【夕空】別バージョン rainさん編 Ⅲ
- カテゴリ:小説/詩
- 2011/08/15 22:55:39
このお話は【夕空別バージョン rainさん編Ⅱ】の続きです。
外は雨が降っていた。あたりを見回したがシンの姿が見えない。
『シン、どこにいるの?』頭で強く念じてみた。
『結衣、心配は要らない。見えなくともすぐ近くにいる』
『え!どういうこと』結衣があたりを見回す。
『いいかい、よく聞きなさい。今、結衣がいる世界は赤羽邸で
舞さんと話をしている同じ時間帯に結衣がタイムスリップしたのだ。
したがってこの時間帯に、赤羽邸とこの病院とに同じ人間が存在するというこだ。
ここまでは理解できるかい?つまり私もあちらに存在しているのだ。
だから、ここでの過去の自分に私の存在を気づかせてはいけないと思って
力をセーブしているし、結衣の周りにも防御のカーテンで包んでいる』
『何か大変なことなの』と結衣が聞き返すと
『それは自分にも分からないけれど、同時に同じ人間が同じ世界にいるのは
不条理だろう、何があってもおかしくない。危険を感じている』
『そうだ、ママが・・・・・・』いきなり記憶が戻ってきた。
『ママが死んじゃった』大粒の涙が頬を伝い落ちる。
『気持ちはわかる、でも今はどうにかしてこの世界からでないと
何が起こるかわからない。それ程危険な状態なんだ』
『シンのバカーー!結衣のたった一人の・・・・・・舞さんのところで・・・
シン、この世界のママはもしかしてまだ生きている?』
『事故の時間は詳しくわからないが、多分生きてると思う』
結衣が急に駆け出し始めた。『どうしたんだ、結衣』
『急いで電話かけてみる、家にいたら出かけないように伝えるの』
『結衣、歴史に関与するのはよせ、何が起こるかわからない』
『じゃ~、シンはママが死んでもいいと思っているの?それとも目の前で
ちょっとのことで助かる人がいるのに助けることもしないの?』
『結衣の言ってることもわかる。しかし昔からいろいろな学者が
パラレルワールド、多次元宇宙論というのをいろいろ言ってるが
本当のことは誰にもわからない。歴史を変えるともしかすると
いろいろな矛盾によりこの世界が崩壊することだってあり得るのだ』
『私には難しいことはわからない。それより今は何があってもママを助ける。
もう、それだけで十分、後はそれから考える』
そう言い捨てると、病院のロビーの電話に走っていった。
『お願い、ママ出て!』携帯電話にママが出ない。
家の電話も留守番電話になってしまう。どうしたらいいのか。
『シン、どうしよう。ママが出ない』 『行くより他に方法がないのだろう』
『どうやって、私お金持ってきていない』
『タクシーに乗って行き先を告げれば連れて行ってくれるはずだ。
お金の有無を調べるわけじゃない。最悪ママに出してもらえば済む』
『ああ、そうだね。タクシーを捜そう』
『ここは大きな病院だ。外に何台か止まってるはずだよ』
『うん、外に向かう』と言いながら、もう走り始めていた。
小雨が降ってる病院の正面玄関の端の方に
数台のタクシーが乗客者を待って並んでいた。
『あれだ!』と叫んで、結衣は先頭の車両に乗り込んだ。
『○○町の○○番地まで、急ぎでお願いします』 結衣が言うと
『あいよ、お嬢ちゃん、○○町の○○番地だね』運転手が言うと静かに走り始めた。
タクシーの時計は5時40分を指している。ここの場所は前から知っている。
さっきは頭がいっぱいでどのくらいの時間でここに着いたかは
はっきり覚えていない、多分飛ばしてきたから早かったのだろう。
多分車で20分ぐらいの距離だったと思うのだが。
『シン、どこにいるの?聞こえてる?』
『すぐそばにいる。結衣にも運転手にも見えないけどね』
『間に合うかな。どうしてもママを助けたいの』
『ママさんの事故に遭う時間がわからない。私が変に力を使えば
もう一人の私が必ず気づいてこちらに向かうかもしれない。それは避けたい』
『どうして?何かまずいことでもあるの?』
『私自身、不思議な大きな力を使っている。そして未来と継っている。
力と力がここで出会うと、何が起こるか私にもわからない。
もし私が消えるような事態になったら、結衣一人をこの世界に残してしまう。
何よりもそういう事態を避けなければならない』
『そうか、そういうこともあるのか・・・』頭で話しているうちに
外の風景が結衣の普段見慣れた自宅近所の風景に変わってきた。
時間は6時を少し超えたところだ、この大きな交差点を右折すれば
後わずかの距離だ。
交差点を過ぎてしばらくもう一回右折するときに、その大きな音が響いてきた。
けたたましい、ブレーキのスリップ音と衝突音。
結衣の心臓の鼓動が一段と早くなった・・・・・・・