Nicotto Town


魍魎ノ井戸


11月自作/「都会『近所付き合い』」 1


「お前もなんだかんだでモテてるんだろ?」
「あはは、お姉さんおだてても何も出ないよ、って言うか彼女出来たんでしょ?大切にしなさいよね~」
俺の部屋に遊びに来てはそう気さくな笑みを浮かべて、吸っていた彼女はタバコの煙を吐いた。
確か彼女がスっていたのは赤マルだったかなんだったか、その時の俺は煙草には詳しくないので彼女が吸っていた種類が分からなかった。
「うるさいなぁ…野次馬かよ、お前も旦那できるんだろ?来月結婚なんだって、よかったじゃねぇかさ」
「うん、でも私都会の方に引っ越しちゃうから、そうそう気軽には会えなくなっちゃうね」
苦笑気味に彼女は何かを抱えてるかの様にむず痒そうな顔で答えた。
この年上のお姉さんこと夏生(なつき)は来月嫁ぎにこの地方の田舎から、結構な都会に引っ越すらしい。
俺は彼女とは家が隣で、近所だったこともありお互いの両親と仲が良く結構な頻度で遊んでもらっていた。
俺が高二だった頃、彼女は確か大学の二、三回生だったか…確かそれくらい年の差は離れていたような気がする。
「まぁ、何がどうであれお前はお前の幸せを見つけたんだし、俺は俺でなんとかやってくよ。元気でな」
「うん…また今度彼女と遊びにおいでよ!そのときは色んなのご馳走するしさ」
「分かった。その時が来たら一緒に遊びに行くよ、っとなんか飲み物取ってくるわ。なんか欲しいのある?」
その時だった、彼女は何の前触れもなしに俺の背中に抱きついてきたのだった。
「ち、ちょっと何してんだよ!こら旦那に怒られんぞ、離せってば」
その時の俺は彼女の行動について何も分からなかった。いや薄々分かってたはずなのに、そんな態度しか取れなかったんだ。
「ご、…ごめん。でも少しの間こう…くっついててもいいかな?」
「わかったよ…」
俺はそんな彼女の気持ちを分かっていながらも突っ立ってることしかできずに、二人共淡い想いを胸に抱いて、そのまま残酷にも時だけは過ぎていったのだった。

*

あれから季節は秋。線香花火の季節は終わって、蝉も街からいなくなって、徐々に肌寒い日々が訪れようとしていたそんな頃、出逢いはふと突然に訪れるものなんだと俺に痛感させられる出来事が起こったのだった。
「は、はい?」
「え?いやぁ、だから今度お隣に引っ越してきた稗田ですよ。今後共よろしくお願いしますね」
彼女はニコニコとした笑みで粗品を持って俺の家と言うか部屋に挨拶に来たのだった。
「いや…それはわかったんですけど、なんでこんな処にきたの?えっ…ちょっと、ちょっと待って!」
俺は少し小汚いというかそこそこ綺麗と言うか取り敢えず整備はされている3階建てのアパートに住んでいる。そしてつい先日、俺の隣に引っ越してきたのは昔馴染みの姉貴分の稗田夏生だった。
彼女が引っ越したのは、確か旦那に嫁ぎに行ってからだからもう随分久しぶりな気がする。
と言うか何故今更になって、俺の元に、しかも隣の部屋に引っ越してきたのか。
未だ状況の整理は尽きないし混乱もするが・・・
「まぁ…はい、そうですか。それはどうも…」
と歯切れの悪い返事で返した後に、
「なんで俺の住んでる場所まで来て、更に隣に引越しに来るんだよ!ってか旦那はどうしたんだ?喧嘩でもしたのかよ…ったく」
「まぁ~その件もあるんだけどちょっとあってね。また後でその件で寄るから、その時にまた話すよ、まだ住んでる人全員に挨拶できてないし」
「あ~、わかった。またチャイム鳴らしてくれたら出るわ・・・」
「わかった!あっ、そうそう後で飲みに来るし酒の準備しといてよね!」
「え~、あ~わかったよ、酒準備しておくわ。この際なんでもいいんだろ?」
「うん、それじゃ後で!」
彼女、いや夏生は苦笑交じりにそう答えて、俺に一通り挨拶を終えて別の部屋に挨拶に行ったのだった。
「それにしても、なんで今更…」
薄々理由は気づいてるけどここは知らないふりをしておいたほうがいいんだろう、きっと
俺はそう思い酒とつまみを適当に準備しつつ、彼女がここのアパートに住んでいる住民に挨拶が終えるのをただ待っているのであった。

ピーンポーン…ピーンポーン…
「おっ、来たかな?」
ちょうど日が暮れた頃、俺は鳴らされたチャイムで夏生が来たことを確認して、中に招き入れたのだった。
「で?なんで今更こっちに来たんだよ、ってかお前、俺の居場所を知ってて来ただろ」
「まぁね~、よく分かってるじゃない。さすがは幼馴染っ!」
「からかうな…酒とつまみ用意したし、飲むか?」
「ありがと~!へへへっ」
俺が手渡した缶のプルタブを思い切り引っ張ってプシュッといい音をさせた後に乾杯も言わずに一人でゴクゴクと飲み始めた。
まぁ乾杯も言わずにって別に何かおめでたいことがあったわけでもないのでする必要はないのだが・・・
「ぷはぁ~っ!まっ、住んでる場所はおばさんから聞いてから、そこに敢えて引っ越してきたんだけどね」
「ってか、さっきから言ってるけど旦那はどうし…」
「あぁ、あの人?死んだよ」
さっきまで暖かい筈だった空気が一変して少し冷たいものに感じられた…気がした。
「…えっ?」
「だから死んだって、ついこの間」
「その話、俺聴いてないよ」
「当たり前じゃん、私からおばさんに口止めしてたんだし」
人が死んだことを淡々とした口調で話す夏生に、俺は少し困惑気味になっていた。
「だって加奈ちゃん亡くなってだいぶ滅入ってたし、流石にこんな話したらあんた絶対自分のことそっちのけて私の方に来るから黙ってもらってたんだよ」
「あー、まぁー、確かにね、有り得る」
「だから旦那もいなくなってフリーになって愚痴とか色々溜まってることだし今日はお互い吐き出しちゃおうよ、ねっ!」
そうは言う夏生が俺の処に来た理由は別になるんじゃないかと、俺はその話を聞いて少し考えは纏まりつつあった。

「でね~、わだじがね、ごういっでるのび…」
「あ~、もう分かったから喋んな、ちょっと横になっとけって」
夏生はずっと酒に酔ってからはずっと泣き上戸だった。
それからは「姑がどうこの、旦那がいなくなって世間様との肩身が狭くなったどうこう、旦那が付き合ってから一度も性交をしてくれなかったのどうこう」で
なんだか聞いてる方が厄介になる話ばっかを泣きながら綴られるをただ延々と聴き続ける作業を続けるだけだ。
そしてさっきとうとう酔い潰れてしまったので、今は夏生を介抱してベッドに寝かせて俺は後片付けをしてる真っ最中で、
「ったくあいつは昔からああなんだから、まぁでもあいつも変わってなくてよかったのかなぁ?」
そう感じながらも俺は少しこれからの生活に期待を抱いていたのだった。

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2013/10/25 14:51
11月自作/「都会『近所付き合い』」 2
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