「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。
「ありがとう。」と私は膝を見た。
娘の右腕のあたたかさが膝に伝わった。
ー 『片腕』 川端康成 ー
「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。
そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。
「ありがとう。」と私は膝を見た。
娘の右腕のあたたかさが膝に伝わった。
ー 『片腕』 川端康成 ー
彼女は言った。
「この世界はなんて美しいんだろうって思ってたのよ、イーベン。美しさのほかには何の役にも立たないのよ——あたしたちが今生きていようと、ずっと昔に生きていようと」
ぼくたちはあの美しさを共有していた。
決してそれを失うことはない。
ー 『ジェニーの...
六十歳で出稼ぎをやめて、郷里の八沢村に帰ることにした。
純子とはもう逢えなくなるから、最後の日に「新世界」に白薔薇の花束を抱えていった。
彼女の前に真っ直ぐ立って、「さようなら」と花束を渡すと、「ありがとう」と白薔薇に顔を埋めた彼女は、強い香りの中に閉じ込められたようだった。
悲し...
ぼくは彼女の顔に浮かんだ期待と、ぼくを認めたときにその期待が喜びに変わって輝くのを見た。
近づいていくと彼女はぼくの顔を撫でるように見つめた。
彼女の目は、求め、尋ね、落ちつかないまま傷ついたようにこちらを見、顔からは生気が消えていった。
ぼくがそばに立つと、彼女は親しげな、どこか...
「必ず、あなたはなおって、ぼくのお嫁さんになるんだ。どんなに長くかかっても、必ずなおってくれなければ困る。しかし、なおらなければなおらないで、ぼくは一生他のひととは結婚しませんよ」
信夫は初めて自分の想いをふじ子に告げることができた。
そしてほんとうに、この可憐なふじ子以外のだれとも結婚...