Summer Snow 3
- カテゴリ:自作小説
- 2009/09/30 15:13:00
二週間前、蒼子は死んだ。
その間接的な原因に、三週間前の喧嘩があった事は否めない。その喧嘩の原因というのも、本当に些細なことだったのだが……。
あの日、蒼子は英介に話があるから、と呼び出された。
けれど、いつまでたってもその話題には触れようとはしない英介に蒼子は重い口を開いた。
「話って、何?」
そう切り出した蒼子に、英介は進行方向を見たまま「食事の時にゆっくり話すよ」と言った。
わざわざ、何かと問わなくても、蒼子には凡その見当がついていた。多分それは、蒼子が今一番気がかりで、それでいて、聞きたくない事。それなのに、蒼子はその聞きたくない問いを英介に投げかけた。
「 ―― ドイツ、行くの?」
その言葉に、英介は驚いたように蒼子をちらりと見やった。妙な沈黙が、二人の間を流れた。
車のエンジンの音がやけに煩く感じられる。
目の前の信号は赤だった。英介はゆっくりと減速した。
「あとで、言おうと思ってたんだけどな。一応、決定したよ」
「一応?」
「ああ。まだ、正式に返答をしていないからな」
「でも、決まったのよね。 ―― おめでとう」
にっこりと笑みを浮かべたつもりではいたが、それが出来ていたか、蒼子は自信が持てなかった。けれど、そんな蒼子の微妙な表情の変化に、英介は気づかなかった。
「――ありがとう」
青になった信号に、アクセルを踏みこむ。
「だけど、まだ、行くと決めたわけではないんだ」
「 ―― どういうこと?」
ドイツの研究機関から研究者として来て欲しいと、声が掛かったとき、実に嬉しそうに蒼子に報告してきてたのは、他でもない英介だ。その英介が、何故、今更ドイツ行きを躊躇するのだ。
「迷ってるんだ」
「どうして? 迷う事なんてないじゃない」
「向こうへ行ったら、いつこっちに戻って来られるかも分からないからさ」
曖昧な笑みを浮かべた英介を蒼子はじっと見やった。
一緒に来て欲しい、とは、英介は言わない。
一緒に行きたい、とは、蒼子は言えない。
「……もし、私のこと気にしてるんだったら」
「いや ―― そういうわけじゃ」
うろたえる英介自身が、その言葉を肯定しているように、蒼子には見えた。
「あの、な。蒼子」
「だって、チャンスなんでしょ? 私のことなんか、気にしてる場合じゃないと思うの」
蒼子はきゅっと唇をかんで、ともすれば涙がこぼれてしまいそうな、弱い自分を戒めた。
ぽつり、ぽつりと雨が落ち出した。
ワイパーがぬぐっていく水は、まるで今こらえた涙のように蒼子には見えた。
「いや、だから、そうじゃなくて」
「もういい。車、止めて」
「蒼子?」
黙りこんでしまった蒼子に、英介は軽く息をついた。そして、後ろを確認しながら、路肩に車を寄せた。
蒼子はすぐさま車を降りた。
「蒼子っ」
雨はだんだん、その量をふやしている。
「しばらく、会いたくない」
ぽつりと言った蒼子は、バンッとドアを閉めると雨の中、傘もささずに街の中に消えていった。
雨に打たれて、熱を出した。
普段ならば、それ自体はとくに問題ないはずだった。けれど、このところ体調がよくなかったのだ。喘息持ちの蒼子にとって、体力の低下と発熱はあまりよいものではなかった。
高熱は、じわりじわりと蒼子を蝕み、そこに喘息の発作が襲った。そして追い討ちをかけるように肺炎を併発し、そして、気がつけば、こんな姿になっていた。
後で思えば、あの時英介は、しきりに何か言おうとしていたのだ。けれど、聞こうとしなかったのは蒼子の方だ。自分が傷つく事だけを恐れていた。
英介は何も言ってくれなかった。それが不安で仕方なかったから ―― 。
だから、自分から切り捨てた。
『バカみたい……』
ぽつりと呟いた蒼子の声は、あたりに広がった。
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そうなんですよー。
実は幽霊さんだったんですねー。
続きが気になる――最高の賛辞です(>_<)
ありがとうございますww
>ななみさん
そうなんですよね~。
死んでなお誤魔化したいことって(^^ゞ
ありがとうです。
嬉しいですわ~。
今日、続きUPしますからww
そりゃあ、蒼子さんは隠そうとしますわな・・・。
でも、いつまでもこんな風に誤摩化せないですよねぇ・・・・・・。
ん〜、どんどん魅き込まれてきました!
つ、続きを、早くぅ!!><
続きが気になるw
こっちにも\(^o^)/
コメありがとです~。
そーこのために泣いてくれてありがと~~~。
コメありがとうございます。
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