Nicotto Town



日本妖刀列伝:四




剣豪と共に名刀あり

刀の伝説は、その使い手とセットで語られることが多い。

伝説の剣豪と刀の出会いを紐解いていこう。




時は、はっきりとはわかっていない

三島神社へ一振りの刀が奉納された。

名工一文字の作であるこの刀は、神前の棟木に括り付けられ

神と同様に奉られていた。

時と共に括りつけられた縄は朽ち

ついには刀を支えることが出来なくなった。

重力に引き寄せられ落下した刀は下にあった御酒甕を貫いた。

この惨状に気がついた神主によって刀は瓶から引き抜かれた。

驚くべきことにしその刃には、僅かな刃こぼれもなかった。

「これは、大変な名刀に違いない」

神主はその刀を託すべく人物を想像したが浮かぶことはなかった。



その刀に引き寄せられるかのように

時を同じくして、三島神社に奇妙な来客があった。

聞けば海を渡り、泳いでこの三島まで来たという。

自らの名前すら知らないこの少年を

神主はいたく気に入りしばらく住まわせることにした。

少年はどこでかじったのか剣技にたけており

そこらの喧嘩では負け知らずだった。

ついたあだなは「鬼夜叉」

気がつけば腕っ節に自信のある者たちも、

その名を聞けば道を開けるほどになっていた。

しかし一方でその名声を面白くないと思うものも当然現れた。

冨田一放は、武術に優れた男であり

この辺りで用心棒のような稼業していた。

ところが、彼の息の掛かった部下が齢14の小僧に

簡単に蹴散らかされてしまったのだ。

「よく聞け!この稼業ってのは、面子が全てなんだよ
 
 ガキ1人に面子を潰されたとあっちゃ、飯の食い上げだ

 俺様直々に取り戻しにいくとするか 強者の看板を!」

そう言うと冨田は、たった1人で意気揚々と三島神社へ乗り込んで行った。

「鬼夜叉はいるかい?」

神社の小坊主のような童に声をかけた。

「俺をそう呼ぶ奴もいる」

童からはそう言葉が返ってきた。

冨田は驚いた。

確かに伝え聞いた人相と一致する。

だが小さい。

なるほど噂話には尾ひれが付き物だが、

今回もどえらい尾ひれがついちまったらしい。

冨田はそう思った。

「そうか話が早い。 鬼夜叉の看板降ろして貰いに来た」

「俺が、名乗っている訳ではないが……。 嫌だといったら?」

「力づくで ということになる」

「俺は、他人から力づくでどうこうってのが嫌いでね

 降ろさせてみなよ 力づくで」

「ふん いちいち話が早くて助かる 

 ちょいとお灸をすえるだけだ 木刀でいいだろう 構えな」

冨田が言い終わるより早く、鬼夜叉は襲い掛かっていた。

辛うじて受けるが、早い早いそして止まらない。

ひとつひとつの打ち込みはそれほど重くはない。

だが速度は尋常ではなかった。

肩、二の腕、大腿部、かわし損ねた木刀が冨田の体に二度、三度と食い込んだ。

「待て、参った! 参った!」

冨田はたまらず白旗を揚げるが、鬼夜叉は止まらない。

まるで暴風の如く冨田へと襲い掛かった。

このままでは殺される!富田がそうおもった瞬間

意外なところから声が掛かった。

「それまで!」

神主の声だった。

途端にさっきまで吹き荒れていた風は凪いた。

「おっちゃんに感謝するんだな」

そう言うと少年は詰まらなそうに奥へと消えた。



這う這うの体で神社から逃げ出した冨田だったが、まだ怒りは収まっていなかった。

「あの野郎、もう許せねえ」

冨田は自らの部下の中でも特に腕利きの七名を選び出し鬼夜叉暗殺を言い渡した。

「ガキだと思って油断するな。 達人だと思って確実にしとめろ!」

夜を待って7人の刺客は三島神社へと向かった。

7人は離れを囲むように展開すると同時に踏み入った。

彼らがそこで目にしたのは木刀を構えた鬼夜叉だった。

「早速親分のお礼って訳かい? 律儀だねえ」

突然の刺客の侵入を予想してたかのような対応だった。

「かまわねぇ、やっちまえ~」

刺客は真剣、鬼夜叉は木刀。

実力に差があれど、

その差を埋めてあまりある得物の違いに鬼夜叉は次第に押されていった。

「おっちゃん何か武器はないか? これじゃ戦いにならねえよ!」

神主は咄嗟に例の刀を放ってよこした。

「ありがてぇ」

鬼夜叉は、刀を持つとあっという間に6人を切り伏せた。

「ひぃ~こいつ人間じゃねぇ」

明らかの実力の違いを見た最後の1人は

怯え竦み台所のほうへと逃げ出した。

台所で巨大な水瓶を見つけると、その後ろに息を殺し隠れた。

「そこか!」

気配を感じた鬼夜叉は水瓶目掛け袈裟に薙いだ。

その時、神主は奇妙な光景を見た。

驚くべき切れ味の刀は、瓶と刺客の体に美しい一条の線を引いた。
 
しばらくの間、瓶は水を漏らすことを忘れ

刺客もまた己が死に気づかず瞬きしていた。

実際にはそれほど長い間ではなかったのだろうが

神主には、ひどく長い間それを見ていた気がした。




神主は、少年が刀に導かれここへ来たと確信し

二度瓶を割ったこの刀を瓶割と名づけ少年に託すことにした。

この少年こそが後の剣豪、伊東 一刀斎であり

その生涯の愛刀 瓶割との出会いであった。





日本妖刀列伝:四  『瓶割

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2014/05/31 19:15
そういう物語があるんですね@@
すごいですね~^^



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