リセットボタン
- カテゴリ:自作小説
- 2012/05/27 12:19:51
真っ暗だった・・・体がしびれたようにあまり感覚がない。ぼんやりした頭を何度か振ってみると、ぼそぼそと話しかけているような声に気がついた。
何だろう・・・耳を傾けてみる。平板なその声は、俺の生い立ちを話していた。あまり家庭的には恵まれなかった子供の頃。ねたましさから、裕福で気弱なヤツをイジメ倒した。
周りから嫌われ、自分もやたらと攻撃的だった中学時代。真面目に心配して世話を焼いてくれた教師もいたっけな・・・
酒、たばこ、シンナー・・・いっぱしのワルを気取っていた高校時代。親と教師がせめて高校は出ろと何とか算段して押し込んでくれた最低ランクの高校。良くない仲間としかつきあわなかった。
高校中退。どの仕事も、すぐやめた。遊ぶ金は欲しかったが、まともに働くのはイヤだったし、働く場所もなくなった。
暗闇の中で目に浮かぶのは見たくもない光景ばかりだった。だのに声を聞くと次々と光景は浮かんできた。
女の顔。白くて、目を半分開けて、髪がぐしゃぐしゃに乱れている。肩を揺するのは俺の両手だ。ぐらぐら揺れる首。鼻からつうっと赤い血が流れる。蝉がうるさい・・・あ、蝉ではない、ガキが泣いているのだ・・・
もう見たくない、見たくない。だのに目をぎゅっと閉じても、女の顔は消えない。
声が優しくなった。辛い人生だったね、これからもあまり良いことはないかもしれないね・・・さあ、リセットしてみないか・・・もう一度はじめからやり直してみないか・・・
真っ暗な中にかすかな緑色の光が見えた。
「ほら、押してごらん、すべてをリセットしてみよう・・・」声に誘われて、重たい腕が上がる。リセット・・リセットできたら!ボタンに指が届いた。
「やぁ、終わった。何分?38分45秒か・・・。記載してくれ、死刑執行*月*日午前10時38分。
ま、このやりかたですめば俺たちは気が楽だよ、な、リセットボタン、自分で押すんだからさ。どれ、コーヒーでも飲みに行こうか」
確かにラクだけど、なんだか面白いです(笑
そういえば私はのんのさんの小説初めて見ました(笑