Nicotto Town


錆猫香箱日和


【抱きしめたい動物】 私のモンスター

降りしきる雪を踏みしめて、山の中腹あたりにある山小屋を目指して歩いていた。

肩に担ぐようにしている、彼の体重が私に重くのしかかる。

担いでいる彼の身長は私よりかなり大きいので、担いでいるというより

半ば引きずっているといったほうがいいかもしれない。

やっと探し出して再会できた私の恋人。

何年も行方を追っていて、やっと会えた私の愛しい人。

でも彼が目を覚ますことはもう永久にない。

だって私が彼の心臓を銀の弾丸をこめたピストルで打ち抜いたのだから・・・。




彼は、月光を背に、白い雪の中に立っていた。

灰色の剛毛に覆われたその顔にかつて人間だった頃の面影はなく

長い鼻梁の下の口は半ば開き、鋭い牙が覗いていたし

ピンと立った両耳、小さな鋭い目・・・。

それは完全にオオカミ人間になった彼の姿だった。

人間の理性を失った目は、野生の狼としての悲しみに満たされ

首を低くして、顔の位置が肩より下にある姿勢は

かつてテレビで見たことがある狼そのものだった。

「会いたかった・・・ずっとあなたを捜していたのよ・・・」

思わず彼に歩み寄ろうとしたけれど、

狼になった彼は鼻にシワを寄せ、うなり声をあげながら後ずさっている。

ああ、そうか、私が手にしているリヴォルヴァーが怖いのね。

そう、私はあなたを殺さなければいけないの。

ネオ・ナチの研究所から脱走したあなたを始末せよ、という指令。

もと恋人の私に狼男になったあなたを追わせて殺させるなんて

なんて非情な命令なんだって人は言うけれど

じつは自分で志願したことなの。

あなたとこうして再会したら本当は

2人とも死んだようにみせかけて姿をくらませて

どこかでひっそり暮らせればいいと思っていたのだけれど

もう完全に人間の理性をなくしてるあなたを見て考えが変ったの。

あなたを殺します。




ピストルに込めている麻酔弾を、狼男の心臓を打ち抜くために

銀の弾を手にし、麻酔弾をピストルから抜いた瞬間、

彼は背を向け跳躍した。

すばやく弾を込めなおし、宙を舞う彼の背から

過たず心臓を打ち抜く。

ピストルの音が高く山に響き渡り彼が前のめりに倒れる。

恐る恐る近寄ると、彼はもうピクリとも動かなくなっていた。

と、空がにわかに掻き曇り、空から真っ白な雪が舞いはじめ

あっというまに吹雪になってしまった。








山小屋に到着すると、私はまず小屋にぐるりとオイルを振りまき

マッチでそれに火をつけてから

彼を小屋の中に横たえた。

みるみる赤く爆ぜる炎の中でみる彼の顔は

かつて人間だった頃の彼の顔に戻っていた。

この顔がずっと見たくてたまらなかったの。

あなたに会うこと、私の望みはたったそれだけ。

他には何もいらないの。

あなたがいなくなって、私がひとりで生きていくことに

意味なんて全然ないから。

あなたがいなければ、私にとってこの世界は生きてる価値が何にもない。

私が自分で手にかけたあなたと一緒に死ぬことができるなんて

なんて幸せなんでしょう。

残念なのはあなたが生きてるうちに

こんなにも私があなたを愛してるってことを伝えられなかったこと。

すぐにそこに行くわ。

私のこの想いを伝えに・・・。







私達はこれで永遠にひとつ。

ここにあるダイナマイトに火がついて粉々になってしまえば

どっちの体だったかなんてもう何もわからなくなって

本当にひとつになれる気がするの。

ああ、遠くのほうで犬の声がしているわ。

さっきのピストルの音を聞きつけて

あなたを追っていた他のハンター達が集まってきたのね。

あの人達が来る前に私達、消えちゃいましょう。

永久に続くくちづけを交わしながら・・・。










                                       ~ fin ~

#日記広場:ペット/動物





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