Nicotto Town



空白と黄昏と、そして 3


日々はあっという間に過ぎ去って、加奈の命日となった。
それまでは特に何もなかったし紙袋やラブレターの類も送りつけられていなかったので、何だかんだ平穏な毎日を過ごせていた。
そんなこんなで当日になって俺と椛は午前中のうちに二人で一泊分の荷物を準備してから、家を出て最寄駅から京都駅までたどり着いた。
そこからは乗り換えをして新幹線の切符を買い、地元の最寄り駅に近い駅まで新幹線で一直線という訳だ。
故郷に行くのにはそう時間がかからないので、すぐに向かう事が出来る。
そうして少しの時間を新幹線で過ごして後、また乗り換えをして藤守駅に到着した。
中部地方に存在するこの市には学園都市が存在する事で有名なのである。
大学生活で京都駅に赴くまでは十八年間はここで生活してきた。
今までの舞台が京都だった等と話していなかった様な気もするが、「それはそれで」という事にしておくとしよう。
藤守駅に到着してからは後は、「加奈の墓参り以外は別行動で」という事になった。
特に一緒に行動する必要もなかったのだが、かと言って決めたのにも関わらず俺達は一緒に十二年間近くを世話になった藤守大学附属藤守学園に訪れていた。
どうせ久々に二人で来たのも縁だし折角なので自然に足を運ぶ次第となった。
ここの大学はたまに地元の雑誌や、県外からのニュースの特集が組まれる程そこそこ有名な学園である。
実際藤守市自らが「教育機関に充実した住み良い都市づくり」と銘打っているだけあって地元のPRになっている事は確かなのだ。
夏生も同じここの出身ではあるが、高校を卒業した後は別の大学でお魚に熱中していたので大学はここではない。
成瀬と一緒に結婚するとか決まったのも高校の時からだったので、その頃にはもうここを出る事が決まっていたんだろう。
とそんな処を思い出しながら学園に到着した俺達は職員室を訪れていた……

「久々だなぁ、元気にしてたか?」
そう職員室で出迎えてくれたのは、高校三年間お世話になった担任の支倉先生だった。
支倉先生は保険体育の教師でもあり、大学時代にアメフトで活躍したそのガタイから「アメクラ先生」というあだ名を生徒から付けられている。
ただそのあだ名の所為で雨倉と苗字を間違えられる事もしばしばあるのだが。
椛もこの高等部の出身なので保健体育でお世話になっている事もあり、お互いに面識はあるのだ。
「いや流石に加奈亡くした後はちょっと滅入ってましたけど、今は積極的に就活して頑張ってますよ。先生もおかわりはなさそうで」
「加奈の件は俺も驚いたが、それでもその事実を越えてまたこの学園にきてくれたのは先生も嬉しいからな、松永妹も持ち前の明るさが戻ってきたようでよかったよ」
支倉先生はそう笑窪のついた笑みで、此方に手を差し伸べて握手を求めてきた。
俺はその手をしっかりと取り二人で握手を交わしあったのだった。
少しばかり時間は経ち、積もった話が落ち着いたところで『そうだ、折角放課後に来てくれたんだから部活見ていくか?』提案をしてくれた支倉先生の申し出を快く応え、俺と椛は自分が過ごした部活を見に行くことにした。
と言っても俺はもう六、七年近く前に卒業しているので現『在校生』の知り合いなどいる訳がないのだが……
俺は茶道部、椛はバトミントン部に別々に今の部活の顧問を担当している先生に案内されてく事に。
顧問の先生とは部室に着くまでに特に数年前はこんな感じだったと言うような話をしていった。
そもそも俺が茶道部に入る切っ掛けになったのは、特段理由があったわけではないのだが
『夏生が陸上系の部活動だったので、ならば俺は文化系の部活でいいか。』という超しょうもない理由でこの茶道部に入部したのだった。
生半可な気持ちで入部はしたが、部活動ではちゃんと俺はきちんと活動していたのだ。
活動といってもそんなに真面目にする事でもなく、学校関係者以外が来なければ、作法の手順なんてごまかしたりする場面などはあったけれどもそこそこ勤勉に取り組んでいたつもりなのだ。あくまで『つもり』だが……
茶道部に入った所為で女子力の高い男子と噂や言われたこともあったが、実際そんなことはなく高校生活は加奈とイチャイチャ過ごしてましたよ、うん。
ちなみに加奈は吹奏楽部に所属してホルンを担当していた。
この学園の吹奏楽部もなかなか有名なのだが、話が長くなりそうなのでそこそこの賞を取れる程凄いという感想でさせてもらおう。
顧問の先生と花を咲かせ、部室に訪れた俺はその後、後輩達と昔の話や、今の部活動の現状にOBの立場から少し助言させて頂き部室を去っていった。
にしても久々に心機一転した感じで興味深い話が聞けた気がするぞ。
今の茶道部の現状は色々と変わっていて、茶会を開くまでに成長していたとはいやはや驚きの言葉しか出てこないな。
俺がいた頃は茶菓子クラブなんて部活動のメンバーみんなが自嘲して言っていた頃が懐かしいなぁ……
そう染み染み校内から出て、グラウンドを通り抜けて椛と待ち合わせをしていた正門へと向かっていた。
すると校門の前に生徒ではない人影が見えたので、彼女のもとへと向かうとそこにいたのは椛ではなく夏生だった。
俺はその状況を瞬時に把握できずに狼狽えていると……
「何ボサーっと突っ立ってんのさ、早く行くし帰るよ」
「いやいや俺、椛と約束してるから……ってかなんで此処にお前がいるんだよ」
「何?私も加奈ちゃんに報告しに来たらいけないのかしら」
夏生は相変わらずの服装と態度で、困惑してる俺をちゃっちゃと対応していく。
「椛ちゃんには先に私がそうお願いしてたからね、あの事にもそろそろけじめつけないと怒られちゃうしさ」
悲しそうに遠くを見つめた夏生は夕暮れ時の空を見上げて切なそうに言った。
「わかったよ」
「ありがとう、じゃあついて来てよ」
俺はため息をついて夏生の答えを聴くと共に、俺達はとある思い出の場所に向かうのだった。

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2014/07/19 15:37
空白と黄昏と、そして 4
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=442098&aid=56416655
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2014/06/05 03:11
消えた彼女が摘んだプリムローズ

人物紹介

榛 巧人(はしばみ たくと)/25歳
長年付き合っていた恋人と死別していたが、
立ち直り現在は就職活動真っ最中
数年ぶりに再会した幼馴染の夏生とお隣さん
彼女の妹、椛と同居する生活が始まる。

稗田 夏生(ひえだ なつき)/29歳
巧人の幼馴染で姉貴分な性格
うまくいっていなかった旦那と最近死別したばかり
巧人の住所を調べ隣に引っ越してくる

松永 加奈(まつなが かな)/享年22歳
高校の時から付き合っていた巧人との彼女
数年前に亡くなりこの世を去っている

松永 椛(まつなが もみじ)/22歳
加奈の妹で、所謂「ボクっ娘」
周りの男性との交友関係に悩まされて
姉の彼氏の家に転がり込んだ←

成瀬恭介(なるせ きょうすけ)/30歳
夏生の元旦那、
取り敢えず巧人の第二印象では
「浮気した情けない男」

朝倉一蹴(あさくら いっしゅう)/25歳
巧人の昔からの旧友で学校で教師をしている
6歳下の当時教え子だった紫衣奈が卒教し去年結婚した
面倒見のいい優しい青年

朝倉 紫衣奈(あさくら しいな)/19歳
高校生の時、当時の担任だった一蹴にプロポーズをし付き合うことになる。
そして様々な困難を乗り越え、去年紫衣奈の高校卒業と同時に結婚をした。
7月に一蹴との間に授かった第一子を出産予定でいる。

あらすじ
大学生の時に殺人事件で彼女を失った青年、榛巧人。
数年後、ある日を境に隣に幼馴染みが引越しにきて、
その2週間後には亡くなった彼女の妹が家に同棲しに来る始末。

職を探す巧人とその日々を翻弄させる、
二人の彼女と織り成す日常系ラブコメ展開中!!

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宜しくお願い致します!!!




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