<人魚の嘆き>
- カテゴリ:小説/詩
- 2011/02/01 02:19:54
「何事だ、この騒ぎは?」
「はっ、先ほどエクレーヌ様がおひとりで甲板をお散歩されているところを
人魚に襲われ、エクレーヌ様を庇った兵がひとり犠牲になったようです。
船内ですれ違った時エクレーヌ様にはあまり海に近づきすぎないように
申し上げておいたのですが、案の定・・・」
「それで、エクレーヌは?」
「エクレーヌ様はお怪我ひとつなく・・・自室にお戻りになられましたが
ひどくおびえていらっしゃいます」
「かわいそうに怖かったのだろう。
その兵にも気の毒なことをした。亡骸は清めて安置し、陸に帰ってからすぐに
葬儀を執り行うように。家族には私が直接詫びよう」
「それが・・・遺体は海に落ちた直後群がってきた鮫に食われ、
もう収容は不可能であります・・・」
「そうか・・・むごいことだ。いつまでこのような戦が続くのか・・・。
よし、とにかくエクレーヌのもとへ行ってやろう。
そのような参上を目撃したなら、エクレーヌは今頃自分を責めて
泣いているかもしれんな」
「いけませんわ、王子」
「は、これは姫様!このような時に護衛もお付けにならず、
おひとりで船内をお歩きになられるのは・・・」
「お前はもう下がってよろしい。
私はマカロン王子と話があります。お前は早く持ち場にお戻りなさい」
「はいっ!!」
「姫・・・」
「王子、エクレーヌのもとへ行ってはなりません。
彼女をそっとしておいてあげましょう」
「姫、もし誤解があるなら言っておくが、エクレーヌは私の妹のようなものだ。
彼女も私を実の兄のように慕ってくれている。
私が愛しているのは、明日婚礼をあげるそなただけだ。安心してほしい」
「まあ、かわいそうなエクレーヌ。
幼い子供が平気で虫を戯れで殺してみたりするのに似て
屈託がないというのは何て残酷なことなのでしょう・・・」
ああ、怖かった・・・。
さっきの、兵士を射殺した時の姉さんのあの目・・・。
人間を憎みきっている、憎悪に満ちたあの目。
もし私が明日王子の狙撃を中止したり失敗すれば、姉さん達はきっと私を殺す。
私にマカロン王子が殺せるだろうか・・・
この銃で王子を・・・
そういえば、私にこの銃を売りつけた行商人
ニコのタウンから来てイスカンダルへ向かう途中だと言っていたっけ。
あそこもそうとう危険な所だけれど、無事着いたかしら。
あの行商人に会ってからもうひと月も経つのか・・・
お城の庭園の植え込みのなかにその行商人はいた。
庭のお花を摘んでいた私は、植え込みの陰からつきだしている足にきづかず
あやうく転びそうになった。
「わあ、ごめんなさい。
ここがあんまり気持ち良さそうだから、ちょっと昼寝させてもらってました。
僕は怪しいものではありません」
と言いつつ名刺をさしだしてみせたその人はかなり怪しい風貌だった。
冬なのに、黄色いアヒルの浮き輪をつけ、背中にはカカシを挿している。
「お嬢さん、銃を買いませんか?」
唐突に彼は言った。
「僕はニコからイスカンダルへ商談に行く旅の途中なんですが、
旅の途中で受け取る予定だったコインがまだ振り込んでもらえず
旅費が底をついてしまったのです。
お嬢さん、御信用におひとついかがです?
これは『アーマーライトAR15”M16”という銃なんですが
装弾数が多く連射が効きますし、これはゴルゴ13が使用してるモデルなので
バラして持ち歩くのに便利ですよ。
お城住まいとはいえ、この国は物騒ですからな。
絶対お持ちになったほうがいい。
お安くしますよ。ニコの通貨で5000コインでいかがです?うひひ・・・」
行商人は腰は低いが押しは強かった。
結局あちらの言い値で購入させられてしまったのだが、
その行商人の言うとおり、この銃は機関部と銃床を分解して持ち運べるので
秘匿して船内に持ち込むには非常に都合が良かった。
いや、良かったと言っていいのか、複雑だ・・・。
ああ、もう、どうすればいいの?
王子を撃つくらいなら私も死んでしまいたい・・・。
っていうか、王子様の婚礼を見るのって死ぬより辛いわよ。
いっそマカロン王子とヴァニーユ姫を撃ってみんなで心中ってどうかしら?
「ねえ、カラス、夜通しずっと歩いてるけどなかなか町に着かないね。
山ってやっぱり広いなあ。
そういえば僕がまだ子犬だった時は
おじいさんと2人でこうしていろんなところを旅して歩いたっけ・・・。
あれ?カラス、聞いてる?」
「うるせえなあ、話しかけんなよ。
俺は寝てんだからよ。鳥は夜寝るもんなんだよ。知っとけ、そんくらい」
「あ、寝てたんだ、ゴメン。ただ背中に乗ってるだけかと思ってた。
鳥ってそうやって泊まり木につかまったままみたいな姿勢のまま眠れるから
便利だね。
山の向こうの町のどこかのおうちで今頃彼女も寝てるのかなあ?
おじいさんも僕を呼ぶのをやめてもう寝てくれたかなあ?」
「・・・やかましい。お前は黙ってとっとと歩け・・・・・・」
「うん、僕、頑張る!おやすみ、カラス・・・」
ディノとカラスの旅はまだまだ続きます・・・・・・