Nicotto Town


魍魎ノ井戸


3月自作/「雪解け『燻らした笑顔』」 2


ある程度の話の折り合いがついた処で後の話については二人で話すことになった。
という訳で夏生と成瀬は夏生の部屋へと場所を変えたのだった。
そして急展開すぎる話の流れについて、俺はその場から動こうとせずにテーブルを挟んで椛と喋っていた
「にしても夏生なんでそんな事まで知ってて、別れて別居したのかねぇ……」
「私は分からない訳じゃないけど、ちょっと難しいところだよね……」
椛は微妙な表情を浮かべては苦そうな口調で自分の意見を述べた。
俺も夏生がなんで今更こっちに来て、俺の隣に引っ越してきたのかは大体の見当がつくが、かと言ってその真相を確かめるのが怖くて何も出来てない俺だ。
きっと夏生は俺の事が好きで旦那と別れる口実が見つかったので、こっちに来たっていうのが今回の真相なんじゃないかと思ってる。
それで本当に当たっていたら更に面倒になるだけだし、何も言ってないだけなのだが……
だから夏生が結婚するって話をした頃、抱きしめられた時に何も出来なかったのは真実を知るのが怖くて何もしなかっただけなんだと思う。
そこまで自分で分かっていながらも、自分からそういった話をするのは何だか図々しすぎるしそれで関係が悪化しても仕方ないと思ったからだ。
それに当時は加奈という彼女もいたから、そういう事を不本意に話せなかったっていうのも事実だ。
今夏生達が隣で何を話してるのかというのは興味をそそったが、かと言ってそこまでヤジウマ精神を俺は兼ね備えているわけではない。
今更だが、と言う事は母さんに旦那が死んだと言っておいたと言っていたのは嘘か、それか離婚した事を黙っておいてもらっていたのだろうか……
根拠はないが差し当たってそんな所だろうと、軽く予想は出来るのだが。
「お兄ちゃん?
ここは黙っておいた方が俺の身の為になるので、彼女が何かしてきたら行動を起こすとしようと思う。
今後の関係次第で結構、夏生との付き合いも難しくなるので何とも言えない所があるってのが本音なのだけどなぁ……
「お兄ちゃんってば~……」
夏生とは昔から姉と弟みたいな付き合いで特別な感情を抱いたわけではなかったのだけれど、夏生はそうも思ってないらしいから女性との距離感ってのは掴みにくいし。
どうも積極的になれない俺も俺なのかもしれない。
「てぃ!」
「痛っ!!」
「もー、話を振ってきたのはお兄ちゃんなのに……何急にボケーっと考え事してるのさ!僕怒っちゃうよ」
「あー、ごめんごめん」
自分から話を降っておいて、椛を放ったらかしにしてた。
反省、反省。
「にしても夏生さんはどうしたいんだろうねぇ……」
溜め息混じりに椛は何とも言えないような表情で、夏生の事を心配していた。
「いつもは積極的なんだけど、どうもグイグイいけないのが夏生さんの悪いところかなぁ」
「確かに成瀬との関係をどう蹴りつけるかで次が変わってくるもんな」
「それにお兄ちゃんも悪いよね、うじうじしてるからこの先の関係が悪化していくんだよ?」
「……それ以上言うなよ、俺も気にしてるんだから」
俺はそう言って深く深く溜め息をついたのだった。
この事態がどう転ぶにせよ俺の答えは最初っから決まっているのだから……
「僕もそんなに口出しできる立場じゃないけど、出来るなら二人が笑って解決できる出口を作り出せばいいんだけど……そう簡単にいけば人間関係なんて面倒くさくならないよね」
椛はそう言って、まるで自分の事の様に悲しそうに微笑むのだった。


巧人が深い溜め息をついていた頃に、夏生もまた成瀬との話し合いを終えて彼を返した後溜め息をついていた。
成瀬のことはとっくの遠に自分の中で決着みたいなものはついていた筈なのに、今になってまた彼と巧人との感情で揺れ動いていた。
巧人の家で話した後、夏生の家に戻り軽く今後の事を話し合って解決しその場はお開きとなった。
成瀬は相変わらず昔のままで変わってはおらず、彼は彼なりにあの日のままのスタンスだった。
成瀬は元々いい人だし性格が悪いって訳ではないから、彼から逃げたのは自分の方で向き合おうとしなかったツケがここで回ってきたのだと思うと、自分で納得する節があった。
仕方ないことなのだ。
そう思い込ませてベッドの上に転がってもう数十分が経った。
別に眠たい訳ではないが、しかしと言って何かをする気にもなれず寝室に篭っていたのだ。
そうしていても何も問題は解決しないのに、どうしても巧人にも成瀬にも目の前の問題にも面向かって立ち向かえない自分が憎たらしかった。
後一歩が踏み出せない、後一歩踏み出せれば問題が全て解決する筈なのに……
自分でも気づかない内に涙を流している事に気づいた。
「情けないなぁ……」
皆色んな問題を抱えて悩んでるのに、自分の所為で皆を巻き込んでる自分が許せなかった。
いつもはこんな事になった時はすぐに問題に取り掛かるのに、巧人や成瀬への事になると積極的になれない。
この思いが何故なのか分かってるのに、分かってるのに動けない自分が悔しくて、情けなくて……
巧人が深い溜め息をついている頃、夏生は成瀬との話し合いを終えて彼が帰った後、瞳に涙を浮かべて一人静かに泣いていたのだった。
解決策も見つからないし、今日はきっと疲れているのでもう寝た方がいいのかもしれない……
涙を流しながら夏生はひっそり明かりのない部屋の中で、寝巻きに着替えないまま布団を被って朝が来るのを待って瞳を閉じるのだった。

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2014/03/22 01:09
卒業をする為にさっさと執筆に取り掛かりたかったのですが、3月中旬いっぱいまでは、
足りない単位を取りに行く為に必死になっていたので全く執筆ができませんでした。
申し訳ありません。
しかし何とか卒業することが出来て、ようやくゆったりと執筆することが出来ました。

それにしてもだんだん話数を重ねていく事に、どろどろとしていきますね。この話は(苦笑)
現れた元旦那と初恋の相手に揺れる、淡い恋心がどういった形で結末を迎えれるのか。
出来れば幸せな形で纏めたいと思いますが、執筆欲が無くならない様に頑張っていきたいと思います。

ではでは今回はこんなところで
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2014/03/22 01:04
消えた彼女が摘んだプリムローズ

人物紹介

榛 巧人(はしばみ たくと)/25歳
長年付き合っていた恋人と死別していたが、
立ち直り現在は就職活動真っ最中
数年ぶりに再会した幼馴染の夏生とお隣さん
彼女の妹、椛と同居する生活が始まる。

稗田 夏生(ひえだ なつき)/29歳
巧人の幼馴染で姉貴分な性格
うまくいっていなかった旦那と最近死別したばかり
巧人の住所を調べ隣に引っ越してくる

松永 加奈(まつなが かな)/享年22歳
高校の時から付き合っていた巧人との彼女
数年前に亡くなりこの世を去っている

松永 椛(まつなが もみじ)/22歳
加奈の妹で、所謂「ボクっ娘」
周りの男性との交友関係に悩まされて
姉の彼氏の家に転がり込んだ←

成瀬恭介(なるせ きょうすけ)/30歳
夏生の元旦那、
取り敢えず巧人の第二印象では
「浮気した情けない男」

朝倉一蹴(あさくら いっしゅう)/25歳
巧人の昔からの旧友で学校で教師をしている
6歳下の当時教え子だった紫衣奈が卒教し去年結婚した
面倒見のいい優しい青年

朝倉 紫衣奈(あさくら しいな)/19歳
高校生の時、当時の担任だった一蹴にプロポーズをし付き合うことになる。
そして様々な困難を乗り越え、去年紫衣奈の高校卒業と同時に結婚をした。
7月に一蹴との間に授かった第一子を出産予定でいる。

あらすじ
大学生の時に殺人事件で彼女を失った青年、榛巧人。
数年後、ある日を境に隣に幼馴染みが引越しにきて、
その2週間後には亡くなった彼女の妹が家に同棲しに来る始末。

職を探す巧人とその日々を翻弄させる、
二人の彼女と織り成す日常系ラブコメ展開中!!

何か言葉の使い方や、おかしな点が御座いましたらコメントにてご指摘下さい。
その他、感想などもコメントして頂けると、創作意欲に繋がりますので色々コメントして下さい。
宜しくお願い致します!!!




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