Nicotto Town



空白と黄昏と、そして 1


俺、榛巧人の歳上の幼馴染「稗田夏生」と、その(今は元)旦那の「成瀬恭介」との再婚騒動の一件が収まった処で、丁度あれから二週間が経とうとしていた。
あれ以来夏生は平然としているし、俺が付き合っていた彼女の妹、松永椛とも関係は良好(だと思う)。
何だかんだで俺達は今のままで相変わらず上手く回ってるように見えていた。
実際あれからバレンタインの出来事などがあったのだが、まぁそれは別の機会にでも話せればと思う。
季節はもう卯月、彼女達が俺の傍で暮らし始めてから有に半月近くが経とうとしていた。
そんな中で未だに就職先を決められずにずるずるとアルバイト生活を、椛と同居しながら続けていた。
「お兄ちゃん、そこの醤油取ってよー」
「あーはいはい、ほらよ」
「ありがとねっ」
『いつも』の日常となった朝食の時間を過ごしながら、俺は椛がつくってくれた朝食を一緒に食べていた。
今日の朝食は白ご飯に味噌汁、目玉焼きに、焼き魚。そして極めつけは肉じゃがであった。
夏生から教わっていたらしいのだが、ようやく人様に食べさせられる様な味になったらしいので朝からにも関わらず出してきたのだ。
と言うか「人様に食べさせられる様な味」とは一体どんな味なのか、少し興味の惹かれる俺ではあったがその先が怖いので黙っておくとしよう。
「肉じゃが以外にも夏生さんから色々と教わってね、最近だとブリの煮付けとか白身魚のフライとか!」
「ぎょっ、魚介系が多いんだな……」
「なんかね、夏生さん魚の調理方法とか詳しくて、レパートリーいっぱい持ってるらしくて……ただ魚の事になると気づいたら「うんちく」を語り始めるから、あれは何とかして欲しいなぁとは思ってるんだよね」
「あれは仕方ないって、夏生は昔から魚に憧れてて水産学部だったかに通ってたらしいからな。実際主席で卒業したらしいから、アレはアレで仕方ないんだと思うな……」
そう彼女も数年前は大学生で水産学部に所属していた経歴がある。そこで主席になる程成績は良かったし、個人の趣味で魚の調理を知るが為に調理師免許を取得していた筈だ。
小学生の頃によく夏生が「水族館に行こう!」という事で、市外の水族館に連れてこいかれた回数も少なくはなかった。
正直傍迷惑以外の何物でもなかったが、夏生が水族館を回りながらその場所の魚について教えてくれるので退屈はしなかった。
ただ語りだすと、「もういいから」の一言がなかったら延々と喋り続けてる節がある。
俺があの時にきちんと注意しておかなかったから未だにアレを直せていないみたいだから、今度軽く注意しておくとしよう。
「じゃあ夏生さんって意外と頭良かったんだ。」
椛は手をポンと叩いて納得した様に頷いた。
「じゃあって……お前夏生なんだと思ってたんだよ」
「えへへっ、まぁまぁそれはあんまり追求しちゃいけないよっ!お兄ちゃん」
「全く……」
俺は苦笑交じりの嘆息を添えて、味噌汁を飲み干し朝食を食べ終えた。
「じゃあ俺はこのままハロワとバイトの方に出向いていくとするか……
俺もなんだかんだ職が無いと嘆いてはいるが、椛と同じくフリーター生活にて毎月の生活費をやりくりしているのだ。
逆に椛が同居しに来てくれたお陰で、少し家賃や水道光熱費、食費が軽くなって大助かりの節がある。
「は~い、じゃあ私はこれ食べ終わったら夕方からまたバイトあるし寝るね。おやすみお兄ちゃん」
「あぁおやすみ」
椛と俺の生活リズムはほぼ真逆なので俺が働きに行ってる時には椛は寝ているし、椛が働きに行っている時間に俺が寝ているというルーティンの上で生活をしている。
それはそれでお互いの生活に支障をきたしていないので、何ともないのだがそれはそれで悲しい気がするのじゃないかな?と思ったり思わなかったり……
俺が朝食を食べ終わって身支度を終えた頃には、椛はもうリビングには居らず自分の部屋に戻っていったみたいだった。
今のバイトはコンビニのアルバイトで細々と食い扶持を繋いでいるので今日こそはいい場所がみつかるといいのだけれど。
隣の夏生もきっとバイト生活でなんとかやりくりしているのだろうか。
そう考えると男の俺が正社員にもなれずにフリーターを続けてるのに情けなく感じるものがある。
このフリーター生活からおさらばを決め込むべく、今日も俺はハローワークに行って職を探しに行くのであった。

――何だかんだ俺が死別した昔の彼女『加奈』と別れてから、今年でもう四年目が経とうとしている事にふと気づいた。
と言っても気づいたのはバイト中、もうバイトから上がろうとしていたコンビニの店内で商品の在庫を陳列してた時なのだが。
別に忘れていた訳ではないし、今年の子供の日や母の日のケーキ販売のカタログが目に止まり思い出したのだ。
毎年夏になると、よく彼女と思い出の場所でした線香花火を、その場所まで訪れて独りで寂しく上げに行くのだが。
加奈が亡くなったのはゴールデンウィーク直前の四月二十八日の出来事だった。
毎年彼女の命日にはきちんと報告も兼ねて訪れているし、今年は椛と一緒に住んでいるので、椛と一緒に加奈へ訪れに行くのもありかも知れない。
俺は深夜近くで日付を跨ろうとしているそんな時間帯に、バイトからの帰り道そういった事をじっくりと考えていた。
今度椛と朝食を取る際には、そんな事を話してみるのもアリかもしれないな……
そう思ってアパートの階段を登って、丁度自分の住んでる部屋についた頃に、ドアノブに不審な紙袋がかけられている事に気付いたのだ。
「なんだ、これ?」
俺はその紙袋にふと声を出して中身を確認してみた。
すると中に入っていたのはお土産屋で売られている様な梱包されたクッキーの箱と、達筆な字で書かれていた「和歌山の方に旅行に行ってきましたのでお土産を持ってきました。しかし誰もいないようなのでドアノブに掛けておきます。櫻田」のメモが一枚。
俺の知り合いに「櫻田」が苗字なんて知り合いはいないし、多分きっとこれは椛の職場先の人がわざわざ家まで訪問しに来てくれていたのだろう。
ご丁寧な人だなぁ。
俺はそんな事を思って鍵を開けて家の中へとはいったのだが、その時に俺はもっと気付くべきだったのだ。
この櫻田の所為で平穏に保っていた日常が徐々に壊れていく事に。
まして正直、そのその時はわざわざ手土産を持ってくる様な律儀な人だとしか思えないのだが……
こうしてまた一見無事に落ち着きを取り戻せた様に見えた日常は、徐々に急展開を迎えていくのだった。

アバター
2014/04/22 06:53
空白と黄昏と、そして 2
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