願わくば花のもとにて
- カテゴリ:自作小説
- 2010/04/06 16:12:21
うっすらと目を開けると、闇の中に白く浮かぶ桜があった。
はらはらとこぼれる花弁はなんとも幻想的で、この世のものとは思えないような光景に、どこか不安定な気分になった。
春とは言えども、やはり深夜ともなればそれなりに気温は下がる。
ぶるっと身震いをした青年に、空気がゆれた。
一体、何時からこうしているのだろうか。
彼は、ぼんやりとそんなことを思った。
どうやら、桜の木の下で眠っていたらしいのだが、何故自分がこんなところにいるのか、よく分からないでいた。
ここは何処なのだろう。
いや、それよりも、自分は誰だ?
一番簡単なはずの事が、分からなかった。
むくりと起き上がった青年は、ゆっくりとあたりを見まわした。
彼の傍らには桜の大木が一本。まるで空を覆うような勢いで咲き誇っている桜があるだけだった。
あとは、闇。
彼の記憶の中に、このような場所はない。
自分が誰だかも分からない者の記憶などあてになりはしないが、それでも、ここは知らない場所だと、彼は思った。
これだけ見事に桜が咲いているにもかかわらず、性質の悪い酔っ払いもいなければ、花を愛でる人さえもいない。
ただあるのは、桜と月と静寂。
破られる事のない静寂が、妙に心地よく思えて、彼は再度芝生の上に寝転がった。
夜桜は、人を魅了する。どこか悲しげで、そして儚い。
そんなことを思いながら、彼はふっと顔をゆがめた。
――疲れているのかもしれない。
脳裏を掠めたそんな思いに、ぎゅっと目を瞑りながら、両の手で視界を遮る。
とくに意味があった訳ではない。ただ、目に映るもの全てを消してしまいたい、と思ったのだ。
それでも、散りゆく桜の残像が見える気がした。
ざざっと、一群の風がふきぬけ、花弁が吹雪のように舞った。そしてまた静寂が訪れる。
大地に抱かれ、季節の変わり目を感じていた。
もうすぐ、桜は散るだろう。
潔く散る桜が、なんとはなしに、物悲しかった。
目を開ければ、指の隙間から、桜の向こうに月が見えた。
月の光に照らされて、桜はさらに幻想的に映った。
――このまま眠りにつけたら、どんなに楽だろう。
そう思いながら、いささか自虐的な笑みを浮かべた。そんなことが許されない事は自分が一番よく知っている。
春の死は若葉の目覚め。
だからこそ、この一時のためだけに咲く桜は美しい。
そして、気がついた。
自分が一体誰なのか。
そしてここが、何処なのか。
けれど、今だけはこの桜を愛でていたい。
この一時だけは。
えーっと、ずいぶん前に書いたものを、引っ張り出してきました。
もうそろそろ、桜も終わりそうですしww
イメージだけの代物ですので、ぼーっと読んで頂ければ、これ幸いww
ここだと、微妙にレイアウトが上手く行かないのが玉に瑕(笑)
毎年桜を見ると、思わず呟いてしまいます。
美しく散るからこそ、桜は美しいのかもしれませんねえ。
お読みいただき、有難うございますww
そうですね~。
そんなイメージで書きましたww
>TAROさん
お読みいただき、有難うございますww
桜は、綺麗に咲いているところもいいですが、
落下盛んの時期も大好きです~
>みっきさん
ふふふふ。
お分かりいただけて、嬉しいですわww
この話――。
前も後ろもありませんでしたわ(笑)
それこそ、イメージだけで作ったSSだったので。
でも、そう言っていただけるのなら、考えてみようかな~~~~
このお話の前後が気になります^^
華麗に咲いて華麗に散る。あたかも輪廻転生のようです