Nicotto Town


錆猫香箱日和


北の大地で眠る友達へ

私が今住んでいるところは東京と埼玉の境目あたりです。
池袋まで20分ほどなんで、通勤には便利だし、
住んでいるアパートは知人が大家さんなので家賃も安くしてもらったうえに
おおっぴらに猫と暮らせる。
最高の環境なんだけど、何故か以前住んでいたボロアパートが
むしょうに懐かしくなったりします。

離婚後しばらくひとりで住んでいたアパートは本当は動物禁止でした。
にもかかわらず、大家さんにバレるまでこっそりにゃんこと暮らしていた私。
だって、私、猫がそばにいないと生きていけないんです。

そのアパートにはおもに外人さんが住んでいました。
隣の部屋だけ日本人の中年男性が、寝たきりのお母さんと2人きりで暮らしていて
たまに男性はお母さんと喧嘩をしているのですが、それがまた物騒な喧嘩で

「ババア、俺が毎日どんな思いでいるのかわかってんのか!殺してやる!」

などという怒鳴り声がしばらく続いたあとは、男性の号泣とさめざめとしたお母さんの啜り泣きが薄い壁の向こうから聞こえてくる。
そんな時は、私はいつも息を殺して部屋のあちら側で結局何も起こらなかったことに
ホッと胸をなでおろしました。

このアパート周辺の治安はあまり良くなくて、夜中にジュースの自販機が破壊されてなかのお金が盗まれていたり、夜中に女性が外国人に自転車で追い回されたり
私も留守中に窓ガラスを割られて家に侵入されたりしました。

私のアパートや、そのあたりいったいにブラジル人がたくさん住んでいたので
週に1回、木曜日になるとブラジルの食材を積んだ軽トラックが来くると、近所中の
ブラジル人の奥さん達が我先にと集まって食材を買い求めるのです。
私もブラジル人のなかに混じり、片言のブラジルの言葉と英語で食材の使い方を
教えてもらい、ブラジル食材を購入して家で作りました。
こういう食材を買い求めたくても、今は購入する方法がわかりません。
ブラジルの料理は内臓とか、ちょっと面白い調理をします。

そこから20分ほど歩いたところに、年取った秋田出身のお母さんがやっている
小さな小さな居酒屋さんがありました。
となりは酒屋さんとつながっていて、こちらはいつもニコニコした人の良いお父さんと
20年近く生きている年寄りの猫が店番をしていました。

お母さんの料理は、ハッキリいって素人料理でした。
普通の素朴な家庭料理以外はでてこないのですが
そのぶん価格がぐっと抑え目で
まずジョッキでビール飲みながらおまかせでお刺身やら煮物やら2、3品だして
もらって、焼酎の水割りなど飲んで、カレーライス食べても¥1500程度。
しかも、カウンター席が5人分あるだけという狭さで、
お客さんが多いときはパイプイスで飲むことになります。
一応奥に住居を改良した座敷もあるのですが、常連同士わいわいやるのが
楽しいので、誰も利用しようとしませんでした。
常連さんたちは単身赴任で遠いところから出稼ぎに来ていて
みんな家族から離れて一生懸命働いて、夜、疲れた体で
『おふくろの味』を求めて、近くの社員寮から通ってきていたのです。

なので、そのお客はとても異質な存在でした。

まだお店に来るようになってから日が浅かった私ですが
女性客がほとんどいなかったこともあってか、
私はすぐに常連として周りに認知されました。

ところが、私が来るようになる以前から通っているというのに、
その人はみんなが関りあいになるのを避けていました。
あきらかに肉体労働者でないその人は、
ちょっと人を見下すようなところがあり、
他のお客さんや、お母さんのことも下にみていたんだと思います。
嫌味なオヤジは自分が得意な雑学マメ知識をクイズ形式にしてみんなに出題しては、他の人がなかなか答えられないのを喜んでいました。

その程度なら、まだ目をつぶっていられたのですが、
許せないのは、その日お母さんの料理の腕をからかい
お母さんがとうてい作れる筈もないような料理をリクエストしたことです・。

私、人の作った料理にケチつける男って大キライです。
『俺のお袋の味は』
とか言う男を見ると虫唾がはしります。
「じゃあアンタは一生母ちゃんにメシ作ってもらえ!!!」
って思わず怒鳴りつけてしまう。

なんで、そのときも本当に本当に、頭にきたんです。
弱いものいじめも大嫌い・・・。


                                 後編に続く

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