Nicotto Town



もうひとつの夏へ 【5】

2人は宙に舞った。

そして雪美を抱きかかえるようにして、左肩から地面に叩きつけられた。

衝撃を防ごうと、手を後ろへ伸ばそうとも考えたが

結局雪美の保護を優先してしまった。

「痛ぅ…」

激痛のあまり、のたうちまわり仰向けに転がった。

(もしかしたら、ヒビくらいは入ったかもな)...

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もうひとつの夏へ 【4】

8月31日だというのに、駅はやけに混んでいた。

(あの時、こんなに混んでいたっけ?)

8年前を思い出そうとしたが、まったく思い出すことは出来なかった。

淡い光が構内を照らし、行き交う人を照らしている。

壁には、いくつもの広告が埋め込まれていて、その中から女優が微笑みかけていた。

(この女優...

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もうひとつの夏へ 【3】

受付には黒髪の女性の姿はなく、別の女性がいた。

栗色の短い髪、人当たりの良さそうな顔、一般的基準なら十分美人の範疇だ。

服装も振袖などではなくスーツを着ていた。

(これが普通だよな)

心の中でクスリと笑ってしまった。

「何かお困りですか?」

女性はにこやかに対応した。

「あの~00号室...

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もうひとつの夏へ 【2】

斎場に着くまでは、ひどいどしゃぶりだったが着いた途端太陽が顔を見せていた。

雪美の母親を見つけ、会釈をする。

傍に父親の姿はない。

きっと離婚したのだろう。

受付を済ますと黒いドレスの優に会えた。

いっぱしの美人になっていた。

「見違えたな」

「そう?」

立ったまま一言二言交わすと、...

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もうひとつの夏へ 【1】

その日は朝からやけに蝉がうるさかった。

今思えばあれが虫の知らせって奴だったのかも知れない。

毎晩の暑さにうなされ、今夜もようやくうとうとし掛けた時に、不意に電話が鳴った。

「こんな時間になんだよ ん? 見たことのない番号だな」

ディスプレイに表示された数字の羅列に覚えはなかった。 

普段...

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