星の魔法少女~誕生物語~ 【その1】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/09/09 22:26:35
――レンズ越しの世界には、何が見える?
私には・・・悪意が見える。
罵倒こそされないけれども、それよりも辛く、陰湿な――嘲笑する少女たちの束。
彼女たちは、極めてマイノリティな性質を持つ人間には、容赦なく「排除」の罰を与えるらしい。
昼間はそんな黒い群ればかりを、視界いっぱいのレンズに映し。
私はただただ、夜が来るのを待つ。
それも、星が綺麗に瞬く、晴れやかな夜空を・・・。
夜に空いた時間ができると、私はひとりで、近くの丘へと向かう。
右手には、もう幾度となく読み返し、角が擦れた星座図鑑を。
左手には、専用のものとは程遠い、形ばかりの望遠鏡を。
夏が過ぎ、秋の風が色濃くなった丘は、星空も幾分澄んでいるように見えた。
広大な暗幕の内に包まれた星々は、まるで宝石を砕いたような煌めきだ。
丘の頂上へと登り、立ったままその光景を見つめる。
ここは、私だけの秘密の場所。
そして、何よりも心癒される、お気に入りの場所――。
しかしその日は、私以外にもうひとり、丘にやってきた者がいたのだ。
先客なのか、私のすぐ後から来たのかはわからないが。
「ニャーオ」
後方からの鳴き声に振り返ってみると、そこには一匹の黒猫がいた。
しっぽをゆるく振り、私の顔をじっと見ている。
「ニャーオ」
ふと、もう一声鳴いたその猫の首元で、何かが揺れたのに私は気付いた。
「・・・時計?」
一瞬、飼い猫の、首輪の鈴かと思ったのだが。
ちらりと揺れたのは、赤みがかった、小さな丸い文字盤だった。
「お前、変わってるねぇ・・・。首輪に、鈴じゃなくて時計なの?」
その文字盤を近くで見ようと、苦笑しながら、私はその場に屈み込んだ。
そして、そのほんの数秒の後。
不思議な黒猫の体は、無数の光の粒に包まれて・・・その姿を変えたのだった。
【つづく】