Nicotto Town



ヤミノが闇野になるまで

【本編最終回ラストシーンのヤミノリウス視点エピソード。オリジナルに忠実設定であを感激!】【びっくりするほどエルドランがまともです! わたしの中にもこんなエルドランが残っていたんですねぇ。感激しましたよ! こんなエルドラン、もう二度と出番ないね(笑)】
砕けた地球は魔王の死とともに復元され、遠く太陽に落ちたはずのガンバーチームの面々も召還された。彼らにほどこした呪いの残滴もない。勝利に沸く人間たちを横目にヤミノリウスは空を仰いだ。青い…。以前となんら変わらず青い。尊大なほどに。
光の力は一瞬でこれほどのことを為すのか。しょせんわたしごときではとうてい果たせぬ役目だったか・・・。
『・・・・・』
ヤミノリウスはそっと群集に背を向けた。
「! どこへいくのヤミノさん!?」
脇にいた女が見とがめて声をあげた。まあ、これまで戦いを挑み続けた相手に、何も言わずに去るのは礼に欠くというものだろう。ヤミノリウスは振り返り人間たちの視線を引き受けた。
「すべては終わった。大魔界の魔導士ヤミノリウスは、今日を最後に姿を消す。もうお前たちの前にこの姿を現すことはないだろう」
「なにを言うのヤミノさん!」
当然だろう。もはや自分の存在する理由もない。
ヤミノリウスは地を蹴って空中へと飛んだ。
「さらばだ!ガンバーチーム! ほんとうに見事な戦いぶりだったぞ」
狼狽する女が取り乱して追いすがり、名を呼び続けている。
"亜衣子さん" か。この者にもなにかかけてやる言葉があるべきだろうかと目を向けてはみたが、
(・・・・・・・・・)
どんな言葉もその情熱の報いにはなりえないと思い至り、無言のままその場を後にした。


なぜこのわたしをそんなにも欲するのだろう。

どこへ行くか。

地上に来てからこのかた自分の居場所などどこにもあったためしがなかったが、これほどよすがのない身が頼りないことはなかった。
照りつける陽の光が自分を追い立てるようだった。空にはいたくない。
ヤミノリウスは地上へ向いた。どこか人間のいない場所は。

とりついた義躯のおかげか、それとも一度融合した魔王の残滓の影響なのか、この身がまだ在ることが不思議だった。自身で魔界獣を生み出してきた経験から、大魔王なくして自分が単身で存在し続けられるはずがないことは分かっていた。
"死"という概念を彼らは持たなかったが、消滅するということが喜ばしいものではないという感覚はあった。ならば行く先はあそこしかあるまい。
大魔界と人間界を繋ぐ唯一の場所…。封印の岩の祠へヤミノリウスは向かった。

手を取ろうとするエルドランを拒んでヤミノリウスがすっと一歩下がる。
「いかに落ちぶれようと、お前に下るわけにはいかない。わたしが魔王に背いたことは光の側に立ってのことではない」
毅然と見返す目には強い意思が宿っていた。
「ならばこれは罰としてお前に科そう。私の世界を乱した罪と己が主君を裏切った罪にあがない、ヒトに堕ち 地に縛られて生きよ」
エルドランはヤミノリウスの腕を掴むとぐいと引き寄せた。
「偉大な竜の名に尊称を。」
エルドランがヤミノリウスの口から答えを求める。
ヤミノリウスは顔をそむけた。
「讃えよ、その名を」
エルドランはやさしく静かに、なだめるように言ってきかせる。
ただ名を呼ぶだけと言うなかれ。今のヤミノリウスが口にするには重すぎる。
つうむいたまま、口の中を切るような思いでやっと一言、…こみ上げる嗚咽とともに彼はようやく答えた。
「_________________様。」
たちまちエルドランはヤミノリウスを抱き寄せその頭を胸に抱きすくめた。
「どちらの名でも良かった。お前がその選択をしたことに私は敬意を示そう」
そう言うとたちまちエルドランの体は発光し、ヤミノリウスを包み込む。
「っ!!」
ヤミノリウスは体をなにかが通り抜けてゆくのを感じた。いや、依り代が引きはがされているのか。フラスコと、薬ビンと、ニンゲンの骨に暗幕・・・。
体がふっと軽くなり、次の瞬間足が地面に沈むような重さによろめいてとっさに手をついた。目の前に出てその身を支えたのは、人間の手だった。左手には、魔竜の指輪が。
「……!」
闇野は辺りを見渡したがエルドランの姿はもうない。
ゆっくり立ち上がると足にずしりと体重を感じた。
(人間の体か)




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