Nicotto Town



人は 空から生まれし 美しき 滴
川の源流から湧き出て 大海原までの旅を 一生とよぶ

深い森の奥で育まれた滴は 
ときに光を浴び 
ときに急流へ足を取られ その身を削ることもある

もまれて もまれて 苦しくて
あえぎ伸ばしたその手に触れた 川岸の若草と出会う

若草は 滴をすくい上げ まぶしい川面の世界を見せてくれる
虫や小鳥も微笑み
優しい風たちも 疲れ果てた滴を癒す

そうして滴は また旅を始める


滴たちには 多くの可能性という 川の分岐が待ち受ける
右か左か悩むこともあるだろう
でも自ら選んで次へ進むものたちは 
キラリと翻り 美しい


ひとつの滴は 間違えた
間違えたというより 引きずり込まれた
真っ暗な 川底に 
いっきに

もがくことさえも出来ない
理不尽な現実を ただただ突きつけられるばかり
夢や希望も持つことすら許されない

川底の流れは激流で
時計の針が 壊れたおもちゃのように クルクル回る
そう その滴には 川を旅する時間がないのだ
穏やかなはずの大海原は
大きな口をあけた 暗黒の無の世界と化し その滴を のみ込もうとしている

涙も枯れ果てた滴
ふと 柔らかな藻が 体に触れて
あたたかくて あたたかくて
そこに この身すべてを巻かれたいと 固くつむっていたまなこを開くが
自らには選択の余地はなく 
定められた1本の道しか進めないことを思い知らされ
最後の1滴の涙を流す

こんなところに 優しい藻がいることに 感謝する
ありがとう そして さようなら



滴は
誰にも気づかれることなく 
旅を終えるのだろう


 





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