夕空が晴れたなら Ⅳ
- カテゴリ:小説/詩
- 2011/08/09 01:02:56
「ねえシン、やっぱりわたし花火って苦手!」
空で色とりどりの光が弾けていた。
花火があがるたびにバリバリという轟音が耳をつんざく。
空が、花火の光で彩られるたびにワァッという歓声があがる。
闇の中で、川面が花火の爆ぜる光を映してパチパチと光っている。
それにしても・・・すごい人混みだ。
しかし困ったわ・・・
ママに「パパを連れて帰ってくる」なんて簡単に言ってしまったけれど
この人混みのなかをどうやって捜せばいいのだろう。
しかも、もしパパを見つけたとして何て言う?
「あなたは今日を堺に行方不明になるのでその前に迎えに来ました」とでも?
時間移動はどうする?
私ひとりで時間を行き来できるということはわかったけれど
人を移動させるというのはちょっと難しいような気がした。
「あ~あの時そこまで考えてなかったあ!!」
思わず叫んで天を仰いでしまう。
それと一番の問題は
私がパパの顔を覚えていないということ・・・。
やっぱりちょっと早まったカナ・・・。
私はチラリとシンを見た。
そうよ、私にはこの子がいるんだわ。
頼りになるボディガードとして舞さんが私につけてくれた子なんだもの。
きっと助けてくれるよね?
気がつくと、自分の体が光っているのに気がついた。
でもさっきのタイムトラベルの時とは何となく違う。
自分の体の一部・・・額のあたりが
まるで蛍のようにチカチカと明滅していた。
そして、まるで何かに吸い寄せられるかのように
私の体は空間を流れるように移動している。
いつのまにか体が地面から数センチ浮いていた。
人ごみの中にいるのに誰にもぶつからず
そして周りの人間も誰も私を気にとめていない。空気みたいに。
橋を渡ろうとして、私はハッと立ちすくんだ。
何故だか鼓動が早くなり
体中の血の流れとともに、額の光の明滅が早くなっているような気がした。
そして、10メートルほどの橋の向こうに
今の私と同じように立ち尽くしている人がいる。
まさかパパ?
小柄な体格の人でメガネをかけている。
銀髪が表情を柔らかくみせている。学校の先生みたいな雰囲気だ。
その人は自分と違って額は光ってはいなかった。
その人が着ている白い麻の上着のポケットのあたりが
自分と同じ色の光を発し、同じリズムで明滅していた。
まるで呼びあってるみたいに・・・。
そう、多分共鳴しあっている。
光の明滅は早くなるばかり・・・。
向こう岸の男性も自分の胸のあたりから発せられる光に驚いているようだ。
こちらにはまだ気がついていないのか、
首を傾げながらしきりに自分の胸のあたりををまさぐっている。
と・・・
ふわり・・・と銀髪のおじさんのポケットから何かが飛び出し、
フワフワとおじさんの顔の前に浮いている。
それはちょうど男の人の拳ぐらいはあろうかという大きさで
ブラックオパールみたいな黒いキラキラした石だった。
石は、そのまますうっとおじさんの頭上へ垂直に浮き上がったかと思うと
見る見るうちに空高く舞い上がっていった。
高く、高く、すごいスピードで空に吸い寄せられていく。
そして、その輝きが完全に空の彼方に飲み込まれ
何事もなかったように静まり返った。
完全に消えたと・・・思った次の瞬間には
再び天でキラリと光るものがあった。
石は、先ほどより輝きを増しながら降ってきた。
花火の音と一体になり
バリバリと轟音を立てながら、
先ほど空に登っていった位置から放物線の弧を描いた軌道で
まっすぐこちらに向かってくる。
まるで意思があって狙い定めているかのように。
でも、動けない。
ああ、ダメ!
もうぶつかる!
眩い光に思わず目を瞑った。
バリバリ・・・と自分の頭上に衝撃を感じ、思わず頭をかばい身を伏せた。
が・・・
頭上に衝撃を感じたものの、自分の体に異変はない。
あれ・・・?
恐る恐る目を開けると、私は透明の球体、
シャボン玉のような形のバリアで守られていた。
シンの力に違いなかった。やっぱり頼りになる!
黒い石はシンが作ったバリアに激突した衝撃で二つに割れていた。
そして跳ね返った石はあらぬほうへ飛び私の目の前にいた親子を直撃した。
お父さんに肩車されていた女の子の額に石がモロに直撃し
女の子は衝撃で跳ね飛ばされ、頭から地面に叩きつけられた。
お父さんのほうはみぞおちあたりに石を受け、
やはり数メートル跳ね飛ばされた。
そして石はキラキラと光を発しながら
そのお父さんの体に吸い込まれるようにして溶けていった・・・。
ハッと我に返ったその人の体は、
今度は全身真っ白い光でおおわれていた。
そして、稲妻のような強い光を放った次の瞬間には
その人の体は跡形もなく消えていたのだった。
でも私は消える瞬間のその人の顔に見覚えがあった。
一瞬だったけど間違いない。
あのひとは、江戸時代にいたお花さんの旦那さん、
善吉さんに違いなかった。