Nicotto Town



3月自作/「雪解け『燻らした笑顔』」 1

 
俺の旧友の朝倉一蹴とその嫁の紫衣奈が俺の家に遊びに来た日から数日が経ったその後、夏生は自分から成瀬を呼んで今後についての話し合いが行われることになった。
成瀬には夏生自身が連絡を取り、日時と場所を指定してとっとと話し合いの場を作っていたらしい。
そして何故なのか分からないが、俺の家で話し合いを行うことになったのだ。
なので今俺の家のリビングでは、椅子に座りテーブルを挟んで対面する形で成瀬と夏生が座っていた。
俺の家ということで椛と俺も何故かその話し合いに混ざって俺は成瀬の隣、椛は俺の隣に座っていた。
正直気が重くて仕方ないのだが、ここで二人の今後をしっかりしてもらわないと少しでも俺の進展に支障をきたし兼ねないので、ここできっちりと蹴りを付けて頂きたいのだ。
成瀬は前回いきなり押しかけられて俺に物凄い剣幕で叱られたのをきっかけに、以前の態度を改めたらしく前回と違って物凄く静粛な態度で夏生を見つめていた。
服装は仕事もなかったらしいのだが、態々スーツ姿に着替えて俺の家まで来たのだから誠意を身体で示しに来たのだろう。
その点に対してはちゃんと評価はしてあげないとバチが当たるんじゃないかと感じつつ夏生をみて口を開いた。
「で、まず何から話すんですか。まず重要な事から本題に持っていかないとですしね…」
そう俺は面倒くさそうな表情でため息を添えて、この異質な空間に風穴を切り込みだした。
「今後、夏生と、成瀬サンはどうしたいかを話してもらってもいいですかね……お互いの言い分聴かないと何も話進みませんので」
俺はこんな話の纏め役に徹してる自分に一種の吐き気を感じた。
実際、物凄く泥沼化している上に辛いのはお互いなのだろうが、その話に巻き込まれた自分がこうして話に付き合ってる事に情けなく感じた。
「じゃあ僕から、本心を言えば夏生ともう一度やり直したい。その為はまず謝罪すると共に、夏生にきちんとこれからについての誠意をみせていかないといけない。」
そう成瀬は話し出し一息ついてからこう切り出していった。
「誠意をみせるといっても、みたいにいきなり同居を迫っても仕方ないから、ほんのたまに喫茶店合う様にすればいいんじゃないかと
正面の夏生はため息をつきながら右手で眉間を押さえていた。
夏生はこの提案に意見を唱えそうだが俺はこの成瀬の提案は悪くないものに感じた。
結婚をまた迫っても失敗するからカップルの関係からまた始めないかという事だ。
前回の経験を活かして少し成瀬もいい奴なんじゃないかと思ってる俺がいた。
夏生自身も浮気をして嫌いになった点以外では、そんなに嫌いなイメージが顔に浮かんでなかった。
「そして浮気の話も最初から最後まで包み隠さず離さないと、まずその根の問題は解決しないからね。まずそこも説明しようと思う」
「分かりました、成瀬サンは謝罪とそれからの今後について話して、そしてその後で浮気を後で語るという事で」
ここまで意見を言わずに成瀬の目だけを見つめて、成瀬の意見に時折首を縦に振りながら黙って聴いていた夏生だが、そこからどんな意見を持ち出してくるのか。
成瀬の話を聞きながら、ボールペンを使って手帳に成瀬の話を要約して記録して書き込んでいるのだろうか、そんな仕草がみられた。
「では次に夏生の言い分かな。いい加減ここで白黒はっきりつけてくれよ」
繋ぎやすい様に話を振ったら、開口一番目に夏生が口にしたのは衝撃の一言だった。

「私、アンタの浮気の真相については一から最後の最後まで、何があったか説明できるから
そう一言ポツリと落胆交じりに吐き捨てる様にそう話し始めた。
この場、夏生以外の三人はそりゃ数十秒、時が止まっているように感じた。
ってかまずそれはどういう意味だ!?そうなると夏生は最初から浮気の原因からその事後まで把握してるという事になる。
って言うか後々から浮き彫りになる夏生の隠し持ってる秘密の多さに、正直引いてしまう自分を隠しきれない。
なんでそんな事を知っておきながらも知っている事を隠して、俺の家の隣に引越しをしに来たのだろう。
女ってのは本当に何を考えてるのかわからないなぁ……
ここで夏生を質問責めするよりも夏生自身がその後の真実について喋ってくれると思ったのか、成瀬は動揺はしつつも冷静を保とうと必死だった。
「まず浮気って言っても、どうせ会社の飲み会で女の子を一緒に介抱でもしてたんでしょう。それで私が実家から帰ってくるタイミングで鉢合わせしたんじゃないの?
そう話し始めて一気に事情を一から順に説明していった。
「で自分も酔っ払ってたから後の事憶えてなくて、どっちからともなく身体を重ね合ってたんでしょう?どう間違ってないでしょう?」
アホらし……そう呆れたように呟いて、コップの水を飲み干した。
「あ、あぁ…」
そして訝しげに夏生をみつめては難しい表情をする成瀬は言葉に詰まったのか考え込んでいた。
「ちょっ、ちょっといいですか、夏生さん?」
「何?」
「ってかなんでそんな成瀬さんが浮気したの知ってるんですか?」
今の今まで傍観していた椛は、流石の事態に耐えかねなくなってその疑問を夏希へとぶつけたのだった。
「だってこの人が介抱してた女の子、私が通ってた高校の後輩だったし……その子が自分から真相を話してくれたのよ」
それを聴いた途端に成瀬は「それでか!」とでも言いたそうに合点したかの顔をして「はいはい」と言って納得した……、みたいだ。
「これで私が何に対して怒ってたのか、いい加減分かったんじゃないのかしらね」
優しい表情を浮かべて成瀬の方を見つめてはいるが、成瀬を見つめる瞳は微笑んではいなかった。
「あぁ……怒っていたのは身体を重ねた事もそうだが、もっと別の処にあるってようやく理解したよ」
「そう……それで納得してくれたならそれでいいわ、そして再婚の件もそれで話を進めてくれていいけど、それで私とあなたが結婚するとは限らないからね」
「わかったよ、しかし記憶にないとは言い切れないけど、それに近い状態だったから情報を掻き集めるのに大変だったのに、その事実を君が知っていたのには驚いたな」
「その翌日にその子から謝罪の電話があって、話自体が纏まったのと、後前々から縁切るのに困ってたからこの手を使おうと思ってたんだけどねー」
にぱーとした笑顔で冗談にも出来ないような事を言う夏生。
しかし半分はジョークなのだろうと信じて傍観してる俺はそう受け流しておく。
ただし……
「……ちょっと待てよ、この話の流れでいったら夏生は今まで通り俺の隣に住むことなるって事?」
俺はふとした疑問を口に出して呟いていた。
「あー、まぁ結論から詰めちゃうとそういう事になるねー、いやぁ巧人に椛ちゃんこれからも宜しくね!」
「ふっ、ふふふふっ……ふふふふっ……ふっざけんなぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
この俺の心の中の叫びはマンション中に木霊していって、その後隣人の住人に謝りに行ったのは話すまでもない。
結局進展としては和解という状況で夏生の住む場所は何処にも変わらず、この現状は相変わらずの生活を続けていく模様だった。
うん、本当に憂鬱でしかないよ……

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2014/03/22 01:11
3月自作/「雪解け『燻らした笑顔』」 2
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