Nicotto Town


錆猫香箱日和


【夕空】別バージョン rainさん編 Ⅱ

このお話は【夕空 別バージョン rainさん編Ⅰ】の続きです。




私も少しずつ思い出してきた。

何故夏祭りも花火大会も嫌いな理由が分かった。

そうなのだ。あの3年前の夏祭りの花火の日

ママとママのお友達数人で花火大会を見に来ていたのだ。

ところが、私は迷子になり、あっちこっち探し回って泣いていた。

花火の音と喧騒で声も聞こえず、そして届かず探し回っていた。

人ごみから離れた土手のところまで来たのはなんとなく思い出した。

後は舞いさんが言うとおりのことが起きたのだろう。

『それでどうしたんですか?』結衣が尋ねると

『何もしていません。足を踏み外したあなたを助けただけですと

父がママさんに話して、あなたをママさんに渡しただけ』

『ママに石の話はしなかったんですか?』

『普通の人が聞いたら信じられないことだし、罷り間違うと

アブナイ人だと思われるので何も話さずその場は別れました』

『それで3年も見張っていてくれたのですか?』

『ええ、それが父の遺言だったからね』

『結衣さんのお父さんお亡くなりになったのですか。どうして?』

『父はもともと悪かった心臓病でね。父も力を授かりその力は自分の研究にも

役立つものだったの。そのせいでかなり無理をしていたようです』

『どんなことですか?』

『詳しくは語らなかったけど、何でも自分が知りたい知識が過去のもので

あれば瞬時に頭の中に正確に蘇るそうで、論文でも辞典でも辞書でも

自分の眺めていたものなら何でも今見ているように思い出すことが

出来たようです』舞さんの瞳が少し潤んでいた。

『父はあなたのことをすごく気にしていて、その研究もしていたみたい。

私はあなたの家の前に行き、時たまあなたに変わりがないか見ていました』

『シンは?』 『シンは最近預かったの。私がよくあなたの家に行くと話したら

あの子優しいから、自分がかわりに見に行くと言って引き受けてくれたの』

『そうだったんだ。今までありがとうございました』

『いいえ、私達にも関係があることだから気にしなくていいの』

と舞が話していると雷の音がかすかに聞こえてきた。

『あら大変、もうこんな時間。外も雨が降り始めそうね。お話はまた今度にして

今日は急いで送ります』言うと部屋を出て行った。





外は小雨が振り出していて、遠くで雷の音が聞こえていた。

この時期に多い通り雨のようだ。時刻は6時を少し過ぎたところ

家の前まで来ると、なにやらパトカーやサイレンの音が聞こえてきた。

家の近くに差し掛かったとき、不安な気持ちが広がり胸騒ぎがし始める。

家の前について運転手さんに降ろしてもらうとお隣のおばさんが駆け込んできた。

『結衣ちゃん、お母さんが大変なことに!』

『え!ママがどうかしたの?』

『今そこで車にはねられて病院に運ばれたの』

運転手さんが 『それはどこの病院ですか?』と尋ねてくれた。

『自由が丘救急センターと言っていました』おばさんが言うと

『結衣さんお乗りください。お嬢様に連絡して至急そちらに向かいます』



病院につくと、運転手さんが受付とか色々回ってくれて

今手術に取り掛かったそうで、手術室まで運転手さんが連れて行ってくれた。

どうしたのだろう。震えが来て考えることができない。

そこへ舞いさんが駆け込んできてくれた。

『大丈夫?結衣ちゃん』というと抱きしめてくれた。

真っ青な顔で自分は震えているらしかった。

手術室の中が慌しく、急に動き出したのがわかった。

手術室のランプが消えて執刀医が出てきた。

舞さんと私のもとに近づくと『誠に申し訳ありませんが、搬送された時点で手遅れ

でどうにも処置の仕様がありませんでした』というと頭を下げて立ち去った。

『テオクレデドウニモショチノシヨウガアリマセン』

この人は何を言っているのだろう。

自分がよろけて階段の手すりをつかんだ時に

また自分の体が光り始めたのが分かった。

まばゆい光りに包まれながら、自分の体にシンが乗っていることさえ気づかず

流れる涙を拭こうともしないで、この世のすべての歴史と進化の過程を

結衣は自分の体で感じていた。







ドーンと勢いよく壁に当たって意識が戻ってきた。

『あれ、ここ同じ場所だよね』思わず口に出してしまっていた。

さっきと同じ風景の場所にいるのに、舞さんも運転手さんもいない。

手術室のランプは消えたままだが、さっきはあきらかに人の気配があった。

『結衣、気がついたなら急いで外に出なさい』

シンの聞きなれた言い回しが頭に入り込んできた。

『シン、どこにいるの?』

『結衣、とにかく急いで外に出るんだ。外で待っている』

『そうか、ここにはシンは入れないのね。急いで出ます』言うと駆け出した。

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