Nicotto Town



空白と黄昏と、そして 5

「あ、お兄ちゃんおかえり~」

夏生との過去に精算し終わって気が重い俺を出迎えたのは、何故か俺の実家で母さんと晩ご飯の支度をしてた椛に出迎えられた。
この際なんで椛がいるのを尋ねるのは、先程の出来事で憔悴しきってる俺には突っ込む余裕がなかったので省こう。
「ありがとうな椛、今日の晩ご飯は何なんだ?」
俺は椛に自らの内情を悟らせないような笑顔で反応を訊くと……
「今日はね~、久々にご馳走だよ!期待してくれてていいからね、ふふふ
あ、これアカン奴や
これ本当のこと言ったら絶対気まずくなるなる奴やん・・・
俺はそう察したので出来るだけなるべく気づかれないように
「そうか!ありがと、期待して部屋で待ってるから出来上がったら呼んでくれ」
と気丈に振舞うことにした。
そうして俺は椛に気づかれないようにさっさと自分の部屋で晩ご飯の時間まで篭っておく事にしたのだった。

 ・それでも結局、それは自分が生んだ火種。
そんな事誰かに言われたり自分に言い返さなくても、解ってる事だった。
・誰かに言われる事や他人と交わり、色んな出来事が相成って生まれた悲劇の結果がこれだと。
・実際自らを悲劇のヒーローぶって誰かにそれを受け売ろうとなんても思ってない、誰かの人生に不幸自慢しようとも思わない。
どの様な結果で自分が生んだ未来だろうが、それは自分で選んだ道だから。
・「それでも」彼女が「生きていれば」俺がもっと「気にかけていられたら」結末は「幸せだったのに」
「たられば」の後悔ばかりが頭の中で反芻しては、未だに俺を苦しめる。
・重複して思い返す度に未練ばかりで辛くなると知ってるのに、頭の中から消えない。
・言葉にしたり誰かに相談でもすれば少しは軽くなるなんて言うけれど、それは気休めでしかないと自分でも解ってるから相談できない。
箇条書きで埋め尽くす後悔達をひとつ、ふたつと頭の中で整理する度に苦しくなる。
自分の部屋のベッドの上で今日あった出来事を思い返しては、バッドな感情になって晩御飯を待つ俺だった。

 丁度同時刻、同じく夏生も実家に帰って自分の部屋の机に、腕で瞼を少し晴らした顔を隠しふっ伏してため息を吐いていた。
・大体の予想はしていたし、きっとあの日の思い出に浸らせてたとしても巧人は自分を選んでくれないと。
・だけれど少しは心の片隅で加奈ちゃんじゃなくて私の事を選んでくれる巧人が居る事を信じていたかった。
・進まない展開にうんざりしている自分に終止符を打って楽になりたいと思う傍らで願っても居たかった。
・未だに付き纏う元旦那とヨリを戻す気はないのに、いい加減この生活から新しく解放されたくもあるのに、それでも生活が変わらないこの現状だ。
・人生は上手くいくいかないではないのは分かっていても、何処かしら最中での妥協をするタイミングを伺って逃したと感じる今。
夏生はひとつ大きなため息をつくと両頬を軽く叩いてその状態から、背伸びを大きくひとつして気持ちを切り替えようとして部屋から出て周辺を散歩する事にした。
何かしていないと今は暗くなるだけだ、そう感じた夏生は今後の予定について計画しながら家から出るのだった。

「えぇ~……えぇ!?お兄ちゃん、夏生さん断ったんだ。いやそんな感じはしてたんだけどさ」
夕食を食べ終わって椛と俺は俺の部屋で一息ついでに、今日あった出来事を椛に話していた。
「そりゃ確かに今夏生さん結構拗れちゃって大変だけど、そこでお兄ちゃんが頑張って『夏生の将来は俺が全て解決してやる!』って言うのも期待してたんだけどなぁ~……」
苦笑しつつそんな冗談を交える椛は本当に相変わらずだなぁと思った。
「でもこれで今後の課題みたいなモノがお互いに見えた様な気がするんだけどな、今回の結果は良くも悪くもあるし」
「そこはお互いの感情の精算次第ですね、わかります」
口をアヒル口っぽく今時の反応をしながら、俺に人差し指を上に立てて反応した。
こいつが職場の男性関係が悪化する原因の一つが分かった様な気がしてならないが、今はそんな事にまで口を回す余裕はないので反応しないでおこう。
「これ以降また何か進展があるんだったら、俺はそれを逆手に取って上手く着地させたいんだけどそう上手くもいかないよなぁ」
と腕を組んで苦笑混じりに受け流しておいた。
「兎に角これからなんだから告白を断ったお兄ちゃんが気負う心配はそこだけで大丈夫だと思うよ、ボクも夏生さんの方で話があるなら相談相手になってあげるからね」
「すまん、正直助かる……ありがとう」
そう素直な感想を椛に伝える俺。
「まっ、何はともあれここからが正念場なんだから、ここからだよ。こ・こ・か・ら」
そう指で語尾を強調する椛。
そうさ、ここからが正念場でここからが本当の葛藤をするんだからな。
本当に椛は頼りになる。きっとこの問題は俺一人では解決出来なかったし、夏生とお互いに大きな歪みが生まれていたと思う。
それを見越してなのか椛は自らをパラシュート代わりとなって、俺たちの関係を接いでくれる。
「だからか、そうだよな。今度家に帰ったらパフェ奢ってやるよ」
俺は椛に感謝の気持ちも込めてそう告げた。
「えっ本当!やったぁ、お兄ちゃん太っ腹だねぇ、え~っと何にしようかなぁ……えへへ」
そう屈託のない笑顔で微笑んでは自分のスマホでパフェを検索し始める椛眺めて、俺はこういう結果でも悪くはないか。
呆れ顔で自分を納得させる俺なのであった。

アバター
2015/10/07 07:43
消えた彼女が摘んだプリムローズ

人物紹介

榛 巧人(はしばみ たくと)/25歳
長年付き合っていた恋人と死別していたが、
立ち直り現在は就職活動真っ最中
数年ぶりに再会した幼馴染の夏生とお隣さん
彼女の妹、椛と同居する生活が始まる。

稗田 夏生(ひえだ なつき)/29歳
巧人の幼馴染で姉貴分な性格
うまくいっていなかった旦那と最近死別したばかり
巧人の住所を調べ隣に引っ越してくる

松永 加奈(まつなが かな)/享年22歳
高校の時から付き合っていた巧人との彼女
数年前に亡くなりこの世を去っている

松永 椛(まつなが もみじ)/22歳
加奈の妹で、所謂「ボクっ娘」
周りの男性との交友関係に悩まされて
姉の彼氏の家に転がり込んだ←

成瀬恭介(なるせ きょうすけ)/30歳
夏生の元旦那、
取り敢えず巧人の第二印象では
「浮気した情けない男」

朝倉一蹴(あさくら いっしゅう)/25歳
巧人の昔からの旧友で学校で教師をしている
6歳下の当時教え子だった紫衣奈が卒教し去年結婚した
面倒見のいい優しい青年

朝倉 紫衣奈(あさくら しいな)/19歳
高校生の時、当時の担任だった一蹴にプロポーズをし付き合うことになる。
そして様々な困難を乗り越え、去年紫衣奈の高校卒業と同時に結婚をした。
7月に一蹴との間に授かった第一子を出産予定でいる。

あらすじ
大学生の時に殺人事件で彼女を失った青年、榛巧人。
数年後、ある日を境に隣に幼馴染みが引越しにきて、
その2週間後には亡くなった彼女の妹が家に同棲しに来る始末。

職を探す巧人とその日々を翻弄させる、
二人の彼女と織り成す日常系ラブコメ展開中!!

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