Nicotto Town


グイ・ネクストの日記帳


ベリルとシャリル6


痛い。頭が。あたまがぁあああ。と、ベリルは頭を抱えてしゃがみこんだ。

 シャリルは兄の頭に手をかざす。

「はい、お兄ちゃん・・・お父さんよ」と、シャリルの声がベリルの心の中だけで再生される。

 ベリルは疑問に思った。

 シャリルはしゃべれないはずなんじゃ・・・だとしたらこの記憶は

 シャリルはほんとはしゃべれる?

 何か理由があって話せないフリをしている?

 そしてボクはシャリルに見せられた父を見て・・・怖くて、気持ち悪いと思ってしまった?

「お兄ちゃん、ごめんね。お父さんを殺して料理しちゃったの」

 そう、シャリルはお父さんを殺した?

 その上、料理?それをボクは食べた後に気づいた?

 いや、食べる前に気づいた?

 そもそも食べたのか。

「お兄ちゃんは食べていない」

 ・・・

 シャリル、どうやって兄ちゃんは前に進めばいいんだ?

「私を許して。それと壊れた自分を許してあげて」

 ・・・

 答えは出せない。いっそのこと兄ちゃんも食べてくれ

「ごめん。それはできない・・・」と、シャリルの声はそこで途切れた。ベリルはシャリルの魔法陣の1つで眠りについた。

 5人のうちの1人、ドゥナッサは目を疑う。

「眠らせた?魔術詠唱も無かった・・・手をかざしただけで?」
そう思ったのはドゥナッサだけでは無かった。
「おかしい・・・我々はとんでもない相手と戦おうとしているんじゃないのか?」と、バアルも言う。
「初手は私が仕掛けよう。スケルトン200体。目の前にいるのがただの少女ならば即死は確定だろう」と、デアトリクスは提案する。
「次の一手はワタシの究極魔法、天の裁きによる雷で。」と、パトスも言う。

「じゃあ、その後に短刀を投げつつ、レイピアで喉を狙ってみよう」と、ドゥナッサは言う。

「俺は炎の魔法を」と、バアル。

「・・・それで倒せない可能性は無いと思うが・・・エナジーを1人ずつもらい、虹色に輝く弓の法具、End of Firstを発動させよう。この法具は相手の魔力を吸収する力もある。その上、矢は光そのもの。かわせる道理は無い。巨大な岩がただの砂となって砕け散った。おそらく人間の少女とはいえ、同じ結果になるだろう」と、アレスは言う。

「では、唱える。われは地に眠りし、不浄なる憎しみを呼び起こし、今ここに骸骨に与えん!」と、デアトリクスは赤いルビーのついた杖を地面に刺してスケルトンという怪物たちを呼び起こす。シャリルの周囲に白い骸骨の戦士たちが地面から現れる。右手には両刃のロングソード、左手には皮で造られた盾を持っている。

シャリルはあっという間に囲まれた。シャリルの直径15メートル先までスケルトンで埋まっている。普通なら絶対絶命だ。

そう、ただの少女なら。

だが、ここにいるのはシャリルなのだ。

魔法都市の最高位の魔術師ラスクに認められた少女、シャリルなのだ。

シャリルのいちばん近くにいるスケルトンはロングソードを振り上げて、シャリルに向かって振り降ろす。前、後ろ、右、左。そう4方向から振り降ろす。シャリルは避ける動作すらしない。

「召喚」と、シャリルはつぶやいた。ロングソードがいちばん最初にシャリルの腕に吸い込まれる。次にスケルトンの骨、盾。その後ろにいるスケルトンたち。次から次へとシャリルの心臓部分へ吸い込まれて行く。

3つの魔法陣は三角形の枠におさまるように集まり、さらにそれは5つの三角形へ増えて星を形どる。その星を包む円が描かれ、その周りに24個の魔法陣が瞬時に現われて行く。

8つの魔法陣を集合させたモノを究極魔法という。パトスの究極魔法の3倍の威力がある魔法を使用する少女に5人は驚きを隠せなかった。

200体のスケルトンを生贄に、シャリルが呼び出したのは黒いシルクハットを被り、背中には黒い翼、赤い蝶ネクタイをした黒のタキシード姿をした者が現れる。

デアトリクスは絶叫した。ひぃいいいいだろうか、それともひきええええだったのか、聞きとれなかったが、ガタガタと震えながら「魔王が1人、メフィストフェレス・・・」と、つぶやく。

「うろたえるな!」と、アレスは叫ぶ。

四人はアレスの声で、お互いに目配せしてうなずきあった。

「手をあげろ」と、アレスは言う。

他の四人は迷わず、それぞれの利き手をあげる。

四人から生命エネルギー、白い光がEnd of Firstに吸い込まれて行く

アレスの生命エネルギーも吸い込まれ、虹色に弓は輝いて行く。そして光の矢が出現する。「魔王さえも倒す、伝説の法具の力、とくと見よ」と、アレスは矢を手放した。

矢は光の速度で進み、現れた魔王メフィストフェレスを吸収した。

矢はシャリルの脳天に当たる。

次の瞬間、アレスは砂に変化する少女を見るはずだった。

しかし、そこには傷1つ無いそのままのシャリルがいた。

「魔力が消えている。でも・・・もって、10秒ほど。すごい。私の魔力を消す法具があるなんて」と、シャリルは笑った。あはは、あーはっはっはと、高笑いした。

アレスもこれには動揺した。伝説の法具が効かない。

もう1度撃とうにも、四人はすでにばてている。自分にしてもそうだ。さっき吸収されたので、歩くぐらいの力しか残っていない。

「逃げろぉおおおおおおおおおお!」と、アレスは叫んだ。

今、ある全部の力を使って。

四人も逃げようとはしている。だが、同じく歩く力しか残っていないのだ。五人はわかってしまった。

今、化物に対峙していると。

アレスはその場に倒れて行く。

シャリルは呟いた。「消滅」そう、呟くだけ。

魔法陣が同時に16個、出現する。16個の魔法陣は意志を持ち、十字架を形成する。その十字架を包みこむ円がさらに描かれる。

アレス、ドゥナッサ、バアル、デアトリクス、パトスの五人は砂となって消えて行った。

法具、End of Firstだけが地面に転がる。

シャリルはそれをつかむと「転送」と、呟いた。再び壊れた兄、ベリル。正直、どうすればいいのか分からない。それでもシャリルは前へ進むためにラスクの城へ帰った。




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