落語【スイーツ長屋】(前編)
- カテゴリ:グルメ
- 2011/05/22 03:40:42
エエ、お暑うございます。
こう暑いと皆さんお疲れでございましょう。
暑いとき、甘いものってェなあいいもんです。
疲れたとこに甘い冷たいアイスなんてなあ最高で、
こう喉を通るたびに疲れた体もじィんわりとろけていくようで。
江戸時代でもこういう暑い時分になると、冷や水売りが
ひや~い水う、あま~い水う、なんて呼ばわりながら売り歩いたもんですが
だんだん世の中贅沢になって、砂糖水なんかじゃァ
いまじゃだあれも振り向きゃしません。
「ああ、暑い。ちょっとアンタァ何とかしとくれよオ」
「何とかったっておめえ、仕方ねえだろうよ、こういう時節なんだ。
今から暑がっててどうするんでえ。
今年は地震の影響で、真夏に計画停電あるかもしれねえってのによ。
とりあえず、コンビニでアイスでも買って来て食いねえな」
「コンビニでアイス!あんた、大事な女房にそんなガキみたいなもん
食べさせるつもりかい!あたしァ今から隣の奥さんと銀座のプランタン行って
週代わりで販売してる限定スイーツ買ってくるから、あんた家で庭の草でも
刈っていておくれ!昼飯は冷蔵庫のもん適当にレンジでチンして食べな!」
「ええ、おめえまた出かけるン!レンジでチンってェおめえ・・・
あー行っちめえやがった・・・。
仕方ねえ、草でも刈るか。手入れを怠るとメガらねえしなあ・・・。
お、隣の旦那も芝刈り機持って出てきたね。
尻にしかれてんねえ、あの旦那も。
旦那、おはようございます」
「ああ、おはようございます」
「へへ、本当にあいつらときたら、困ったもんですなあ。
テレビやらパソコンやら携帯でデパートで買える限定スイーツだの
おとりよせスイーツだのチェックして、年がら年中甘いもん食ってやがるン」
「ハハハ、そうですなあ」
「しかも、買ってきても食うのはてめえだけ。俺の口になんざァ
切れ端だって入りやァしねえ」
「ハハハ、全くですなあ」
「ちょ・・・旦那さん、大丈夫ですかい?
お宅の奥さんもウチと同じでしょう?
ふたァりしてつるんで毎日情報交換して一緒にああして出かけてンだから。
それとも旦那さんも家で限定スイーツ楽しみにしてるン?」
「いえ、全然。奥さんは僕にひとくちだって買ってきたお菓子は食べさせて
くれませんよ八ッハッハ」
「いや、ハッハッハってあんた・・・。もしかしてあんまり奥さんがやってることに
関心ないン?」
「ええ、僕は自分の奥さんのやることは全然全く毛ほども微塵も爪の垢ほども
興味がないですね。ハハハ」
「アンタ、自分の奥さんに興味がないン!
それってアレかい、愛情は全くないけど仮面夫婦みたいな・・・」
「いえ、僕は自分の奥さんを愛してます!
ただ彼女の行動に全然全く毛ほども微塵も爪の垢ほども
興味がないっていうだけ。アハハ」
「興味がないってったって限度があらァな。
なんか、朝から妙に複雑な話聞いちまったなァ。
でもまあいいか、本人達はそれでうまくやってるんだから
下手に首突っ込むこともねえやな」
「いえ!よくありません!!」
「うわ!大家さん!!いつからそこに!!」
「ずっとこのメガ薔薇の陰にひそんでいました。
今週は『待ち伏せ週間』と回覧をまわしていた筈ですがお忘れですか?
誰も僕のチャットの相手をしてくれないのでここでずっと誰かが通るのを
待ってたんですが、奥さんたちは僕を無視するし、君たちはなかなか気が
ついてくれないし。でもまあ満を持して登場できて良かった。
恋バナは僕の最も得意な分野ですからね」
「いや、大家さん恋バナってわけじゃないですよ・・・・」
「僕はね、これはやはり男と女の脳の構造の違いだと思うんですよ。
旦那さんとしては、奥さんにこれ以上ないほど寛大な態度で接している。
もう男として最大級の愛情表現でしょう。
ところが、女性としてはこの寛大さを自分に無関心なのではないかと、
だんだんもの足りなくなってくるわけです。
自分に女としての魅力がなくなってきたんじゃないかしらん?
とまあ、こんなふうに思いだすと、今度は自分の魅力を試したくなる」
「試すってェと?」
「誘惑するんですよ。今時のパティシエなんかは結構若くてイケメンが
多いです。店に足しげく通って顔なじみになり、言葉をかわすようになる。
そして・・・」
「そして?」
「そこからどんどん親しくなっていき、メルアドなんかも交換しちゃって
ちょっとそのうちどこかで食事でもなんてことになり、とうとう・・・」
「とうとう?」
「浮気に発展するわけです」
「浮気!!」
「ぼ、僕の奥さんが浮気!!
イヤだ!!絶対にイヤだ~!!」
「泣くな!アンタの奥さんはまだナンもしとらん」
「大家さん、僕はどうすればあああ!!」
「まあまかせなさい。僕に考えがあります」
てなわけで、男3人メガ薔薇の下で密談がはじまったようで・・・。
続く