実家猫太郎の日記 ~記憶 完結編~
- カテゴリ:ペット/動物
- 2011/05/14 00:34:31
猫は雨の日はとても眠い。
僕達は濡れるのが嫌いで
雨の日は狩りをできないから、雨の日は体力を温存できるように
神様が僕達をつくったらしい。
「雨が わたしを眠らせる 眠っていいと 雨が言う」
いつだったか寝ている僕を指さして、あのしゃがれ声のやつが
歌うように言っていたっけ。
誰か有名な詩人の詩らしい。
それにしてもさっきの騒ぎで僕疲れちゃったよ。
ああ、お母さんてば僕の夕飯をすっかり忘れてる。
ここはご先祖様からの風習に従うしかないな。
温存、温存。おやすみなさい。
太郎・・・・・太郎・・・・・・・
僕を呼ぶのはだあれ?
あれから泥のような眠りにひきこまれて・・・・・・
何時間経ったんだろう?
お母さんが病院から帰ってきたのかな・・・・・・・
僕は薄く目を開けた。
辺りがとっても明るい。
夜が明けたのかとも思ったけれど
そういう尋常な明るさではない。
目をあけていられない、目をあけてまともに見たらば目が潰れてしまいそうな
真っ白な発光が部屋に満ち満ちていた。
太郎、太郎・・・・・・
その部屋に満ちている白い光の本体と思われるものが僕を呼んでいる。
僕が目を凝らしていると、その光が僕のほうにゆっくりと近づいてくる。
「太郎!」
お父さん!!
お父さん、帰って来たの!
僕、またしばらく会えないと思ってたのに、こんなに早くまた会えるなんて!
僕は目の前のお父さんめがけて地を(いや、畳みを)蹴った。
思いきり抱きしめられたい、ジャンピング抱っこ!!
した筈が・・・・・・
あれ?
僕の体はお父さんを通り抜けて、お父さんの後ろ何メートルかのところに
着地していた。
お父さん?!
今、僕のジャンピング抱っこを避けましたか、お父さん?!
僕が重くてジャンピング抱っこなんて受け止められないっていうの?
僕、お父さんが入院中に頑張ってダイエットしたから今7キロないよ!
軽いよ!
僕は長いしっぽをバサバサ畳みに叩きつけながら
ニャオーン!!とお父さんに抗議した。
お父さんは困ったように下を向いて鼻の頭をかいた。
お父さんはさっきここを出て行った時の白い甚平に
金色のピカピカした大きなベルトをしていた。
そして、手にはこれまた大きな金のトロフィーを持っていた。
トロフィーに人がカブトムシみたいな格好で組み合ってる絵が彫ってあって
その絵の下に「 栄光をたたえる 」 っていう言葉が彫ってある。
どこかで見たと思ったら、居間にたくさんおいてあるのと同じだよね。
お父さんは満面の笑みで
「これはな、お父さんがたくさん頑張ったから
神様がお父さんにくれたんだ」
神様が?
すごいね、お父さん、よかったね。
僕も頑張ったら神様がトロフィーくれるかなあ。
「そうだな、頑張ったらな」
まだ早いがな、とつけたしてお父さんは笑った。
お父さんのこんな笑顔を見た僕は嬉しくなった。
お父さん、抱っこして。抱っこ、抱っこ!
僕はニャア!ニャア!と鳴いてお父さんに抱っこをせがんだ。
お父さんはまた困ったように笑って、太郎、と呼んだ。
「太郎、もう待たなくていいぞ」
お父さんがそれを言い終わると同時に
お父さんから稲妻のような光が出て、光が天を刺し貫いた。
光と一緒に爆風が巻き起こり
僕は目をとじて必死で猫タワーにしがみき
それから僕は意識を失った。
「お母さん!!太郎が大変!!」
けたたましいしゃがれ声とともに、強い力でいきなり背中を摑まれた。
「うわあああ、お母さん!
このコ、こんな畳の上に糞尿たれ流して、自分の汚物まみれになって
グッタリしてるんだけど!病院いかなきゃ、病院!!」
と、言われて気がついた。
僕はいつのまにかトイレじゃないところにウンチとオシッコをしていた。
僕はハッキリいってかなり賢いコで、今までトイレの失敗はしたことがない。
このときはウンチもユルユルの完全な水状態で
だから僕は自分のウンチとオシッコにまみれてグチャグチャだった。
「どうしたの?太郎?」
静かに言いながらお母さんがゆっくり部屋に入ってきた。
そしてお母さんは、汚物まみれの僕を抱き上げてくれた。
そして、僕をしばらく黙って見つめた後、
お母さんは振り向いてなにやらギャアギャア言ってるあのバカ娘に言った。
「太郎は病気じゃないわ」
「いや、どう見ても病気でしょ。今洗面器にお湯持ってくるから
それで拭いて病院連れて行く。お母さんは戻ってて」
「太郎ちゃん、お父さんがここにお別れを言いに来たのね?」
そうだよ、お母さん。
お父さんはね、頑張ったから神様にベルトをもらったんだよ。
僕の喉が嬉しくてゴロゴロ鳴った。
お母さんは、僕をしっかりと抱きしめて
汚れていない僕の顔に、自分の顔をぎゅっと押し付けた。
続く