Nicotto Town


錆猫香箱日和


そして、海へ  2

私達は砂浜で夜が明けるのを待っていた。

日が昇ると同時に写真を撮るのだ。

私は、友人2人に強要されて、上半身は何も着ていないのと同じような格好になっていた。下は黒のレザーのパンツをはいていたけれど、
「じゃ、これ着てくれる?」
と友人が渡してよこしたのは、メッシュみたいな透けた薄い生地の、白い小さなキャミソールだった。
「ねえ、これさ、着たら下着が透けるんじゃないかな」
とやんわり抗議をしたところ
「ブラジャーははずしてね」
当然のようにサラリと言い放つアッコ。
「ええ!!そんな、半裸に近い写真撮るなんてヒドイ!そんなこと言ってなかったじゃない。コンクールで入賞したらいろんな人が見ることになるよね」
「大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのよ」
「そんなガリガリのアバラの浮いた体を撮っても絶対にいやらしい写真にならないし
 そんなペッタンコの胸だったら、一見性別がわからなくてより面白い写真が撮れる
 と思うんだよね。」
ひどい失礼なことをサラサラと平気でくちにするアッコの横でメグが頷く。
「帰りもファミレスでおごってあげるからさ」
もうこうなったら諦めるほかない。
とにかく彼女達の指示に従って、海岸に人が姿を現さないうちに一刻でも早く撮影が終わるように動くのが最善のように思われた。
三人で砂浜に座り、水平線を見つめる。

「ねえ、高校生の時にみんなのひとりひとりの将来の夢をテープに吹き込んで、担任の先生にプレゼントした時のことって覚えてる?」
アッコが海を見ながらポツリと言う。

「そんなことあった?私全然覚えてないけど」
「いや、やったよ、それ。私が美容師になりたいって言って、アッコがカメラマン。
で、ナジャが 『私は作家になりたいです』って言ったんだよね」
口にしていたコーラを噴きそうになり、思いきりむせた。
そんなだいそれたこと言ったのか。若いって恐ろしい。
「だからさ、私はいつか一流のカメラマンになって、ナジャの書いた小説に私の写真
をつけて本にしたいんだよね。」
「うわ、いいね。私またヘアメークやるよ」
「このコンクールはさ、そのためのステップだからね」
「私達、3人とも高校の時の夢に向かって階段登ってるよね」
「そうだけど、私が小説家っていうのは無理だな。あの時は世の中舐めてました」
「でも、私はナジャの文章好きだよ」
にっこり微笑むアッコの顔を見たら、先ほどまでの怒りがどこかにいってしまう。

「あ、見て!お日様が出てくるよ!」


水平線から日が登る。

細くたなびく朝雲と、白く輝く波頭を同じ色に染め上げながら
ゆっくりと太陽が姿をあらわした。

なんて綺麗なんだろう。
今のこの光景をずっと残せるんだから、やっぱり写真撮るべきだよね。
「さ、撮るよアッコ。メグも反射板持って」
「お、やっとナジャがやる気になった!」
「気が変わらないうちにさっさと撮ろう」

撮影は順調だった。

写真のモデルなんてやったことなかったけれど、
アッコが「海に向かって歌ってればいいよ。」
というので、そうした。
夜明けの海に向かって歌うのはとても気持ちがいい。

100枚ほど撮ってフィルムチェンジし、私もだいぶ撮られるのに慣れた頃
「じゃあ、今度は海に入ってみて」
とアッコが言い出した。
3月の初めで、海はまだ冷たい。
それに私は泳げない。
「泳いでみせろって言ってるわけじゃないからさ。
 浅いところの水際でいいから、死体になった気持ちで寝転がってみてよ」

3月の朝の海は本当に冷たかった。

「死体になったつもりで」
と言われたが、本当に生きた心地がしなかった。
しかもアッコの要求はどんどんエスカレートして結局腿の辺りぐらいの深さまで
海に入らなければならず、恐怖のあまり水の冷たさを忘れた。
その恐怖に耐えている私の表情が良い、とカメラマンのアッコは大満足だった。

「写真を撮るほかに、もうひとつやりたいことがある」
アッ子がやりたいことなんて、どうせろくなことではないだろうと思ってはいたけれど
それはアッコにしては大して面倒な要求ではなかったので、私とメグは快諾した。

「テレビのコマーシャルみたいに、砂浜を車で疾走してみたい」

それは、とても他愛無いことのように思えたし、
「それって、確かにちょっと爽快かも」
と、私とメグがつい思ってしまったのも、無理ないことだったと思う・・・・・・


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