セレブレイト・キャット(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/10 20:00:45
とある日の夜。ボクが住む家の家族であり、いつもボクを可愛がってくれているおねえちゃんが――涙に濡れた目で帰ってきた。
その様子を見て、ビックリしたおかあさんが理由を尋ねると、おねえちゃんはワッと泣き出した。
「……どうしたんだろう。おねえちゃん、何か嫌なことがあったのかなぁ」
ボクは、いつものお気に入りの食器棚の上から、その様子を見ていた。
でも、普段めったに泣かないおねえちゃんが、ポロポロポロポロ涙をこぼすから、ボクは不安になったんだ。
「ねぇ、うめバァ。おねえちゃん、どうしたの?」
食器棚からぴょこんと飛び降りて、ソファーの上から様子を見ていたうめバァに、ボクは尋ねた。
「……うるさいねぇ~。だれかれすぐ聞くんじゃなくて、ちったァ自分の頭で考えな!
だから、お前はバカ猫なのさ!」
不機嫌そうに、うめバァは喝を入れた。
……あ、『うめバァ』っていうのはね、ボクがこのおうちに来る前から、ずーっとここの家族と暮らしている、おばさん猫なんだ!
今みたいに、怒ると恐いんだけど……。
ボクより長生きな分、物知りなんだよ。
「うーーん……」
うめバァに言われたから、ボクは、尋ねずに考えることにした。
じっと様子を見てれば、そのうちわかるだろう……と、思ったその時。
「トラにーたん。おねえちゃん、きれいなおはなをもってるよ」
ソファの下から、ボクを呼ぶ声がした。
ボクの弟分・チビの、ちょっとあどけない声だった。
「ああ、チビか。……本当だ。『ブーケ』ってやつだなぁ。誰にもらったんだろう」
「おねえちゃんが、かってきたのかもしれないよ?」
「むむ、そういう手もあるな……」
やや小さめの、可愛らしい色と包装、花々でまとめられたブーケは、彼女にとてもよく似合っていた。
きっと、彼女の好きな花・好きな色が、たくさん散りばめられているのだろう。
「~~あんたら馬鹿だねぇ。ようく、もう片方の手も見なよ」
呆れたように、となりのうめバァが声を上げる。
ボクとチビは、つられるように、ブーケを持った方とは反対の手に視線をやった。
「……あ!ぴかぴかのわっかがはまってる!!」
「指輪だねぇ。出かける時には、してなかったよね。やっぱり、ブーケもあの指輪も、誰かにもらったんだ…!」
「ふふ、やっとわかったかい?」
満足そうに、うめバァは笑った。
「……姉ちゃんはさ、これからきっとお嫁に行くのさ。それで、嬉しくって母ちゃんに報告してるんだよ」
そう、目を細めながら言ううめバァは、どこか懐かしむような、寂しげなような横顔をしていた。
「悲しくって、泣いてるわけじゃなかったんだね……」
「だね。よかったね!」
「ハハハ、その間逆さね。……そうかい、あの男、ついに姉ちゃんに申し込んだのかい…」
ボクらの、視線の先。
そこには、すでに涙を拭って――嬉しそうに、左手薬指の指輪を見る彼女の姿があった。
まわりには他の家族が集まって、ピカピカ光る銀の指輪を、囲んでいるようだった。
「…『あのおとこ』……?うめばぁ、そのひとのことしってるの?」
「ああ、アンタたちは会ったことないだろうがねぇ。一度だけだが、アタシを撫でてくれたことがあるのさ。大きくって、あったかい手だったねぇ。あの手なら、姉ちゃんも安心して、一緒に暮らせるだろうさ」
ボクは、その男の人に会ったことはないけれど。
きっと、優しい人なんだろうなと思った。
「おねえちゃん、お嫁に行くならお祝いしないと!ねっ、うめバァ!そうだよね?!」
今までボクらを可愛がってくれたおねえちゃんが、そのうち、このおうちを出て行ってしまうのは悲しい。
でも、ボクらだって『家族』なんだから。
一緒にお祝いしないと。『おめでとう』って気持ち、伝えないと!!
「でも、ぼくたち、どうやったらおいわいできるのかな?」
チビが、首を傾げ、不安そうに言う。
「……はっは。なら、猫らしく獲物でも取ってきて祝ってやるかい?」
「でもぉ……。むしとかとりとかねずみとか、ぼくたちがとってきたえもの、にんげんはよろこばないよ~」
ボクたちの言葉は、人間には届かない。
では、どうやって、気持ちを表すべきだろう……?
(後半へつづく^^)