Nicotto Town



空白と黄昏と、そして 4

椛に先に連絡してあるとそう告げた夏生に連れられて、俺はとある場所へと向かっていた。

半年以上かかって漸く踏ん切りがついたのかと、ため息がつくと同時に少し込み上げる思いが徐々に湧き上がってきていた。
「でも漸くこの話に終止符が打てるとはなぁ」
俺は夏生と共に歩きながら、そんな事を独り言ちていた。
「確かに私がうじうじしてた所為で皆に迷惑かけたから、流石にこの問題にも蹴りは着けないといけないしね」
苦笑交じりにへへへ……と、そう俺に微笑んで俺達は加奈と付き合う前の学生の頃に戻った様に話し合っていた。
そうしてる間にたどり着いた場所は、俺と夏生にゆかりの深い思い出の場所だった。
「何処かと思えば、やっぱりここかよ。
「ここだと私もちょっと話しやすくってさ、いいでしょう?どうせ今更そんなんでもないからさ」
そう俺と夏生の思い出の場所とは、俺が両親と住んでいる一軒家、俺榛巧人の部屋なのだ。
加奈と付き合う前は俺の部屋に勉強する!と口実に来ては、ずっとテレビゲームばっかりをしている印象が強かった。
加奈と付き合いだしてからはそんな事もめっきり減り、夏生は成瀬と結ばれて幸せになってた予定だったんだけれど……
男女関係とは難しいものなのだなぁ、と今回の一件でよくよく考えさせられた自分だ。
「俺と夏生は上で大事が話がある。」と母さんに帰ってきた時に伝えたので、もしそんな事になったとしても(まずそんな事をする気概も、そんな事をする余裕もないので)大丈夫な筈なのだが……
母さんはそれに対して優しい顔で「そう、分かったわ」と言って晩ご飯の支度を初めて台所へと向かっていった。
その優しさに感謝しつつ俺と夏生は俺の部屋へと入っていった。

「取り敢えずだ、まず何か言う事があるみたいだしな。そっちの話から訊くわ、俺も尋ねたいことあるし」
あの日と何も変わらないように、俺はベッドに座り夏生はクッションの上に座って向き合う様に対面していた。
「まずさ……私が不甲斐ない所為で椛ちゃんにアンタに迷惑をかけて、本当に申し訳なかっ……たと思ってる。本当にごめんなさい」
「うん」
夏生は頭を下げてからそう話を切り始めた。
「私がそもそも曖昧な想いで色んな人に接してた所為で、嫌な思いをさせ過ぎてるとも個人的に感じてるからさ」
俺はその夏生の発言に食い入る様に割って入った。
「ちょっといいか?」
「うん」
「お前が確かにその件に関して迷惑かけて申し訳ないってのは、分かってたし実際に成瀬が浮気をしてたのも悪いし、お前がきちんと話を付けなかったって点も悪いと思う。でもそれで俺も椛もお前に嫌な想いなんてしてないし、むしろ逆だ」
「逆?」
不思議そうに困った顔をして、俺を見上げた。
「あぁ、お前に困らされたのは確かだがお前を嫌うどころか、お前が心配で仕方なかったよ。無理に成瀬と寄りを戻せとは思ったことはないが、彼とはきちんと話し合った上で後腐れなしの関係に戻って欲しいっていうエゴは感じてたな」
「そ、それは……」
「それでも実際ちゃんと話し合いをしてくれて、現状維持の関係で今の関係を続けてくれてよかったなとは思ってるよ。そこは部外者の発言で失礼かもしれないけど本当に助かった」
「うん……」
ここまで話してる俺だが夏生にも言いたい事があるだろうに、すんなりと俺の話を聴いてくれて助かってる。
「ここまで言っておいてなんだけど、続きをどうぞ……」
「あっ……うん、それでねそろそろこの話には蹴りを着けないといけないから言うね」
真っ直ぐな瞳の夏生は俺の方をみて、一瞬躊躇ってはいたがキッパリと俺がずっと待ち望んでいた台詞を口にした。
「今の今まで自分の気持ちに嘘をついてるつもりはなかったけれど、ちゃんと言うね。私はアンタが……巧人が好き。今の今までいう決心がなくて遠回りばかりして色んな人を傷つけすぎたけど、もう逃げるのは嫌だから結婚を前提にお付き合いをお願いします!
夏生はそうキッパリと言い切って、俺に告白した。
基本は逆の立場なんだろうけれど俺が今までそうしなかった理由と、今の俺の正直な気持ちを伝える為に答えなければいけない。
それを告げるのが怖いのか、開く口が重いが言わないとこの膿を止められない。
俺は目を堅く閉じて気持ちを切り替えてから、夏生の方を見つめて自分の正直な気持ちを答えた。

「ごめん、俺はその気持ちには答えられないし、俺はお前との結婚はきっと考えられない。」
まずそうきっぱりと断って夏生に理由を説明した。
本当に口が重い……
「これは別に加奈が胸につっかえてるとか、椛と結婚したいからとか、そうじゃなくても別に好きな人がいるからという訳じゃない。寧ろお前との結婚の事を真面目に考えてたら、俺の方から『あんな男捨てて、俺と結婚しろよ』って言ってたかもしれない……でも俺はお前と、稗田夏生とは一生幼馴染の関係で居たいって思ってる。」
途中からはその返事を聴く夏生の顔を見るのが怖くて目を背けかけたが、頭を振って夏生の方を見つめ直す。
「告白してもらえて本当に嬉しいと思うし、今それに勝るもんはないとか偽善でもこの嬉しいのは本当なんだけど、お前とは付き合えない、本当にごめん」
今度は俺が夏生にきちんと頭を下げて、その真摯な想いに対して答えを出した。
「そっか、ごめんね。こんな重たい話しちゃってさ」
ちょっと涙声が混じったような声で、俺を見つめ言葉を紡ぐように話し始めた。
「いや……そんな事ねぇって、寧ろそういう事を避け続けて俺もお前が言うまでって変に意固地なところあったからさ」
「うん、でもこれで後腐りなしの関係では彼と寄りを戻せるのかな?」
「それはどうだろうな、そこは彼と何とかやってもらわないと俺からは何とも言えんかなぁ」
「だよね、でもスッキリした、したんだけどやっぱり抑えるのは無理みたいだね」
そう言い切る前に夏生は瞼を両手で隠した状態で、零れ落ちる涙を俺に見せまいと後ろに向いた。
夏生の涙する理由を分からない訳ではないが、だからと言って振った男の俺が彼女の涙を拭えるような立場でもないのも承知の上。
だから俺は……
「ごめん、今日は帰ってくれないかな……」
二十も過ぎてもう学生の頃とは違う二人だからこそ、ここはここでけじめをつけておかないといけないと思った。
そうでもしないとまた辛くなるのは、お互いだからと俺は自分に言い聞かせた。
それを聴いた夏生はパンパンと自分の頬を叩いて、目尻に浮かぶ涙を拭い俺にこう告げた。
「今日はありがとう、こんな私の話聴いてくれてさ……じゃあまた今度ね、さよならっ!」
そう言い終わる前に夏生は部屋を開けて帰っていった。
「こりゃ加奈がいなくなった時と同じくらいきっついわなぁ、はぁ……」
俺は夏生がいなくなった部屋で一人ベッドに座ってた状態から、そのまま倒れ込んで腕で目元を押さえ込んだ。
「『俺は夏生とは付き合えない。』か」
自分で言った言葉を復唱しては起きる気力もなく、晩ご飯ができたと知らせてくれる母さんに呼ばれるまで、夏生と俺自身の今後を考え込むばかりいるのだった。

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2014/07/19 15:39
難産過ぎて書く気が起きなくてずっと逃げ込んでました。

しかしここから更に修羅場になっていくのだと思うと、
頭を抱え込むばかりでこの先の展開に思い悩まされるばかりです。
ここからみんなが幸せになれる様な展開に
持っていくためにも頑張ります。
アバター
2014/07/19 15:36
消えた彼女が摘んだプリムローズ

人物紹介

榛 巧人(はしばみ たくと)/25歳
長年付き合っていた恋人と死別していたが、
立ち直り現在は就職活動真っ最中
数年ぶりに再会した幼馴染の夏生とお隣さん
彼女の妹、椛と同居する生活が始まる。

稗田 夏生(ひえだ なつき)/29歳
巧人の幼馴染で姉貴分な性格
うまくいっていなかった旦那と最近死別したばかり
巧人の住所を調べ隣に引っ越してくる

松永 加奈(まつなが かな)/享年22歳
高校の時から付き合っていた巧人との彼女
数年前に亡くなりこの世を去っている

松永 椛(まつなが もみじ)/22歳
加奈の妹で、所謂「ボクっ娘」
周りの男性との交友関係に悩まされて
姉の彼氏の家に転がり込んだ←

成瀬恭介(なるせ きょうすけ)/30歳
夏生の元旦那、
取り敢えず巧人の第二印象では
「浮気した情けない男」

朝倉一蹴(あさくら いっしゅう)/25歳
巧人の昔からの旧友で学校で教師をしている
6歳下の当時教え子だった紫衣奈が卒教し去年結婚した
面倒見のいい優しい青年

朝倉 紫衣奈(あさくら しいな)/19歳
高校生の時、当時の担任だった一蹴にプロポーズをし付き合うことになる。
そして様々な困難を乗り越え、去年紫衣奈の高校卒業と同時に結婚をした。
7月に一蹴との間に授かった第一子を出産予定でいる。

あらすじ
大学生の時に殺人事件で彼女を失った青年、榛巧人。
数年後、ある日を境に隣に幼馴染みが引越しにきて、
その2週間後には亡くなった彼女の妹が家に同棲しに来る始末。

職を探す巧人とその日々を翻弄させる、
二人の彼女と織り成す日常系ラブコメ展開中!!

何か言葉の使い方や、おかしな点が御座いましたらコメントにてご指摘下さい。
その他、感想などもコメントして頂けると、創作意欲に繋がりますので色々コメントして下さい。
宜しくお願い致します!!!




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