【夕空】別バージョン rainさん編 Ⅳ
- カテゴリ:小説/詩
- 2011/08/15 22:57:11
このお話は【夕空別バージョン rainさん編 Ⅲ】の続きです。
タクシーの前に数台の乗用車が止まり、その先に大きなトラックが
変な方向を向いて止まっており、ハザードランプが悲しげに光っていた。
『運転手さん、ドアを開けて!』というか言わずのうちに
結衣は自分でドアを開けて走り出していた。
外は小雨が降っていて、乗用車の運転手とか数人が
トラックのところに集まりかけていた。そしてその人の端っこに
ママ愛用の傘が折れ曲がって、雨に打たれていた。
その先にはママが寝ていた。怪我をしているようで血が流れ出していた。
『ママ・・・』と叫ぼうとしてよろけて、乗用車の影に座り込んだとたんに
また結衣の体が光を放ち始めた。
まばゆい光に包まれ、この世のすべての歴史と進化の過程を垣間見ながら
結衣は強い意思で『絶対にママを助ける』と流れる涙を拭おうともしないで
誓っていた。
『結衣、急いで起きろ!まずい!』その声にハッとして意識が戻った。
車の横に自分が倒れこんでいて、少し先にはトラックが横づけで止まっている。
なんとなく状況がわかった、ここはほんの少し前の時間で
ママが車にはねられた後の時間なのだ。そうして・・・・・・・
『結衣、とにかくそこから移動して、見つからないように隠れろ。
タクシーが今止まった、時間がない急ぐんだ』
地面に倒れ込んでいたため、服がびっしょりと濡れている。
夢でも幻でもない、これが現実の世界なのだ。
体を起こすと道路脇の家の庭に飛び込んだ。
『シンどうしよう、ママを助けられない』言うと同時に涙が溢れてきた。
『結衣、しっかりしろ!気持ちはわかるが今はその場を離れろ
結衣の感情が高まれば、私がガードをかけていても、この世界の
シンに気づかれてしまう。今はとにかくこの場から少し離れるのだ』
『うん』涙を流しながら結衣が答えて、家の裏手の方へ回っていった。
『シン、ママを助けるのは無理なのかな?』家の裏側に出て狭い道に出た。
『私にも何ともいいがたいのが事実だ。事故の前にたどり着けば
歴史を変える事にはなるが、助けることは可能だと思う。しかし私の体のある
未来では、ママさんはすでに死亡している。助けたとしてもこの世界のママが
助かるだけなのかもしれない。私にもわからないのだ』
『?どういう事?ここで助かるのだから未来でも助かるのじゃないの?』
『そこのところははっきりと私にも分からない。今現在私の知ってるかぎり
帰るべき私達の未来は、手術後のあの未来なのだ。歴史を変えると
その未来も変わってしまうのか?私にも経験のない事態なのだ』
『え!余計わからなくなる。助けることができないの?』
『時間理論の考え方は、パラレル・ワールドとかいろいろなことが言われているが
実際に誰も証明したことがないし、時間を旅したという人の文献もない。
少し難しい話になって、結衣にはわかりづらいかもしれないが
今現在が人の歴史の中で初めての経験だと思って間違いない。
何が起こるか本当に、何一つ分かってはいないのだ』
『どうしたらいいの?分かることを分かるように教えて』
『事故にあわないようにして、助けようとするなら事故より前の時間に
この場所にたどり着かねばいけない。後は助けてどのようになるか・・・』
『わたし、ママを助け・・・・・・』涙が止まらなくなっていた。
そしてその時、またしても結衣の体が光り始めていた。
涙に滲んだまばゆい光りの中で、結衣とシンはこの世のすべての歴史と
進化の過程を食い入るように見つめていた・・・・・・・
シンがいきなり話しかけてきた。
『結衣、お前の右手が光っている。どうしたのだ』
結衣は自分も気がつかぬうちに、右手を強く握り締めていた。
確かに右手が光っていて、ほのかに暖かく何かがその中にある。
ゆっくりと右手を持ち上げて、そーっと広げてみる。
そこにはキラキラと輝く、ブラック・オパールのような石が握られていた。
『これが舞さんのお父さんがみつけた宇宙の石?』
『ああ、そのようだな。初めて見るが、不思議な力を秘めているのがわかる』
『初めて?舞さんのは?見ているだけでわかるの?』
『舞の持っていた石は輝きをなくして崩れ去ったとのことだ。
結衣には感じられないかもしれないが、不思議なパワーを出してる』
『そうだ!』結衣もシンも同時にあることを思いついた。
『これでもしかしたらどうにかなるかもしれないね』
『ああ、やることが決まったな。ここで全力の力を使えば
結衣を気絶させずにタイム・スリップした時間に戻すことができる。
結衣は急いでその石をママの傷口に当てるのだ』と言うと
肩の位置に乗ってるシンの毛並みが立ち上がり始めた・・・・・・・