Nicotto Town


錆猫香箱日和


ちょっとだけ泣きたい日

数日前から下の一番奥の歯がグラグラして抜けそうになっている。

しゃべるとき、物を食べる時はもちろん何もしていない時でも激痛が走り

あまりの痛みに飛び上がりそうになる。

この歯は5年程前に歯医者 「来週抜きましょう 」と言われたのをバックレて以来

痛みを騙しながら放置してきた歯で、痛いことは痛いけれども本来使えないという

認定をされながら5年も使えたことがお得感が感じられて嬉しい。

よく頑張った、愛い奴じゃと褒めて上げたい気持ちになる。

でもやっぱり痛くて、夜もおちおち眠れなかったりする・・・。

しかも最近お隣の部屋に越してきた若い夫婦がまだ新婚でラブラブ状態らしく

私が歯の痛みに耐えつつ頬にアイスノンをあてがい、のた打ち回っていると

晩たびあふんあふんという夫婦の夜の営みの声が薄い壁越しに

ビンビン伝わってくる。

お隣は角部屋で彼らの隣は私だけだから、猫を相手にテレビもなくひっそり

暮らしている私の隣だとどのくらい音が筒抜けなのか多分分からないと思う。

女性はとても元気で、彼女が食事などしながら旦那さんに話してる内容も

私にはまる聞こえで、何だかこちらが申し訳ないような気すらしてくる。

歯の痛みは日増しに激しくなり、最近パン屋さんにパートに行ってるのだけど

私は今のところレジ専門で、高校生のときにパン屋でバイトした時は

半日でクビだったから、せめてレジ操作だけでも置いてもらってるのは

高校生の時よりは進歩したのかな、と思いたい。




じつは少し前に会社を辞めた。

40で無職になるというのはちょっと思い切った選択だったけれど

やっぱり辞めて良かったと思う。

世間話とか人の噂とか普通の女子がするようなタレントの話題なんかも全く

興味がなかったから、全然輪に加われなかったし、

多分彼女達から見たら扱いづらい気難しいオバサンだったろう。

私のいなくなった職場は俄然風通しが良くなって喜んでいるに違いない。

だからこれで良かったのだ、と思いたい。



去年あたり、営業の私が時々販売のほうも兼任し、着々と顧客を増やして

売り上げを伸ばし始めてから、反感はジワジワと増していたのだ。

デパートなどに商品を宣伝販売しに行くととても評判が良くて

私が商品を説明して購入してくれたお客様からデパートにお手紙がきた。

そのお手紙でお客様は私のことを絶賛してくれており

「専門的な知識を素人の私にもわかるよう非常にわかりやすく

かつ興味深く説明してくれて、他のデパートや他社で扱ってる商品も

把握して薦めてくれてとても親身に相談にのってくれそのときの彼女の

豊富な知識と行き届いた対応に感動した」

という内容のもので、これはデパートのイメージアップにもなるらしく

私はデパートの偉い方達からかわるがわる声をかけていただき

その後そのデパートはとっても居心地が良くなり、私もやりがいを感じていた。

ところがこういう話がデパートから会社にいったのはあまり良くなかったらしい。

まあ日ごろ私を疎んじている人たちからすれば面白くはないだろう。

で、去年あたりからそういう面白くない状態が続いたところで

最近私のことを待ち伏せしたり、会社に私の居場所を問い合わせてくるような

ストーカー化した客が現れてしまったのです。

もちろんこれは「いい気味」なので、誰も私を庇ってくれる人間などいない。

「色気なんかで客釣って商品売ったりしてるからバチがあたったのよ」

という冷笑と嘲り。

加えて客の「一緒に食事に行きましょう」の待ち伏せには

もう辞職という決断をするしかなかった。

悔しくて、久しぶりにちょっとだけ泣いたけれども

誰のことも恨んだりしないようにしようと決めた。

みんなそれぞれの立場や価値観があって

本当にいろんな生き方がある・・・つくづく思った。








さっき近所のここいらのボス猫、五郎蔵親分が手下のキヨジを連れて

ご飯をもらいにきた時、今日も首チョンパした雀をお土産にくれた。

五郎蔵親分は始めは半殺しの雀をくださることが多かったのだが

私が不束者ゆえ雀が生きているとせっかくのお土産を逃がしてしまう。

なんで気をきかせてちゃんとトドメをさしてくれてやったのにもかかわらず

エサくれババアは全く喜ぶ様子がない。

で、最近は「これなら文句あるまい!」とばかりに首チョンパである。

ちなみにキヨジのお土産は死んだ蝉だった。

これは親分より決して前に出ないことをよく心得たいいチョイスだと思う。



彼らがご飯を食べて帰ったあと、私は首の無い雀と死んだ蝉を

アパートの敷地内につくった共同墓地に葬った。

雀も蝉も、可哀相だが仕方の無いことだった。

今夜の私は猫よりも、首の無い雀のほうの気持ちになっている。

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