Nicotto Town


錆猫香箱日和


そして、海へ  3

結果を先に言うと、この時の写真は
「絶対に賞をもらえる」
と本人が自身満々で断言したとおりになった。

『白昼夢』というタイトルのその写真は優秀な作品として高い評価を得て
アッコのところには、見習いとしてではなく、一人前のカメラマンとして仕事がくるようになったし、メグもこの時の写真を自分の作品のサンプルとして持ち歩き、しばらくして再びニューヨークに腕を磨きに出て行った。

私はといえば、週刊誌の仕事に早くも嫌気がさしていた。

オヤジは意地悪だし、インテリジャーナリストは自分の知識を鼻にかけてやたら議論をふっかけてくるし。

私の文章は独特すぎて雑誌むきではないとまで上司に言われちゃったし・・・。
私はこの仕事には向いてないんだな。

そうだ。
もう仕事なんて辞めて、結婚して主婦になっちゃおうかな・・・・。
今つきあってる男はいいとこのぼんぼんだから生活には困らないだろうし・・・。
明日さっそく話もちかけてみよう・・・。

と、まあこんな安易な発想で結婚しちゃった私は、本当に浅はかだった。
当然うまくいくわけがなく、結婚生活は2年ほどで破綻した。


そしてあの日の海辺の疾走。

あれも、物事はよく考えてから実行に移さないと、
あとで泣きを見ることになりますよ、のいい例だった。
「私が運転したい」
とアッコが言うので、私とメグが後部座席に乗った。
私もメグもアッコの運転する車に乗るのは初めてだったが
絶対荒っぽい運転に決まっているのでシートベルトをしっかりつけた。

予想どうり、アッコの運転は荒っぽい。

しかし、浜辺を車で疾走する爽快感はかつて経験したことがなかったので
私達ははしゃいだ。
何しろ気分がいい。
またもや大音量のローリングストーンズに、さらに煽られるように車は軽快に浜辺を
走る。
「アッコ、結構うまいじゃない。帰りの運転まかせちゃおうかな。」
「でもさ、結構長いつきあいなのに今までアッコが車運転できるなんて知らなかったよ。いつのまに免許とったの」
この自慢大好きな女が免許をとっても黙っているなんて、かつてないことだ。
こうして車を運転している今も、いつもより口数が少ない。
しばし沈黙したのち、口のはしでフッと笑ったアッコは

「車ぐらい免許がなくたって運転できるのよ!」

と前方を睨んだままハンドルを固く握り締め、さらにアクセルを踏み込んだ。

本日2度目の死ぬかもしれない恐怖。
本当に驚くと人間とっさにすぐ声が出ないらしく
わたしとメグは瀕死の金魚のように無言で口をパクパクさせた。


車は、それからいくらもたたないうちに動かなくなった。
タイヤに何の装備もせずに砂浜を走り回るうち、タイヤに濡れた砂が絡まり
タイヤが埋まって動けなくなったのだ。
まあ、普通に考えたら当然わかりそうなことなのだけれど、
本当に、若いということは恐ろしい。
なーんも見えていないのだ。
それから私達3人は、随分長い時間をかけて車のタイヤの砂を取り除き
埋まった場所から車を押して動かし、帰る頃には3人とも汗だくでヘトヘトだった。

アッコやメグとはなんとなく疎遠になってしまい、もう随分会っていないけれど
私の目の前にあるアッコが撮った『白昼夢』を見ていると、彼女達が今どこでどうしているのか、ちょっと知りたいような気がするけれど、下手に連絡して
『飛んで火にいる夏の虫』
になる可能性も全くないとは言えないので、いつか偶然再会するような事態がなければ、過ぎた日を懐かしむにとどめようと固く思っているのでした。

#日記広場:日記





Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.