Nicotto Town



初夢の続きは (20)

繋いだ手は 強く強く握られた

何度も夢の中で 貴方とは出会っていた

けれどこの瞬間は 何よりリアルで…

夢のようであり

一瞬のようでもあり

永遠にも感じられた

繋いだ手を何度も握り返してみる

大きな手の暖かさ、感触を確かめながら……







『初夢の続きは』 sequel to lastscene 『覚醒』






「ねぇ 今何時?」

とっぷりと暮れた道を歩いていると唐突に松梨が声をかけてきた。

暮れ具合からおよその時間はわかる。

けれど松梨が聞いているのはそうではなく、正確な時間なのだろう。

「えーっと」

悟は普段、時計代わりにしている携帯を空いている左手で探した。

ポケットをあちこちまさぐってみたが、目当てのものは出てこなかった。

「悪い!どうやら携帯を家に置いてきちゃったみたいだ」

「そっか、まあ駅まで行けばわかるかな」

彼女はさして気にする風でもなく淡々と歩を進めた。

時間はそこまで重要なことではなかったのかもしれない。

しばらく歩いていくと、遠くに列車の出て行く音が聞こえた。

カンカンと喧しく鳴る踏切の音も混じって聞こえる。

それらの音に習うように徐々に人が増え

駅が近づいてくるのが少しずつ感じられた。

「じゃここで」

駅まであとわずか、というところで松梨が言った。

「ん? なんでここ? 駅まで行くよ」

「ううん 駅まで行ったら遠回りでしょ?」

確かに家へ帰るにはここを曲がるのが一番なのだが、

折角ここまで来たのだから駅まで…。

そんな考えを察したのか 彼女は、さらに続けた。

「それに電車を見送られるのってなんか苦手でさ」

そう言われると、ここでお別れする他なくなってしまう。

すると彼女の方から、繋いでいた手がゆっくりと解かれ左右に振られた。

「今日は、ありがとう バイバイ」

「いや、こちらこそ バイバイ またな」

"またな” これからの彼女を思うとこれが精一杯だろう。

これ以上は言わない。 知らない振りに徹することに決めた。

「うん そうだね…。 またね」

彼女はそう言ってもう一度大きく手を振ると、きびすを返して駅へと歩いていった。

悟は後姿を見えなくなるまで見送ろうとじっと見つめていた。

松梨の姿が雑踏に紛れ、徐々に消えていく……。

すると突然彼女の足が止まった。

そしてくるりと向き直ると、大きな声で言った。

「悟君 またね~~!」

「ああ、またな~~!」

合わせて大きく手を振り返す。

2回3回4回…。

しばらくすると駅からアナウスが流れた。

松梨は、それに反応するように足早に駅舎へと消えていった。




どうしてもそのまま家に帰る気にならなかった。

コンビニの明かりに誘蛾灯に誘われる蛾のように吸い寄せられた。

特に目的もなく雑誌を眺め、何か買って帰ろうとドリンクの棚を眺めた。

(あれ? こんなの再販されたのか)

そこに並んでいたのは、子供の頃によく飲んでいたジュースだった。

あの頃は瓶だったが、パッケージはそのままにペットボトルで売られていた。

(懐かしいな)

一本抱えてレジに向かった。

その時悟はガラス越しに笑顔になっている自分に気が付いた。

昔を思い出して、笑顔になるのはどうしてだろう?

笑顔になったのに、涙がひとつ落ちるのはどうしてだろう?

ピッ

「147円になります」

遠くで声が聞こえた。

「……お客さん?」

「あ、はい?」

「147円になります テープでよろしいですか?」

「はい」

「53円のお返しです。 ありがとうございました」

威勢のいいバイトの声に送られてコンビニを後にした。

ペットボトルを開け、中身を少し口に含んだ

「あれ? こんな味だったっけ?」

記憶の中の味と、どうにも一致しない。

似ているけど何か物足りない。

良く出来た贋作を眺めているような感覚だった。

「やっぱり瓶じゃないとあの味は出ないか」

そう口にしたが実際は何が原因なのかわからない。

想い出はいつもセピア色で

掴んだと思った次の瞬間 

手から離れ風がさらって行く

そうして遠く遠く風の音に消えて行く

その音はあの夏の歌声のように、儚く、切なく…



どこをどう歩いてきたのか?

あまり覚えていないが不思議と家にはたどり着いた。

階段を上り扉を開け、照明のスイッチに手をかけたところで

点滅を繰り返す物体に眼が留まった。

(ああ、ここにあったか)

それは、先ほど探していた携帯だった。

ディスプレイを眺めると留守電メッセージが届いている表示があった。

(誰からだろ?)

悟はメッセージを再生してみた。

「伝言は1件です。 音声メッセージ再生するには1のボタンを~」

機械的に流れる女性の声を最後まで聞くことなく1のボタンを押した。

「もしもし悟君 松梨です」

それは、さっき駅で別れた松梨からだった。

「おかえりなさい まだ家には戻ってないよね」

「わかって電話してます ちょっとずるいかな?」

どこから電話したのだろうか? 音声は結構クリアだった。

「これからご飯かな? 今日のメニューはなんだろ?」

(ん?なんでそんな話?)

「今日は雨に降られちゃったけど風邪引いてない?」

(そんな早く風邪引けないだろ!)

「風邪引いたら、お風呂は入らないほうがいいよ」

(だから引いてないっての!)

気が付くと電話の声に一人突っ込みを入れていた。

「あ、そうそうひとつ伝えたいことがあります」

「ほんとは、駅までに言おうと思ったのだけど言い出せなくてね」

「私、今日で転校します びっくりした?」

(知ってるよ)

「お父さんが海外に行くことになって、誰も面倒見てあげないのかわいそうでしょ?」

「だから身の回りの世話くらいはしてあげようと思って」

「なので“またね”は、いつになるかわかりません」

(ああ)

「でも約束したからね」

「それで、今度帰ってきたときは」

(うんうん)

「10年前に約束したように、私の彼氏になってよ」

(ぶっ)

「なんてね 冗談よ」

「だって私 そうなったらすごいわがまま言いそうだもの」

「デートに遅刻したら許さないし」

「すっごいヤキモチ妬きだし」

「寂しがりやだし」

「こんなんじゃ彼氏のなり手も居ないよね ウンウンわかってる」

「でもいつか、また10年して会えるといいね」

(10年と言わず会えるだろ)

「それじゃ またね     悟君」

(またな松梨)

「好きよ」

(松梨)

「好きです」

(僕もだ)

「っと 約束通り会いに来てくれたら、最初に伝えようって決めていた言葉」

(ん?)

「遅くなっちゃったけど、今言うね」

「また、君に会えてよかった」

そこでプツンと電話は途切れてしまった。

一拍置いて機械的な女性の声が聞こえる。

「メッセージを終了します」

悟は携帯の電源を切り、ベッドへと放り投げた。

そして南の窓を開け空を眺めた。

雨が上がったせいか、空気は澄み星が美しく瞬いていた。

夜の帳は際限なく広く、

群青の切れ端は遥か遥か世界の果てまで届いているかのようだった。

悟は空に向かいつぶやいた。

「また会えるよな」




終わりは別れとあるものだから

今はこれでいい

そうして今日も明日も明後日も

僕らは歩いていく

時間という一本道を

未来は夏の逃げ水の様に不確かで、

いつも決して手の届かないものだけど

季節は何があろうと引き返すことなくそこへ進む

その先の季節で、きっと

同じ風景の中で……。

                              

  


                                 初夢の続きは fin

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2013/09/30 00:17
これを読んだらね、

瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の
われても末に あはむとぞ思ふ

って、和歌が頭に浮かびました^^
また一から読み直したいと思います!
一覧がほしいww

さて~!次はどんなお話がアップされるのかしら?
楽しみにしてますね^^
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2013/09/24 21:59
こんばんは^^

離れ離れになってしまってけど、
またいつか
逢えるよね・・・って思います。

素敵でしたよ。お疲れ様でした^^
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2013/09/23 06:49
おはようございます!
ラストまでお疲れ様でした。
10年って長いよね。誰かの心の中に10年間も残り続けるというのは
ほんとに特別なことだと思う。友達にしても恋人にしてもそんな出会い
ができたら幸せだよね。
また離れ離れというのは切ないけれど、ハッピーエンドへと繋がってい
きそうだね。人生いろいろあるからわからないけれど(笑)。
長編ご苦労さまでした!!
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2013/09/19 07:36
う~ 朝はクソ忙しいってのに 読みにきちまったぁ~!
うん!なかなかのラストっすねぇ
夢見たいな甘ったるい終わり方じゃなくて 私的には好きだ♪
↓ りびさんと一緒で また一から読みなおそっと♪
師匠! お疲れ様でしたぁ!!!!!!!!
 
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2013/09/19 03:11
恭介さん、こんばんは•θ•ฅ"

早速読みに来ました^^ついに完結。ここまでお疲れさまでした。。♪

前回である程度ラストって感じでいましたが、最後の電話の件を読みながらうんうん。。と
納得のラスト~エピローグでした。

ちなみに読んだ後、自分の恋愛観といいますか。。色々思い出し、懐かしんでしまいました。笑
(…って言うほどそんなに経験もないのですが^^;)
恭介さんの文章は不思議ですね。それだけ何かを問いかけるような力があるのかもしれません^^

完結したことでまた一から一気読みでもしてみようかな。なんて思ってます。♪

また今後も、恭介先生の新作を期待してます~(`・ω・´)✧



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