Nicotto Town



初夢の続きは (15)

夏草の間を縫うように風が渡った

風は二人を追い越し川辺へと吹き抜けてゆく

そういえば、四葉のクローバー探したんだな

見上げた、夕焼けの空

オレンジに染まった空…。

それは郷愁に誘う色

求めていた幸運

忘れていた気持ち

淀んだ水が、澄んだ透明に変わるように

心が徐々に透きとおってゆく

その刹那、心臓がトクンと跳ねた

初めて恋をした時の、鼓動のように…

そして続く、締め付けられるような胸の痛み

体中の細胞が叫んでいる

この痛みの先にアレがあると…

…僕の真実は、ここにある





『初夢の続きは』 scene15 『story of clover』





「何してるの悟! もう寝なさい!」

いつもとそう変わらない時間なのに、突然母親の雷は落ちた。

「ん? どうして?」

「まあ、呆れた。 明日からおばあちゃんちへ行くって言ってあったでしょ」

「あ! そうだった!」

今日は色々な事がありすぎて忘れていた。

しばらくおばあちゃんちへ帰省するのだった。

「はいはい、寝ます寝ます~」

布団に入ると1分もしないうちに眠りに落ちた。

この時もっと良く考えていればよかったと思った。

胸が詰まって息が出来なくなるほど感じる不安

その正体について……。



「こんにちは~悟くんいますか~?」

おばあちゃんちから帰ってきた翌日、訪ねてきたのは梅子だった。

「珍しいね梅ちゃん ひとり?」

「え?」

梅子は少し奇妙な表情をした。

「ん? 松梨は一緒じゃないのかってことなんだけど…」

その言葉を聞くと梅子はうつむいてしまった。

「おいおい、どうしたんだよ」

そう言い掛けて思い出した、神社でのやり取りを

「……まさか」

「うん 松梨ちゃん引っ越しちゃったの」

その瞬間、頭を鈍器か何かで殴られたような鈍い痛みが走った。

「松梨が、引っ越した」

言葉としては理解しているのだけれど状況がよく飲み込めない。

ただひとつ、かろうじてわかったのは

今日も明日も明後日もその先も…

もうずっと松梨には会えないという事だった。

「いつ? いつだよ!」

気が付けば梅子の肩を前後に揺さぶって訊いていた。

「…おととい」

搾り出すような梅子の言葉を合図に肩を揺らす手は止まった。

「僕、お別れを言ってない…」

前に松梨は言っていた。

「ねえ、どうしてまた明日会うのにバイバイって言うか知ってる?

 それはね! 約束なの また明日会うための約束

 だから絶対にバイバイを言わないとだめなのよ

 そうしないと迷って会えなくなっちゃうんだから」

話半分で聞いていたのだが

いざ松梨に会えなくなるとわかった途端に鮮明に浮かび上がった。

「梅ちゃん! バイバイって言わないともう会えないの? 本当なの?」

そんなバカなことはない頭ではそう思っていた。

けれど誰かに後押ししてもらわないと

そんなことない言ってもらわないと

倒れてしまいそうなぐらい心が激しく揺れていた。




「ん~ 」

梅子は少し考え込んでいた。

そして軽く手を叩いた。

「いい考えがあるよ! 悟ちゃん」

「いい考えって?」

悟は、じっと梅子の目を見つめ次の言葉を待った。

「それは、四葉のクローバーよ!」

「四葉のクローバー?」

「悟ちゃん知らないの? 四葉のクローバーには願いを叶える力があるんだよ」

「願いを叶える力?」

「そう! だから四葉のクローバーを見つけて松梨ちゃんに会いたい!

 って願えばきっとまた会えるんじゃないかな?」

普段ならこんな話を聞いたところで小馬鹿にして鼻で笑っていただろう

けれど、すがるものがそれしかないと思うと

その話もひどく信憑性を帯びたものに思えた。

「探そう! 四葉を! 梅ちゃんも手伝ってくれる?」

「いいよお~ 一緒に探そう」

お揃いの麦藁帽子を被り2人は近所の公園に出かけて行った。




蝉時雨が絶え間なく降る公園。

夏の容赦のない日差しはそこを無人の野原に変えていた。

広大な野原の中で小さなふたつの影は、

懸命に奇跡の欠片を探していた。

「梅ちゃんあった~?」

「ん~ん」

「そっか、ちょっと休もう」

「うん」

水飲み場で水を飲んだ後、木陰にあるベンチを選んで腰掛けた。

隣にちょこんと梅子が座った。

「梅ちゃん、根性あるね」

「そう?」

「うんうん びっくりだよ」

正直こんなに梅子が、がんばるなんて思いもしなかった。

こんなに暑い日に炎天下の中での物探し

自分の物でもうんざりするのに、梅子は他人のために探しているのだ。

いままでの、か弱いイメージから根性のある子へとイメージも変わっていきそうだった。

ふと見上げた空は果てしなく続いていた。

いつもと変わらない空、いつもと変わらない日。

でもそこに松梨はいない。

そのことがとても不思議な感じがした。




またひとり通行人が僕らを見る。

日が傾き少し暑さが、なりを潜めたからだろうか。

人々も外へ出始めて来たようだった。

それでもほとんど人の居ない公園で

這いつくばって草をむしっている子供は目を引く。

あまりに現れてくれない幸運の欠片に集中力が途切れてきたのだろうか?

周囲の様々な物が目に入るようになってきた。

また通行人がひとり、僕らの横を訝しげな目をくれながら通り過ぎていった。

カァカァという声に空を見上げると

カラスが空高く旋回していた。

近くに巣でもあるのかな?

しばらく警戒するように旋回していたが

やがてどこかへと飛び去ってしまった。

梅子の方をみると、黙々とシロツメクサの群れに挑んでいた。

本当にすごい。

男の僕が半分根を上げているというのに

彼女はそんな素振りも見せず、ひたすら草を選り分けていた。




日が更に傾き辺りが薄暗くなってきた頃。

遠くの方から聞きなれた声が聞こえ始めた。

「悟~梅ちゃん~そろそろ帰ってきなさい~」

どうやら母親が公園へ僕らを探しに来たようだった。

「まって、もう少しだけ!」

そう言うとラストスパートを掛けるように猛然と四葉探しを再開した。

けれど探しても探しても三つ葉ばかり

どんどんと近づいてくる母親の声は、とうとうすぐ横に現れ

「なんでもいいから明日にしなさい!」

と腕を掴れてしまった。

「梅ちゃんも、お母さん心配してるから一緒に帰りましょ」

「は~い あ あ あーーーーーーーーーー!」

返事をした梅子の声は途中から絶叫に変わった。

「あったよ! 悟ちゃん! あったよーーー!」

慌てて少し躓きながら近づいてきた梅子。

その右手にはしっかりと四葉のクローバーが握られていた。

「はい、どうぞ」

梅子はにこやかにそれを渡してくれた。

あれほど渇望し、求めていた幸運の欠片

それをようやく手にしたはずなのに何故か感動はなかった。

ただ嬉しそうな梅子の顔がやけにまぶしく感じた。

その笑顔を見れたこと、それがとても嬉しかった。

こうして薄紫に染まった空を梅子と手を繋いで帰った。

その道すがら彼女は、おまじないのやり方を教えてくれた。

「一番お気に入りの本に挟んでお願いするのよ」

家に帰ると早速梅子に言われたとおりおまじないを行ってみた。

「もう一度、松梨に会えますように」

そう願いながら四葉を挟んだ本を静かに閉じた。














アバター
2013/01/25 07:51
悟くん・・・自分の気持ちが分からず戸惑ってる・・・さまよってる 
どうなっていくのかしら^^



月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.