Nicotto Town


魍魎ノ井戸


『椛もみもみ』 2


夢の世界なんていつだって苦しいものだ。
いつだって俺は「夢の世界はそうなんだ」と、言い聞かせては思い込んできた。
彼女の加奈が亡くなってから、今の今までもずっと一人で抱え込んでは悲しみに暮れて。
しかし「それでも俺は一人じゃない」と彼女が亡くなった後の出来事で、一瞬気づかされる思い出があった。
加奈の死後、葬式や加奈を殺した犯人の裁判等のごちゃごちゃが片付いて、ようやく一息つけそうな時期がやってきた頃。
裁判の判決が出て、ようやく俺は加奈と住んでいたあの部屋に帰って来て、ぐったりと横になっている時に彼女はやってきた。
加奈の妹の椛が……
確か時刻はもうここから近くの駅の終電の時刻も過ぎた頃、ぼさぼさ髪と洋装の喪服の格好にハンドバックを持って椛は俺の部屋に訪れたのだった。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
俺はそう言って椛を部屋に入れたのだった。
「ごめんね、こんな時間に……」
「今更来て謝るなよな、謝られるとさらに困るし」
「うん。」
苦笑交じりでしょぼくれた表情をした虚ろな目つきの椛はいつものツンケンした覇気がなく、乱れたボサボサの髪に隠れた顔は酷く見れたものじゃなかっただろう。
だが少なくともその時の俺は、コイツを独りにしたらダメだという事だけが頭を過っていた。
実の姉を殺されて、正気を保ってろというほうが無理な話である。
俺もその時は確かに参って潰れてたし、でもそれ以上に椛も同じ、いや俺なんかじゃ計りきれないような痛みを抱えていたのだ悟った。
取り敢えず俺は自分の部屋に案内すると、椛に話しかけた。
「取り敢えずそこに座ってろよ。お茶用意して……」
刹那、しゃがんでた椛にベットに押し倒された。
「お前、何やって」
「ごめん、お兄ちゃんごめん……ごめんね」
そう機械みたいに繰り返しては、椛は俺の胸でずっと泣いていた。
その時の俺は椛を抱きしめようと思ったが、流石にそんなことをできる事はできなかった。
いや出来なかったんじゃなくてしなかったんだと思う。
しようと思えばいくらでも出来たし、でもそれをしてもどちらも救われない気がした。
だから俺はその場で凌げれば何とでもなるだろうなんて軽い気持ちで思ってた。
だが椛はそこで泣きつくだけで終わらずにキスを求めてきたのだ。
俺は何が起きたのか瞬時に理解することはできなかったし、まさか椛にそんなことをされるだなんて思ってもなかったから物事を理解するのにものすごい時間はかかった。
「何やってるんだよ」ってそう言おうと思ったけれど、それも今更言っても仕方がないし今は椛の事をただ思ってやることしか、今の俺に出来る術はなかった。
抱きしめる気力もなかったけれど、でもその分椛の感情の捌け口になれるのならばと軽い気持ちで椛が泣き疲れて寝るまで、ずっと椛を宥めていた。
そして俺は丁度さっきその夢を久しぶりにみて目が覚めた。
椛をバイト先まで送って帰ってきてそのまま寝落ちしてしまった俺は気づけば、毛布をかけられていてその隣で椛が俺を抱きしめる形で眠っていた。
多分椛に抱きしめられたからこんな懐かしい夢を見たんだろうな……
そう思い込むことにした俺は時計を見て、起きた時刻を確認するともう7時前。
今日は面接の時間までゆったりして行きたいので、取り敢えずこのカラオケ帰りの匂いがする椛をベッドまで運ぶと俺は朝風呂に入ってサッパリしに行くのであった。



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2013/12/29 15:38
BENクーさん

了解しました、次の話からは文字サイズ3にて投稿させて頂こうと思います。
細々としたアドバイスに感想感謝致します ありがとうございます。
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2013/12/27 09:47
「たくと」の細かい心情描写が丁寧に描かれている作品で、悲しい出来事を抱えた者たちがそれを暗黙に秘めながら頑張っている姿が記憶に残りました。
これは私見ですが、文字サイズを大きく(「3」くらい)にして、見やすくするとより詳細が伝わるのではないかと感じました。

また、自作小説倶楽部のコメント欄に、この作品アドレスを付記してはいかがでしょうか。
毎月テーマは出されますが基本的に自由投稿なので、皆なかなか個人の作品に気付かないと思われますので。^^
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2013/12/02 05:00
消えた彼女が摘んだプリムローズ

人物紹介

榛 巧人(はしばみ たくと)/25歳
長年付き合っていた恋人と死別していたが、
立ち直り現在は就職活動真っ最中
数年ぶりに再会した幼馴染の夏生とお隣さん
彼女の妹、椛と同居する生活が始まる。

稗田 夏生(ひえだ なつき)/29歳
巧人の幼馴染で姉貴分な性格
うまくいっていなかった旦那と最近死別したばかり
巧人の住所を調べ隣に引っ越してくる

松永 加奈(まつなが かな)/享年22歳
高校の時から付き合っていた巧人との彼女
数年前に亡くなりこの世を去っている

松永 椛(まつなが もみじ)/22歳
加奈の妹で、所謂「ボクっ娘」
周りの男性との交友関係に悩まされて
姉の彼氏の家に転がり込んだ←

あらすじ
大学生の時に殺人事件で彼女を失った青年、榛巧人。
数年後、ある日を境に隣に幼馴染みが引越しにきて、
その2週間後には亡くなった彼女の妹が家に同棲しに来る始末。

職を探す巧人とその日々を翻弄させる、
二人の彼女と織り成す日常系ラブコメ展開中!!

何か言葉の使い方や、おかしな点が御座いましたらコメントにてご指摘下さい。
その他、感想などもコメントして頂けると、
創作意欲に繋がりますので色々コメントして下さい。

お待ちしてます。




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