落語【スイーツ長屋】中編
- カテゴリ:グルメ
- 2011/05/22 21:47:34
世間ではよくソフトな顔つきのハンサムのことを
『甘いマスク』などど言いますな。
もっともこんなのァちょっと古い言い方で、
最近ではちょっとイイ男なら何でもかんでも『イケメン』とか呼んでますが。
ちょっと爽やかで好感が持てる雰囲気で若い男だったりしてさらに
やれテニスが上手いの野球が上手いの料理が上手いのなんてえ若いお兄さんは
顔立ちなんてえどう見たって十人並みなのに簡単に
『イケメン』のくくりに入れてもらえる。
『イケメン』の大安売りでございます。
そんなわけですから、イケメンのハードル越えは以外とたやすい。
「大家さん、どうかウチの奥さんをその若いハンサムなパティシエから
取り戻しておくんなさいよ。どうかこのとおり、お願いいたします!!」
「おいおいちょっと旦那さん、お宅の奥さんはまだ何もしてないんだから。
土下座はよしねェ、土下座は。
ウチの女房とデパートに甘ェもん買いに行っただけなんだから。
大家さんもねえ、この旦那さん気が弱いんだから、
あんまり煽るのァどうかと思いますよ」
「うわああああん、僕の奥さんを返して~!!」
「さあ、お立ちなさい。いや、僕はね、君の奥さんを思う気持ちに感動しました。
僕には大家として、このご近所の平和と秩序を保つという使命もありますし
君の奥さんの気持ちを取り戻すのに僕は協力を惜しまないつもりです」
「お、大家さあああん!!ありがとうございます!!
僕は悪いハンサムなパティシェから奥さんを取り戻すためなら何でもします!
で、さしあたり、僕はどうしたらいいんで?」
「まずね、旦那さん言っておくけど君は人一倍さえない容貌の持ち主だ」
「あい?」
「君はメタボで手足も短い昔ながらの日本人体型で服装もダサいうえ
頭の頭頂部もハゲかかっていて加齢臭がするうえ息も臭い。
人が良いだけがとりえの小汚い中年男です」
「うわああああん!!ひどい!!」
「大家さん、あんた鬼か?」
「本当の事をお伝えしているだけです。
自分の真実の姿がわからなければ、それを変える事は難しいですから。
敵はハンサムなパティシェですよ。メタボで加齢でハゲが、
どうすれば彼から奥さんを取り戻せると思いますか?」
「うえええん。僕はメタボで加齢臭でハゲで・・・
若いハンサムな男に勝つなんて無理なんで・・・」
「諦めるのは早いですよ。
若くもなくハンサムでなければ別の魅力でアピールすればいい!!
パティシェというのは美味しいお菓子を作れても自分がお菓子にはなれない!
ならばこちらは自分が甘いお菓子になってしまえ!
名づけて『打倒ハンサムパティシエこっちの体はあーまいぞ全身お菓子
人間ヘンゼルとグレーテルあの子もこの子も寄っておいで作戦』です!」
「お、大家さん、そいつァ一体どういう・・・
そんなに全身汗だくになってポーズまで決めちゃって・・・。
何か認識変わるね、オイ」
「僕は、僕は何でもします!奥さんのためなら!」
「死ぬ気でやりましょう!!
君は今日から奥さんのために『人間お菓子』になるのです!!
奥さんがこの世で一番愛し、心のよりどころとしているあま~い
スイーツ!!君自身がスイーツであれば、
奥さんには何の不安もないはず!!
さあ、さっそくその凹凸のないのっぺりしたさえない顔に甘いクリームを!
その毛むくじゃらの短い手足に、奥さんを夢の世界へ誘うチョコレートを!
奥さんは帰ってきてきっと驚きますよ。
朝出かけに別れた旦那さんが、クリームとチョコレートで全身武装した
スイートな騎士になっていたら、どんなに喜ぶと思いますか?
さあ、ぜんは急げです。
さっそく支度にかかりますよ!!」
「あい!!」
続く