとラーアルは歩哨をフィルと変わり、持ち場を離れていく

だが10m程離れたところで足を止め

「包装はこっちで用意してるからいらないぜ」

とだけ言うと手を振り去っていった。

フィルは、何のことだか訳がわからなかった。

「ま、アンジェで物を受け取ってくるだけか」

そうつぶやくと、歩哨の仕事へと戻っていった。




12月25日

休暇の最終日。フィルはサブドゥアのメインストリートにいた。

戦時中だが、クリスマスだけはちゃんとある。

人々は顔をキラキラさせながら、忙しそうに往来を行き来していた。

普段は戦場と言う非日常的な空間にいるフィルはその光景にほっとしていた。

「ジュエリーアンジェは、ここか」

ドアを開けると、年代物らしいベルが暖かな店内へ迎え入れてくれた。

「いらっしゃい」

中には2人居た。一人はすらりとした店主と思しき女性。

綺麗に着飾っていかにも宝飾店の店主といった感じだ。

もう一人は恰幅のいい女性。同業者なのだろうか?

二人で石をいじりながらあーだこーだ話していた。

「何かお探し?」

店主の女性が声をかけてきた。

「いえ、ラーアルに頼まれて…」

雰囲気に飲まれあまり大きな声は出せなかった。

「ああ~あれね」

店主は一寸奥へ引っ込むと、小さな包みを抱えてやってきた。

「はいどうぞ、きっと上手くいくわよ」

「???  あの? 武器って聞いてるんですけど?」

2人の女性は顔を見合わせ笑い出した。

「ウチは宝石屋よ? 宝石の他に何を扱うって言うの?

 もっとも、コチラのおばさんはそっちも扱ってるみたいだけどね」

恰幅のいい女性は、手を振りながら否定した。

「そんなに儲けて、どうするんだか~」

「あら知らないの? 三途の川は渡し賃がいるのよ? 豪華客船で渡ってやるわ」

フィルは恐る恐る聞いてみた。

「じゃあコレは? 一体」

「何も聞いてないのね~それは指輪よ」

「そそ指輪 プロポース用のね。 石はターコイズ。彼女の誕生日がクリスマスなんだって

 誕生石にサンタの加護まであったら、成功間違いなしだわね。たしか相手の名前は~」

「サラ」

店主よりも先に、フィルは口にしていた。

「そうそう」

その時、フィルの心の中には、幾つモノ複雑な感情が渦巻いた。

包みを抱えて、店を出ようとした時、ラジオから甲高い声が聞こえてきた。

「え?」

フィルは我が耳を疑った。

「おばさん、今このラジオなんていった?」

「連合国がアムネジアに総攻撃を開始したって!」

頭の中が真っ白になった、この3日で何があった?

そんな気配まったく無かっただろ? ラーアルは? みんなは?無事か?

恰幅のいい女性は 「稼ぎ時だわ!」 と言いながら店を出て行った。

追いかけるようにフィルも店を出て、前線を目指した。



戦場に舞い戻ったフィルが見たのは変わり果てたアムネジアの姿だった。

ポイントA-10は光球に包まれた。といいその周囲にいた人々は

まるで蒸発したかのように消えてしまった。

フィルユーレがラーアルに会うことはついにかなわなかったのである。

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2011/12/26 19:01
10年前にさかのぼったのね
サラにやっぱり贈られてた指輪だったのね。



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