Nicotto Town


楽屋裏のつぶやき


願わくば花のもとにて


 うっすらと目を開けると、闇の中に白く浮かぶ桜があった。
 はらはらとこぼれる花弁はなんとも幻想的で、この世のものとは思えないような光景に、どこか不安定な気分になった。
 春とは言えども、やはり深夜ともなればそれなりに気温は下がる。
 ぶるっと身震いをした青年に、空気がゆれた。
 一体、何時からこうしているのだろうか。
 彼は、ぼんやりとそんなことを思った。
 どうやら、桜の木の下で眠っていたらしいのだが、何故自分がこんなところにいるのか、よく分からないでいた。






 ここは何処なのだろう。
 いや、それよりも、自分は誰だ?
 一番簡単なはずの事が、分からなかった。



 むくりと起き上がった青年は、ゆっくりとあたりを見まわした。
 彼の傍らには桜の大木が一本。まるで空を覆うような勢いで咲き誇っている桜があるだけだった。
 あとは、闇。
 彼の記憶の中に、このような場所はない。
 自分が誰だかも分からない者の記憶などあてになりはしないが、それでも、ここは知らない場所だと、彼は思った。
 これだけ見事に桜が咲いているにもかかわらず、性質の悪い酔っ払いもいなければ、花を愛でる人さえもいない。
 ただあるのは、桜と月と静寂。


 破られる事のない静寂が、妙に心地よく思えて、彼は再度芝生の上に寝転がった。
 夜桜は、人を魅了する。どこか悲しげで、そして儚い。
 そんなことを思いながら、彼はふっと顔をゆがめた。

――疲れているのかもしれない。
 
 脳裏を掠めたそんな思いに、ぎゅっと目を瞑りながら、両の手で視界を遮る。
 とくに意味があった訳ではない。ただ、目に映るもの全てを消してしまいたい、と思ったのだ。
 それでも、散りゆく桜の残像が見える気がした。
 ざざっと、一群の風がふきぬけ、花弁が吹雪のように舞った。そしてまた静寂が訪れる。



 大地に抱かれ、季節の変わり目を感じていた。
 もうすぐ、桜は散るだろう。
 潔く散る桜が、なんとはなしに、物悲しかった。
 目を開ければ、指の隙間から、桜の向こうに月が見えた。
 月の光に照らされて、桜はさらに幻想的に映った。

――このまま眠りにつけたら、どんなに楽だろう。

 そう思いながら、いささか自虐的な笑みを浮かべた。そんなことが許されない事は自分が一番よく知っている。
 春の死は若葉の目覚め。
 だからこそ、この一時のためだけに咲く桜は美しい。



 そして、気がついた。
 自分が一体誰なのか。
 そしてここが、何処なのか。
 けれど、今だけはこの桜を愛でていたい。
 この一時だけは。




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 えーっと、ずいぶん前に書いたものを、引っ張り出してきました。
 もうそろそろ、桜も終わりそうですしww
 イメージだけの代物ですので、ぼーっと読んで頂ければ、これ幸いww
 ここだと、微妙にレイアウトが上手く行かないのが玉に瑕(笑)

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2010/04/08 23:21
西行法師ですね。
毎年桜を見ると、思わず呟いてしまいます。
美しく散るからこそ、桜は美しいのかもしれませんねえ。
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2010/04/07 13:33
>スイーツマンさん
お読みいただき、有難うございますww
そうですね~。
そんなイメージで書きましたww

>TAROさん
お読みいただき、有難うございますww
桜は、綺麗に咲いているところもいいですが、
落下盛んの時期も大好きです~

>みっきさん
ふふふふ。
お分かりいただけて、嬉しいですわww

この話――。
前も後ろもありませんでしたわ(笑)
それこそ、イメージだけで作ったSSだったので。
でも、そう言っていただけるのなら、考えてみようかな~~~~
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2010/04/06 23:33
西行好きです~

このお話の前後が気になります^^
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2010/04/06 21:54
桜の散りゆく様は美しいです
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2010/04/06 19:36
桜は死と再生のイメージですね
華麗に咲いて華麗に散る。あたかも輪廻転生のようです



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