お題ファッション【眠る背広】
- カテゴリ:ファッション
- 2011/08/02 13:27:13
我が家の猫は換毛期関係なく、よく毛が抜ける。
メスの黒猫のまめ嬢は真っ黒いツヤツヤの短毛なので
季節の変わり目ぐらいしか抜け毛は気にならないのだが、
オスのサバ白、ミック王子はいつブラシをかけてもワサワサ毛がとれる。
普通の短毛なのだが結構毛足が長く、ホワホワしている。
生後2ヶ月で拾ってきた時はまるでタンポポの綿毛のようで
しかもその柔らかい白い塊から
不釣合いなほどまっすぐな、長いしましまの尾っぽがピインと伸びている。
この白い綿毛はあっというまに大きくなり、
半年も経った頃には先住猫とほぼ同じ大きさになっていた。
そしてこのあたりから抜ける毛の量がハンパではなく
甘えて擦り寄る王子様のお体に軽く触れただけでワサ~・・・
ひとなでするごとにワサ~と毛が抜ける。
王子と暮らすようになってから、
私は家で着る洋服と外出時に着る服を完全に分けた。
外出する時は、先に化粧をして出かける寸前に玄関で着替える。
それでもいつのまにか白い毛がいたるところについていて思わぬ恥をかく。
先日デパートのセールに行き
かねてから目をつけていたパンツスーツを試着した。
私は女性にしては体がデカイ。
しかもデカイ体にテナガザルのような細く長い腕がついていて
これが曲者なのだ。
案の定、試着したスーツは身頃はちょうどいいのに
パンツのサイズも申し分ないのに、袖丈だけが腕の8分くらいまでしかなく
涙をのんで試着したスーツを脱いだ。
脱いでみて驚いた。
黒のパンツと上着の内側に細く白い毛がモヘアのようにまんべんなく付着してる。
「うわ、どうしよう~」
しかしサイズのあわない服を猫の毛がついたからと購入するわけにもいかない。
「お客様いかがでしたか?」
試着室から出た私に満面の笑みを浮かべて聞く店員さんに謝り倒し
逃げるようにデパートをでた。
その点、着物や浴衣は良い。
仕立てる時や着付けで袖丈などはいくらでも調整がきく。
だから、というわけでもないのだけれどほぼ毎年新しい浴衣を買ってしまう。
最近は新進のデザイナーがデザインした浴衣などもあって見ていると
楽しくてつい買ってしまう。
が、この『今年の最先端』というのがどうも恥ずかしい。
私は洋服でもいかにも新品、というのが苦手で
買ったばかりの服はまず着ない。
くちゃくちゃに丸めて最低1年は箪笥の奥に寝かせておく。
スーツと浴衣は丸めるわけにもいかないので、購入したら衣装ケースに入れて
どんな高価なものでも1~3年は眠っていただく。
なので我が家にはまだ熟成中のスーツと浴衣が何着も未使用で眠りのなかにいる。
昨年父が亡くなった時に遺品の整理をしていて驚いた。
ガラクタの山だったからだ。
若いとき、父はレスリングで七年連続日本一という偉業を達成したため
引退後コーチをするかたわら、招かれて大きな試合の審判をすることも多かった。
その試合で使ったホイッスル、おそらく全てとってあったのだ。
何十個というホイッスルである。
それから、警視庁や自衛隊でもらったマスコットのキーホルダーやストラップ。
父は何故か警視庁のキャラクター『ピーポくん』が好きで、
以前から父の部屋には警視庁からもらった大きなピーポくんのヌイグルミがある。
しかし、そんな夥しい数の『ピーポくんコレクション』を見たのは初めてだったので
何十個というピーポくんを前に私と母は絶句した。
そして蔵書の山とさらなるガラクタをかきわけると大きな長持ちが発見された。
嫌な予感を覚えつつ、長持ちを開けると
なかは全て新品のスーツだった。
20着以上あるだろうか・・・。
どれも上等の生地でつくられていて、オーダーメイドである。
「お父さんたら~!」
母は怒っていた。
無理もない。
父はいつも着古したものばかり身につけていて
上着はもちろん靴下だって穴があいていても捨てずに身につけていた。
こんなに大量の新品の服がありながら、
作ってから一度も袖を通すことなく逝ってしまった・・・。
きっといつか、とっておきの時のためにとっておいたのだろう。
父は自分が癌に冒されながら、生きる希望は一度も捨てたことがなかったのだから。
スーツはオーダーメイドだからやたらに人にあげるわけにはいかない。
かといって、不要なものをこのままにしておくのは母の主義に反するらしく
母は父の新品のスーツを捨てる、といってきかなかった。
しかたなく、スーツの入ってる長持ちごと私がアパートにひきとることにした。
大量のホイッスルとピーポくんコレクションというオマケつきで。
父のスーツの入った長持ちと、私の浴衣コレクションの入った衣装ケースは
現在私のアパートで仲良く並んで眠っている。
さらにその長持ちと衣装ケースのうえでは
我が家の猫がそれぞれ1匹づつ
箱いっぱいにながーく伸びて気持ち良さそうに眠っている。