落語【スイーツ長屋】完結編
- カテゴリ:グルメ
- 2011/05/25 21:15:18
悋気は女の慎むところ、疝気は男が苦しむところ、なんてェます。
やきもちの焼きようがよいと、よろしい具合になるようで。
うまーくお焼きになると、焼かれたほうも嬉しい。
ところがですよ、なかには何もないうちから先まわりしてお焼きンなるかたもいる。
アラ、あなたどこへお出かけ?誰とお会いになるの?
嘘でしょう、どうせキャバクラかなんかに行って小娘相手に鼻の下
お伸ばしになるんでしょう。どうせもう私は若くもキレイでもございません。
お好きになさったらよろしいでしょう。なんてェ言ってムクレて焼け食いする。
ご自分で絵に描いた餅を勝手に焼いてらっしゃる。これはいけません。
あとで思わぬ大ヤケドなんてェことにならないよう、火の用心。
「こんにちわァ~あら、旦那さんまた壁を塗り替えなさったんですか?
まあ、今日の壁も美味しそう。今回はブランデーを香りづけに使ってますのね。
ブランデーの芳香でお庭いじりをしているだけで酔いそうですわァ。
まあ浮かない顔をなさってどうかなさいました?
そういえば奥様はまだお休みですか?」
「はい、妻はまだ休んでいます。
昨夜も遅くまで警邏していたものですから」
「あー聞きましたわ。最近は旦那さんのお味が評判が良くて、
口コミで噂になって他県からも旦那さんを食べに来るかたがたくさんいるとか」
「はい。おかげさまで、妻のために自らスイーツになったのですが
思いがけずいろんなかたがたに喜んでいただきまして・・・。
ただ中にはやはりマナーのあまり良くないかたもいらっしゃいまして
私や妻に何のことわりもなくあがりこんで食べ散らかしていくかたも
驚くほど多いですし、全く面識のないご婦人がウエディングケーキの土台に
すると言ってお一人で大量にお持ちになったり、ひどいのになりますと夜中に
僕が寝ている間に軽トラで裏に横付けして、大量に盗んでいくなんてェのも
おりまして・・・」
「ああ、それで警察が来たりなさってたのねえ。大変だわねえ」
「お騒がせします。お詫びといっては何ですが、今日の壁もお持ちください。
最近妻が雇った専属のパティシェ何ですが、なかなか凝ったものをつくります」
「あら、悪いわァ。でも最近ではウチの主人も楽しみにしているので
お言葉に甘えていただきますわ。
ただいま、あなたァ。またお隣からいただきましたよォ」
「ああ、またいただいたのかい。しかし、隣も最近大変大変だなァ。
ご近所で最近あの旦那のことでちょっとモメたみてェだなあ。
先日あすこンとこの角のワン公が、旦那さんのチョコレートの部分を食べちまって
ひっくり返って病院に連れて行かれただろう」
「ああ、あれね、この近辺の愛犬家が団体で抗議にきてたわねェ。
動物虐待だって」
「あの犬は結局中毒で死んじまったらしい。
飼い主はかなり怨んでるてェ話だ」
「物騒なことになって来たねェ。
大家さんにでも相談するかねえ」
「職人さん、今日もご苦労様。
新しい壁、素敵なお味だったわァ。
ね、今年のクリスマスはあの部分をプディングにしてフランベしたいわ。
主人がスイーツになってくれたおかげであなたと知り合って、
私いま本当に幸せなの。
ね、このままずっとここに・・・2人で一緒に住まない?
私のハンサムなパティシエさん」
「2人って・・・。
お忘れですか奥さん、ここは旦那様のお腹の中ですよ。
ここにいる限り、僕達が2人になれるということはないですよ」
「あら、それもそうね。主人があんなだから私つい・・・。
それはそうと、何だかこの部屋暑くなってこない?服脱いじゃう?」
「それはさすがにマズイでしょ。外へでましょう」
「アチチチチチ~!!助けて~!!」
「主人の悲鳴だわ!何かしら!」
「とにかく表へ出てみましょう」
「どうしたの、あなたァ・・・まあ!!大変!!」
「助けてくれ!!誰かが、誰かが僕のお尻に火を!!」
「火事だ!早く119番に電話して!いや、そのまえに消火器を!!」
「早く~~!!僕のお尻が燃えてる~~!!」
「ああ、ウチの主人が燃えているわ・・・。
これで・・・これで私は自由になれる・・・。
ごめんなさいアナタ、私この通いの職人さんが好きになってしまったの。
もう私と別れてください。サヨウナラ!!」
「な!!!お前、ちょっと待ちなさい!!落ち着いて話し合おう!!
僕に悪いとこがあったら何でも言って!!絶対直すから!!
お願い、行かないでェ~~!!」
「お隣さん、どうかして・・・きゃあ、火が!!
大変あなた、お隣が火事よお~~!!」
「うわ!!今消火器を!!消防車を!!」
「いえ、消防車は結構です。こんな苦しい思いをするぐらいなら
僕は自分のお尻に身を投げますから。
フラれ男のフランベです」
おあとがよろしいようで・・・