Nicotto Town



『椛もみもみ』 1

 同棲生活といえば、付き合っていた彼女以外に俺はしたことがない。

そもそも高校は両親と一軒家の自宅、大学は最初は一人暮らし、大学生活が終わって彼女と死別するまで同棲をしていた。
正直言うと、家族と彼女以外の知人と暮らしたことなんてない。
しかもそれが死別した彼女の妹と同棲なんて、展開が急すぎて頭が追いつかない。
だが「こんな事」でグチグチ言う程、俺の心は狭くないのであくまで「同居」しているのだが……
俺の彼女松永加奈は通り魔の殺人事件の被害者として、若くしこの世を去ってしまった。
その後その事件から立ち直った俺には災難と言うべきなのか、ラッキーと言うべきなのか……
一ヶ月前には幼馴染で年上の姉気分的な存在の稗田夏生が、隣に引っ越してきて、その二週間前には加奈の妹の松永椛が俺の住んでいる部屋に転がり込んできた。
この一ヶ月で本当にこの二人の所為で生活を掻き回されたと言っていいくらい、俺の生活は様変わりしたのだ。

「ちょっと、お兄ちゃん! 今日の僕の朝食はパンでいいって言ったのに~!」
 俺が自分で作った晩ご飯に対して、椛は俺にそうイチャモンをつけてきたのだった。
「お前の朝食は、朝食じゃなくて晩ご飯だろうが! 昼夜逆転しといてよくそんなこと言えるな……」
「だってしょうがないじゃない、夜中の方が時給高いんだもん。それとも何? お兄ちゃんと一緒に就職活動するの? いやっ、それだけは無理っ!」
俺は軽くため息をついた。
あれから久々に加奈の親父さんにお母さんに会って簡単な話だけをつけた後、椛の家具や生活道具、服など一式が引越しで送られてきたのだった。
その後も椛は前の職場をキッパリと辞めて、俺が今住んでる場所からすぐ近くのカラオケ店で働くことになったらしい。
なんだかんだでそんなキッパリと断れるなら、俺なんか頼らずに自分で解決してくれりゃよかったのに……
俺はそう思うともう一回、今度は深くため息をついた。
「あ~、ため息をつくと幸せが逃げるんだよ? ん~、仕方ないなぁ。早くご飯食べて仕事行かないと遅れちゃうよ」
カラオケ店のバイトが一時間後に迫っている椛は、取り敢えずボサボサになって爆発したような髪の毛を整えたり、ご飯を食べたりと身支度をしないといけないので焦っていた。
「余裕を持って行動しないからだぞ、……ったく車で送ってやるから早く支度しろよな!」
「わーい、お兄ちゃん大好き!」
「はいはい」
そう言うと物凄い速さで、椛は朝ご飯をかっ食らうのだった。
ちなみに俺は未だ職探し最中なので、職にはついてないが大学の時に無理をして買った車がある。
昔はよくあの車で加奈を乗せて、いろんな場所へとドライブをしていった。
海に山に、あのTDLなんかにも車で一泊二日の旅行で無理をして行った事もあった。
ただ今無職なのでローンは親に払ってもらっているという現実。
彼女を亡くした悲しみが酷くて働く気力も起きず、親に払ってもらっていたが、しかしそろそろ恩返しっていうか自分で払わないと「俺の車」とそろそろ言えなくなってきた気がする。
取り敢えずグチグチ言ってないで早く職に就こう。
そう俺は自分の中で纏めた。
「ご馳走様っで、次は髪乾かして歯磨いてこないとっ!」
そう言って椛は礼儀正しく素早く手を合わせて、立って動き出すと洗面所へと駆け出した。
「慌てんなよ~」
取り敢えずリビングから立ち去る椛の後ろ姿を見て、俺はそう声をかけておいた。
手を後ろ姿で振る椛は、なんだかフリスビーを追いかける無邪気な子犬の姿に見えた。
しかし俺は同時にその面影から、加奈の姿を重ねたのだった。
 それから椛をカラオケ店の近くまで送り届けると、帰ってきた俺はリビングのクッションを枕がわりにして寝転がっていた。
仰向けになり腕で目元を隠してる様な状態。
別に風呂に入って寝巻きに着替えたというわけでもないので、黒のジーパンに花柄のカッターを着ている。
この格好をしているとよくヤクザの人?と加奈に笑われたものだ。
俺は別にオシャレを気取っていたわけではないが、根っからのカッターシャツが好きでよくいろんなタイプのカッターシャツを買っていた。
なのでこの花柄の色々な柄のカッターシャツ以外のを他にも結構な量持っている。
「そのカッターシャツでクローゼット埋まるんじゃないの?」
なんて加奈に言われたことがあったのを、今でも憶えている。
クローゼットの三分の二をカッターシャツで埋めていたらそりゃそんな事も言われるよなぁ。
それにしても今日は近場の会社の面接にまでありつけたので、明日は面接をしてくる予定だ。
ようやくここまでこぎつけた。
これで少しはマトモな暮らしが出来そうだ、そんな事を思いつつ俺は部屋の明かりをつけたまま、肩の荷が下りたように夢の世界へと潜り込むのだった。

*

「ただいまーっ」
椛はそう言って新しく出来た、と言うか昔からあったそんな既視感さえ思い出させるような我が家に帰ってきた。
ただ椛が家に帰ってきたのは早朝とは言い難いが、時刻は四時半近くだった。
今日は無事、特に変な問題も起きずに仕事を全うしたなぁと自分でしみじみ感じながら靴を脱いでリビングへ向かった。
そして椛がリビングへ入ると、その中央に巧人がクッションを枕にして寝息を立てずに仰向けになって静かに眠っていた。
「あれ? お兄ちゃんこんな処で寝たら風邪引くよ~」
椛は巧人、つまりはお兄ちゃんに声をかけるけれど、お兄ちゃんはあどけないと言うか、気持ちよさそうな顔で椛の声は届かずに寝ていた。
「お~い」
ぷにぷにとお兄ちゃんの頬を突くが、それでも全く一向に起きる気配がない。
「う~ん、どうしたものかねぇ…」
流石に椛の力でお兄ちゃんは持ち上げられそうにもないし、かと言ってこの状態で寝かせておくのも風邪をひきそうなので椛は一つの案を思いついた。
椛はニヤニヤと笑みを零しながら、自分の荷物とコートを自分の部屋に置いて椛はその案を早速、実行するのであった。

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2013/12/29 15:40
『椛もみもみ』 2
www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=442098&aid=53504633
アバター
2013/11/18 01:51
消えた彼女が摘んだプリムローズ

人物紹介

榛 巧人(はしばみ たくと)/25歳
長年付き合っていた恋人と死別していたが、
立ち直り現在は就職活動真っ最中
数年ぶりに再会した幼馴染の夏生とお隣さん
彼女の妹、椛と同居する生活が始まる。

稗田 夏生(ひえだ なつき)/29歳
巧人の幼馴染で姉貴分な性格
うまくいっていなかった旦那と最近死別したばかり
巧人の住所を調べ隣に引っ越してくる

松永 加奈(まつなが かな)/享年22歳
高校の時から付き合っていた巧人との彼女
数年前に亡くなりこの世を去っている

松永 椛(まつなが もみじ)/22歳
加奈の妹で、所謂「ボクっ娘」
周りの男性との交友関係に悩まされて
姉の彼氏の家に転がり込んだ←

あらすじ
大学生の時に殺人事件で彼女を失った青年、榛巧人。
数年後、ある日を境に隣に幼馴染みが引越しにきて、
その2週間後には亡くなった彼女の妹が家に同棲しに来る始末。

職を探す巧人とその日々を翻弄させる、
二人の彼女と織り成す日常系ラブコメ展開中!!

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