Nicotto Town


錆猫香箱日和


<悪い奴らの章>

『明日の婚礼で王子を狙撃せよ』

という姉達の命令に人魚が苦しんでいるのと同じ時刻・・・

船内の一室に目立たぬように寄り集まった3人の宦官達・・・・・



宦官というのは違反申告されたものなどや罪を犯したものに対する極刑で

男性の生殖機能を奪い、去勢した犯罪者を奴隷として使役するという

非常に厳しい刑罰を受けた者のなれの果てだったのですが

なかには才覚のある宦官もいて、お城で下働きをするうちにその働きを買われ

出世して王家直属の家来になるものまで現れます。

犯罪などを犯す人間はもともと頭の良い機転のきく人間も多く

とんでもなく教養のある人物もいるので、こういう輩が弁舌もさわやかに

世の中の道理なんぞ説いたりすると、お城育ちの純粋培養された王族は

世間知らずなものだから、彼らにコロリと騙されてしまうのです。

ここ、ニコタから遥か遠くの北の国では貧富の差が激しく、

『宦官』というのはひとつの出世の手段としてもてはやされるほどで

国民は競って浅田次郎の小説を読み

貧しいものは自ら手術を施し、自分もいつか宦官としての最高の地位まで

登りつめることを夢見るようになったのです。

では、この国で最高の地位まで上りつめた3人の宦官の密談を

ちょっと覗いてみましょう・・・・・・





「さっきの騒ぎを聞いたか?」

「うむ、巡回中の兵士が人魚に殺されたとか・・・」

「大丈夫かな。明日の婚礼は警備が強化されるのではないか?」

「はは。そんな事はなんとでもなる。我ら直属の兵も多い。案ずるな。

先ほどの1件は我らには逆に都合が良い。

我らが婚礼の最中に王子を狙撃しても、人魚どもに襲われたことにするのに

信憑性が増すではないか」

「なるほど・・・さすがじゃな、長生殿どの」

「中国では旅の途中で亡くなった始皇帝の遺体の匂いをごまかすのに

馬車に生の魚を山ほど積んだというが、我々はそんな手間をかけずにすむ。

なにせここは海の上なのだ。

人魚どもに襲われて海に落ちて鮫に食われて跡かたもなくなれば良い」

「あの王子がボンクラでなによりでしたな。

敵対している海の国で人魚達に囲まれて婚礼をあげれば

その豪胆さに我が国の国民は目を見張り、王子は国民に尊敬されます、

などという言葉をまさか真に受けるとは思わなんだ」

「前国王が見たら嘆くだろうよ」

「生きていればの話だがな」

「もし生きていればだ、王子が死ねば奴だけは我々の仕業だと気がつくに

違いない。そうなれば、きっと奴はのこのこ現れる筈」

「息子の仇を討ちにか?

それはあるまい、もうあれの家来はひとりとして生きていない筈」

「いや、王子を殺せば奴は必ず現れる。

前国王・・・我々宦官を排除しようとした、あの国王は決して許さん。

王子を殺せば奴も苦しむ。

俺は、奴を思うさま苦しめてから殺してやる。

我々宦官を侮った事を後悔しながら死ぬがいい・・・」

「おお、長生殿どの、そうですとも。

そして王子と国王亡きあとはまだ幼い王子を即位させ

我々が政治の実権を握るのです」

「月餅どの、言うまでもないこと。

それより狙撃に使う銃などは用意が整っておるのでしょうな?」

「ああ、それなら道明寺どのがちょうど旅の途中の商人から安く買い叩いて

あります。武器庫のものを奪うことも考えましたが、部品をバラしても持ち込む

には都合の良いつくりで良かったですな。

旅の途中で旅費がつきたとかでかなり安い値段で応じてきたようですな」

「さよう、しかもアヒルのうきわをつけたけったいな商人で・・・

ニコタから来たらしいが、いるんですな、あんなのが」

「念のためだ、王子を殺して国に帰ったら追っ手をだして

その商人もあの世に行ってもらおう。

旅の途中で我々に銃を売った話が広まれば、

国民は我々が王子を殺したのを察するかもしれん。

あの前国王もボンクラ王子も何故か国民の支持は篤いからな。

デモなんかやられた日にゃあ面倒だ」

「あ、それならワシ、部下にちょっと携帯でメールしておくよ」

「まかせたぞ、道明寺どの」

「うむ、じゃあ明日に備えてそろそろ寝るか・・・」




宦官達がひとりずつ部屋を出て

暗い船内をコソコソと移動し、それぞれの部屋にひきとっていきました。

海はあいかわらず凪いでいて、月はこうこうと輝き

船上で寝ずの警備をする兵士達のなかに少しだけ疑問が生まれます。




この美しい海が、何故自分達の敵国なのだろうか?

いや、以前はここは敵国などではなかった・・・

以前は我々は確かに海の国の民と共存していた。

いや、共存というより、海の恩恵を受けていたのだ我々は・・・

そうだ、国王がまだこの国を治めていらっしゃる時は

我々国民はみんな海の国に対する感謝を忘れなかったものだ。

国王がいなくなってから宦官どもが海を支配するなどど言い出して

それから戦争がはじまったのだ・・・。



国王よ、あなたがいればこのような無益な戦いをしないですみます。

もし生きておられるなら、どこでどうしておられるのですか・・・

どうかご無事で・・・我らの王よ・・・。

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