Nicotto Town



2月自作/「祈り『紆余曲折』 2」 


その後一蹴と外に出たものの、実際にあの空気に耐えられないから外に出たってだけの話だからなぁ。
少し時間が経てば帰ればいいだろうとアパート近くにあるコンビニ前で俺は一服しながら一蹴と喋っていた。
「相変わらずお前は禁煙できてないみたいだな。大学入ってからずっと吸ってるよな」
呆れた面をして一蹴はコンビニで買ってきた温かいお茶を飲んでいた。
相変わらず珈琲ではなくお茶というセンスを持っている一蹴はどこか雰囲気を持っているなぁと感じた。
「……で結局どっちにすんの?」
不意に一蹴は俺の方をみてそう話題を切り出した。
「はっ?」
俺はその話題が嫌で逃げてきたのに、それを分かってて聴く一蹴も一蹴である。
「やっ、確かに答えてかないといけないとは思ってるけど、今の状況で判断できる程簡単じゃないよ」
俺は一蹴に対して、無難な答えを選択してそう答えた。
「確かにその答えは安牌っちゃあ安牌だけど、それで夏生さんも椛ちゃんも納得しないと思うよ」
「デスヨネー、知ってたけどさ、でもまずは夏生の方の話を先に片付けない限りは、収拾つきそうにないんだよね。この話って」
「夏生さんに何かあったの?」
俺は頭を掻きながらそう答えると、一蹴は首をかしげて聞き直した。
そう言えば俺は一蹴に夏生と成瀬の話をしていなかった事を思い出し、急遽一連の流れを説明しておいた。
「そっか、そりゃ夏生さんも死んだってことで話を終わらせておきたかったのにややこしい話になってるもんだな」
「だろう?だからまずは夏生とアイツをどうにかしない限りはなんとも言い難いんだよな」
俺は吸った煙草の煙を宙に浮かせ、下にため息を吐いた。
「じゃあ当面取り敢えずはその話を解決する事に重点を置かないとな、じゃないといつまで経っても……」
「分かってるから!今は見守ってくれるだけでいいから、頼むから介入しないでくれよ」
「はいはい、ではそういう事で」
一蹴はクスクスと笑い、それに釣られて俺も笑った。俺達の距離はこんな感じでいいのだ。
そんな距離感でいつまでも俺達は笑い合っていくのだ。

「で一蹴がですね、卒業式の時に結婚しようって言ってくれてですね……えへへ……」
頬を赤らめて蕩け切った表情で恥じらいを隠しながらデレデレと話す紫衣奈。
「そ、そうなの」
「それは羨ましいなぁ、僕もディズニーのお城で告白とかされてみたいな」
「それは夢見過ぎよ、椛ちゃん」
その様子を羨ましい表情で見つめる椛と、呆れたように冷め切った表情で話を聴く夏生。
三人は恋の話題のガールズトークに花を咲かせて、会話が熱中していた。
「そしてですね、みんなが来ない様な校舎裏で私を抱きしめて、『俺が絶対に幸せにしてやるから、もう一人で抱えんなよ』って……きゃーっ!」
「きゃーっ!!」
女子二人がきゃあきゃあと言い合ってるのを、夏生はチラリ一目見てため息を吐いたのであった。
「まぁ……私と一蹴の馴れ初めの話はここまでにしておいて、次はお二方のお話を聴かせて下さいよ!」
デレデレとした顔を一瞬で冷まして、紫衣奈は二人に話を聞き出した。
「あの……物凄く失礼な質問なんですけど、お二人はどっちが巧人さんと付き合うんですか?」
と紫衣奈は超ド級の速度でど真ん中にストレートを投げ込んできたのだ。
「僕はお兄ちゃんがその気になってくれれば、いつでもカモンなんだけどね~、でも今はそれどころじゃないっていうか……ねっ」
そう言ってちらりと横目で夏生をみる椛。
「何かあったんですか?」
最近の夏生の夫婦事情を知らない紫衣奈は、心配そうな顔で夏生に最近の事情を訊いた。
別に夏希自身も隠す気もないので、最近の状況を語りだすように話し出した。
元旦那の成瀬の事、夏生自身がどんな想いでここに逃げてきたのか、そして今後どうしていくのか……
確かに最近は巧人に色々な問題を持ってきて、相談相手として逃げてきたけれどどうしてこの問題を解決に持っていくのか。
別に新たな恋愛をするにも別に区切りを付けなければならないと言う根本的な解決方法の模索。
解決すべき色んな事が多すぎて、何処から手をつけていいのか。夏生自身もどうしていいのか分からない状態で彷徨っている事を二人に話した。
「夏生さんも夏生さんで確かに思う処があるのは分かりますけど、その夏生さんの話だと成瀬さんの意見が聴こえないので、成瀬さん自身の事も訊いてあげないと何もわからないと思います」
確かに浮気した事自体、そもそもの間違いだと思うですけれどね。
そう加えて話を訊いた紫衣奈は不公平のない様に、取り敢えず成瀬の話を訊いてからじゃないとどっちが悪いとは決めきれないと言う意見を述べた。
「逆にアイツのことにまだ未練があるから、こんなに想って勝手に憎んで本当にバカみたいよね……本当に」
自嘲する様にそう投げやりに微笑んでは悲しくそう呟いた夏生の頬からは一筋の雫が伝っていた。
「夏生さん……」
自分が作ってしまった雰囲気に少しやり切れない表情で、しんみりとバツの悪い顔で紫衣奈は申し訳なさそうに近寄った。
「ごめんね、今日は巧人に会いに来ただけなのに私みたいなおばさんが乱入しちゃって」
「そんな事ないですよ!確かに巧人さんに会いに来たのは確かですけど、それは一蹴が決めたことで。でもこうして夏生さんともお友達になれてこういった悩みを共有出来る様なったじゃないですか」
紫衣奈は積極的な性格ではないのだが、出来る限り自分が作ってしまった雰囲気の失態は拭わないと必死の様子だった。
その意図をしんみりと察した椛も乗っかって、夏生の背中を軽くパンと叩いた。
「何やってるのさ!夏生さん。夏生さんの持ち味はいつも振舞う元気な取り柄じゃないですか。だからそうクヨクヨしても仕方ないですよ。悩みがあるなら打ち明けてくれればいいですし、何なら僕も紫衣奈ちゃんも同じ女性なんですから……ねっ?」
「椛ちゃん……」
「僕もお姉ちゃんいなくなってからは結構塞ぎ込んでましたけど、そういう時でこそ話し相手って必要だと思いましたしね」
「そっ、そうよね。ウジウジ一人で悩んでバカみたいじゃないの!稗田夏生、もっと持ち前の明るさで行かないと」
励まされて自分の持ち前の明るさを、だんだんと取り戻していく夏生だが、彼女の目にもう迷いはなかった。
「空元気でももっと楽しまなきゃ人生損ですよ!僕も後悔しますけど出来る限り後悔しないように生きてたいじゃないですか」
「だよね!」

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2014/02/04 03:38
2月自作/「祈り『紆余曲折』 3」
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