Nicotto Town


楽屋裏のつぶやき


Summer Snow 5

 河原の土手に座って、空を眺める。
 星がとてもたくさん出ていた。



 もう、八月下旬だが、まだまだ暑い。昼の暑さは、まだ尾を引いていた。
 和馬は、蒼子の白い影 ―― 残留思念に英介に嘘をついて暮れと頼まれたと言った。けれど、その残留思念すら、英介の前には姿を現してくれなかった。
「蒼子」
 あたりに蒼子の気配を感じた気がして、英介はぽつりと呟いた。けれど、当然返事はなかった。返事がないことが分かっていながら、英介は続けた。
「 ―― 僕には、姿も見せてくれないのか」
 言った英介に、あたりの空気がゆれた。そして、その直後、うすらぼんやりと現れた白い影に英介は目を細めた。
「そう、こ?」
『ごめんなさい。英介さん』
「どうして、謝るんだ? 謝らなければならないのは、僕の方だ」
『でも ―― 』
「姿を見せてくれただけで、僕は満足だよ」
 何とか、蒼子の輪郭を保っているその影に向かって英介は言った。
『どうしてそんなに、やさしいの?』
「優しくなんかないよ。ずるいだけだ」
 言って、自嘲気味な笑みをその口元に乗せる。
「お前は、僕に忘れて欲しいみたいだけど、僕は忘れるつもりはないから」
『英介さんっ』
 蒼子の咎めるような声に、英介は薄く笑みを浮かべた。
「忘れるなんて、出来るはずがないだろう?」
『 ―― 英介さん』
「僕の気のすむようにさせてくれ」
『でも、本当に、英介さんの所為じゃないの』
「いや。あの時お前を止められていたら、結果は変わっていたよ。きっと」
『そうじゃないっ、そうじゃないのっ!』
「蒼子」
 英介は、まっすぐに蒼子の影を見やった。どれだけ、悔やんでも、もう時間は元には戻らない。だから、今の英介にできる事は、蒼子を忘れない事。
 たとえ、それが蒼子の本意でないとしても。
「僕は、蒼子を偲ぶ事も許されないのか?」
『……』
「明日、日本を発つ」
『ドイツに?』
「ああ。本当はあの時、お前に渡そうと思っていたものがあったんだ」
 英介は言いながら、ポケットの中から、小さな箱を取り出した。そして、それをずいっと蒼子に差し出す。それを見た瞬間、蒼子は息を飲んだ。
『 ―― 英介さん』
 そう呟いた蒼子の目から、涙がこぼれた。


 ごめんなさい。
 ごめんなさい。ごめんなさい。


 声にならない蒼子の声が、あたりの空気にとけこんだ。
「蒼子。僕はそれほど、弱い人間ではないつもりだ。お前を、こんなところに縛り付けるわけにはいかない」
 英介の言葉に、徐々に蒼子をかたどっている白い影が薄れていった。それは、英介の手にあった箱を飲みこむと、霧散して、ふうわりと空に昇った。


―― 英介さん。
   ごめんなさい。
   ありがとう。

 そんな蒼子の声が聞こえたような気がした。
 ふと、上を見上げると、空から、白い光が降ってきた。
 満天の星空から降るそれは、
 まるで、夏の夜に降る雪のようだった。





END





※蛇足と言う名のあとがき※

 長々とお付き合いいただき、有難うございましたw
 SSを5分割すると言う、暴挙に出てごめんなさい。はっきり言って、分割して読むような長さの話ではないですね。ははは……。
 このお話は、タイトルの通り「夏の雪」のイメージでSSを、という、相方のリクエストに乗っ取って書いた話です。おそらく、1日で書いたはず……。たしか……。
 キャラを考えるのが面倒で、その時書いてた「麻生探偵事務所シリーズ」のキャラをそのまま使って書こう!って感じで書いたはず。まあ、和馬のシリーズはまったく完結してないので、ちまちまと書く予定ではいるんですが。
 このシリーズは、いくつか書けているものがあるので、リクエストがあれば、またUPしたいなーとは思いますw

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2009/10/03 23:10
>ルナるなさん
読んでいただいて、ありがとうございますw
そう言っていただけると、とっても嬉しいです~~。

次回作ですか?
図に乗っちゃいますよ?
ふふふ。
じゃあ、同じシリーズを、またUPしちゃいますww
アバター
2009/10/03 15:23
読み終わりました…
ミステリアスな始まりで ぐいぐいと話に入って行ってしまいました。
最後は なんだか温かな気持ちになりました…ありがとうございました!
次回作に期待してます★
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2009/10/03 08:10
>ななみさん
ありがと~~ww
そう言っていただけると、うれしいわww

絵描きの友達も同じことを、言ってくれます。
が。
奇妙なもんで、書いてる張本人は、無画像なんです(笑)
顔とかのイメージも一切なし(^^ゞ
そのかわり、その時の空気だとか、色だとか、雰囲気だとか。
そういうもので、構成されていますww

いや~。実は、ここにUPするって、どうなんだ?って思っていたのですが。
読んでいただいて、本当にありがとうでしたww
アバター
2009/10/03 08:05
>さくらみるくさん
こちらこそ、ありがとうございましたw
いえいえ。
本来、分割するようなものではありませんので~。
ただ、2000字だとねえ……。どうしても、これくらいになってしまいます。
何かを感じて頂けたのなら、とても嬉しいですわ~。

UDも、ぜひ読んだって下さいw
あれは、現在進行形で書いているので、ちょっと、これとは書き方が違うと思います。

横書き――。
そうですよね~。
私も、最初HP立ち上げた時、横書きかあ……って、思いました。
縦書きにできないこともないんだけど、Web上では、逆に縦書きが奇妙だったので、
あきらめました~。

文字サイズは、私自身が読みにくい!と思ったので(^^ゞ
読みやすかったといっていただけると、うれしいですw
アバター
2009/10/03 03:20
悲しいお話ですが、ほわぁ〜っとやさしい気持ちになれました。(´▽`)
(私はこういうメルヘン恋愛小説w、好きですよ^^)

冒頭の入り方と、途中の「謎」感、展開の仕方に、
活字苦手な私がどんどん魅き込まれてしまいました☆
さすがです!

話を読んでいて、絵が浮かぶというのが、私は好きなのですが、
みおさんの文章は、それがありますよね♪
絵が描ければ、漫画やアニメを描きたいところです^^*

ありがとうございました♡
アバター
2009/10/02 21:36
みおさんありがとう~
まとめて読ませていただきました
私どうしても一気に読み上げたいタイプで、、、、、やっと時間がとれたので
じっくりと読ませていただきました
いいですねぇー
胸にじーんとのこるものを感じます

UnderDomainもぜひ読んでみたいと思います

私は小説などふだん縦書きのものを読んでいるせいか、
なんとなく違和感を感じてしまいましたが
文字も少し大きめで読みやすくありがたかったです    ありがとう~^^ノ




アバター
2009/10/01 22:09
>もっこしゃん
ありがとうですww
きれいに落とせてますか?
それはよかったww
SSは、それが命だと思ってますので~
嬉しいです!
アバター
2009/10/01 22:04
おおーきれいなおわりかただねw
過不足なくおわった~とかんじる
いいかんじです
アバター
2009/10/01 21:46
>もものママさん
メルヘン恋愛小説(笑)
砂吐き劇甘おバカショートショートの間違いでしょう(大笑)
これは、なんとな~くの、感覚だけで読んでいただくのがよろしいかとw

ミステリは、山ほど書いてるのですが、長すぎて……。
あとは、おそらく見せられないもののなかで、ミステリを書いてるので(苦笑)
とてもではないですが、こちらにはUPできませんわ。
UnderDomainは、ブログで結構UP出来てるので、そちらを見て頂けると嬉しいです~。
まあ、あれは完全なミステリではありませんがww
アバター
2009/10/01 21:38
1,2あたりでサスペンスドラマかっ?って思ったけど、
メルヘン恋愛小説だったんですね~。
自分の思い込みで、間違った方向に自己完結している登場人物って
ドラマによく出てきますが、リアルでいたら、イラッとしちゃうかなぁ^^
悲しい結末だけど、余韻の残るラストがいいですね。
次回はミステリーがいいな。(勝手にリクエスト)



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