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【ロイト小説】 カズール 5 クリンケンベルグ 

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ARCHMASTER Presents ロイトで遊ぼう♪ GW特別イベント
クリンケンベルグ彗星が接近し、能力の増減など変化が起こるといった設定で遊ぶ限定企画です♫



05 クリンケンベルグ

(邪魔だな…)

ロイト総帥は、鰐江捜査官が置いていった二人に一瞥をくれた。
ひとりは完全防腐処理を施され、生きていた時と同様の状態を保っているカラート侯爵。
もうひとりは、カズールの抜け殻だった。

鰐江捜査官には今、乗客殺害の嫌疑がかかっている。
いまひとつ定かではないが…、クリンケンベルグ接近の影響とも考えられた。
身の回りを整理する猶予を与えると称して、次の駅に着くまで事態を収拾しろと命じてあるが、
万が一を考え、こちらに押し付けて寄こしたのだろう。

(鰐江にしては優しいマネをする)

カラート侯爵の遺体の影にはカズールが意識を飛ばし、死者の記憶を探っているはずだった。
カズールが自分の身体に戻るまで、どちらも保管が必要なのは間違いないが。

(………)

やがてロイト総帥は、何かを思いついたように、その鋭利な顔を上げる。
そこには、残虐さを潜ませた笑みが貼りついていた。

  + + +

その頃、カズールは、自分の身体へ意識を戻そうとしていた。
稀石コレクターでもあったカラート侯爵が知る、闇の流通組織とその流通ルート。
それを探れるだけ探れという命令も、後は報告を残すのみ。

なのに、手応えがまるで感じられない。
むやみやたらに自分の身体に戻ろうとジタバタしてみたが、焦りが焦りを呼び空回りするだけだった。

ジタバタするのに疲れ果て、カズールは闇の中に横たわり、四肢を伸ばした。
影の中は真の闇。宇宙のように果てしない闇だ。
そんな場所にぽっかりと漂っている自分を想像し、そこに迫ってくる彗星を思い描いて、
カズールは慌てて身を起こした。

クリンケンベルグ彗星 ?! もしやその影響か。
彗星が接近することで能力になんらかの影響がある可能性が…そんな話を聞いたような気がする。
ならば、しばらく出られない可能性もあるか。

(…だったら、もう少しのぞいてみるか)

カズールは、自分の意識をカラート侯爵の記憶へと沈みこませた。
そのとたん背中に壁か何か硬いものにあたった衝撃を感じ、同時に視界が明るくなる。
目は、目の前にいる男を捉えていた。
見たこともない男。笑っているのに、どういうわけか嫌悪感を覚えた。

「…………。どうだい ?! 悪い話じゃないだろう」

コイツは誰だ…。何の話をしている。
そんな戸惑いの中、身の内で驚きと悲しみが駆け巡り、失望に変わる。これは、なんだ。

次の瞬間、視界が揺れる。風景がどんどん後ろへと送られていく。
それが、ふいに止まったかと思うと、左肩を何かに預けるようにもたれかかる。
次第に目頭が熱くなっていった。
悲しい、苦しいと言った感情が声にならない悲鳴とともに身体の中で渦を巻き、
泣くごとに悔しさが入り混じり、心が食い荒らされていくようだ。
気持ちが悪い…。これは、いったい誰の感情だ。

私は今、どこにいる。

自分のものとも思えない感情が、自分の中で暴れまわっている。
私は今、カラート侯爵の記憶をのぞいているはずだ。なのに、この感情はいったい…。
涙で歪む目を凝らし、ふとガラス窓を見ると、そこに映るその顔は、カラート侯爵だった。まだ幼い顔。
では、この感情も、カラート侯爵か。私は今、カラート侯爵の目を通して見ているのか。
いや、カラート侯爵に同化してしまったのか。
これもクリンケンベルグ彗星の影響か。しまった !! とカズールは自分のウカツさを呪った。

「ここにいたの、デズモンド」
「姉上」

アレクシスだ、ドレスをまとった優しい姿、慈母のごとき柔らかな表情。
シーンは、いつのまにか室内になっていた。見たこともない贅を尽くした一室。
カラート侯爵の頬が上がっていくのが解った。笑っているのか。
身の内を支配するのは、あふれんばかりの傾慕の情、そして、ほんの少しの切なさ。

カラート侯爵は、こんなにマトモな男だったか !? とカズールが目を見張った瞬間、
場面はさらに庭園に移っている。
目まぐるしく変わる記憶に振り回され、吐き気を覚えた。

視線の先には、白い柱を円柱のように配して造られた東屋。
そこに、先程とは異なるドレスを身に着けたアレクシスと、遠目で解りにくいが、たぶん、あの男。

それを物陰から見ているカラート侯爵は、どす黒い感情に身をゆだねている。
負の感情が、足先からじわりじわりと生き物のように這い上がってくるような気持ちの悪さに
カズールはぶるっと身を震わせた。
これは怒りか、悔しさか、憎しみか、悲しみか、嫌悪か、哀れみか。
ある感情は混ざりあい、ある感情は反発し、収拾のつかない混沌となってカラート侯爵を支配する。

もういい、もう充分だ !! カズールは声にならない声を上げた。

「デズモンド、止めてーーーっ」

視界が真っ赤に染まる。男の顔が歪んで、崩れていく。
これは前にも見た。あの時は頭の中に流れた映像を、映画でも見るように傍観していただけだ。
こんな…… こんな怖ろしい感情まで流れ込んでは来なかった。

アレクシスの目に憎悪が灯り、燃え上がる。
カラート侯爵はさらに混沌とした感情を育てていたが、傾慕の情もまた、存在感を放っていた。

「私はあなたを愛している」
「ならば私は、あなたから私を取り上げるわ」

そういってアレクシスは、男に刺さっていた短剣を抜き、振り上げた。
右の目に剣先が見え……。

その瞬間、カラート侯爵の身の内にあった憎悪と傾慕の情が融合し、歓喜に変わる。
痛みと喜びと、そして……。
苦痛に歪むカラート侯爵はそれでも尚、アレクシスの顔を見ようと顔を上げる。

いやだ…、いやだ…、いやだ、いやだ、いやだ !!! もう止めてくれーーーっ。

叫びながらカズールは、無意識のうちに、自分の意識を飛ばしていた。

  + + +

「総帥…」

肩にひとりを、脇にひとりを抱えたロイト総帥は、狭いバーに圧迫感をもたらした。
バーカウンターの中でゾエが驚いた顔を見せる。

「保管しろ。コレにはゼッタイに傷をつけるな」

と指し示したのは、カラート侯爵。
コッチは… と指したのは、細かい傷が無数についたカズールだった。

「諜報部の若手だが、今、意識を外に飛ばしている」

だが、どれも表皮一枚を裂いたのみ、血が滲んでいる様子もない。
よほどの腕を持っていなければ出来ない技前だった。

「いずれ意識が戻るだろう。大きな傷を付けなければ、好きに遊んでいいぞ」

装備部が新たに開発した刃物か何かで総帥に遊ばれたか ?! ゾエはそう読んだ。
ゾエは自分の身体を角度30度に折り、うやうやしく礼をする。

「かしこまりました」

総帥の背を見送ると、カラート侯爵を亜空間倉庫に収容し、ゾエはカズールをベッドに運んだ。
興味深そうに全身を検分する。

(上も下も何もついてない型の中性か、初めて見たな……)

身体のあちこちに指を滑らせて感触を確かめる。
女性のようなふくらみは無いが、それでも若いからか、肌触りは柔らかく滑らかだ。

ふふふ… ゾエは嬉しそうに笑った。

唇を唇へと当て、そこから首へ、胸へと唇を這わせ、
太腿から腰へと指を滑らせ、気分が高揚してきたところで、カズールが目をパチリと開けた。

「ぎ……」

一言、発して息を詰まらせ、次の瞬間、ぎゃぁーーーーーぁ !! という悲鳴をあげる。
意識が戻ったか、とゾエは顔を上げた。

「起きたのなら丁度いい」

そう言うとゾエは、カズールの腕の付け根を上からガシリと抑え込み、嫣然と微笑んだ。

(次回、最終話予定)



後書きはコメ欄のいちばん下に

アバター
2018/06/17 13:48
ああ、うん。
カラート侯爵の悲哀はそういうことですよね。マザコン(ぼそり

そして総帥……好きにして良いってあなた。
まあ、ゾエさんの目の前にご褒美ぶら下げておかないと
カラート侯爵が無事で済まないからなのでしょうけれど、鬼畜(笑/褒めてます

七難八苦のカズールさん、
お仕事終わったら花散里にでも赴いてゆっくりやす……めないだろうな(酷

600字削るのは大変だったでしょう。
お疲れさまでした。
アバター
2018/05/19 14:47
ペルル2スピンオフ【キズィローヴァ】からお知らせ❤︎
どうやらカラート侯爵と同じ列車に乗っていたらしい? ということで
その辺と軍との絡みの背景に通じる雰囲気を描いてみました
キズィは小物なので大舞台には乗り出しませんがVoVoにつながるといいな〜
アバター
2018/05/10 02:34
そして人には、エロくしろと言う ?!
アバター
2018/05/09 09:05
こちらもクリンケンベルグ共闘に(第十話)苦戦中
まだやりたい文章表現模索しているところだよ
アバター
2018/05/05 11:44
カズールちゃん中性・・・ゾエさん女でパイ
って事は 襲われたカズールちゃん 男になるの!!
いや ゾエさんパイだもんね (。◡ˇ‸◡)ぅ~んわからないや 

続が楽しみだわw
アバター
2018/05/05 10:19
和.さん・・・セルフSM・・・(ってどんなツッコミだ!)
自分のキャラだから、どこまで苛めても大丈夫か、って事もあるんだろうけど(笑)

つか、両刀のゾエに狙われた無性のカズール・・・色んな意味で不幸、かも。
アバター
2018/05/01 21:09
カズールさん、やっぱハード路線ですね(o≧▽゜)o

先程ご提案くださった件、サークルの掲示板に転載させていただくようにお願いしますm(__)m
読めないと続きを書く人にご不便をかけてしまうの申し訳ないですものね・・・
アバター
2018/04/30 23:04
クリンケンベルグ彗星~~、
おお、こんな大道具が出て来ていたとは・・・。

ロイト小説、その展開に圧倒されます!
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2018/04/30 22:44
次回最終話ではゾエに犯されちゃう? きゃー カズール楽しみ〜ヾ(*≧∀≦)ノ゙
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2018/04/30 22:28
こっ この裏側でぺちゃぺちゃが展開していると思うと笑えるっ!!!
と思ったら すげー ことなってた!!!! ギョギョーーー
アバター
2018/04/30 22:16
なんだ、寝てたのかwww それにしても、、、


同じロイト公安の人たちが、なんてハードボイルドなんだ???なんか食べたのかなぁ。ワニの肉とか。チキンよりもあっさりしてるから、調理は腕の見せ所でもある。ワニさん~、こっちへお出でぇ!
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2018/04/30 21:31
カラートは大事に保管して、カズールは傷ついてもいいの?総帥?
彗星の影響、いろんな所に出てるね。
ゾエは、両刀なんだ@@
相手を好きになるのに、男女の差はないような気がするww
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2018/04/30 20:53
・・・(総帥に異様にウケている)・・・(てか自分で運ぶんだ)・・・(ゾエ最強説浮上中)・・・え~と、ゾエがハリセン持ったらどうなるのかしら・・・(混ぜるなキケン ・・・くりんきけんけんべるぐ・・・ヾ(-_-;)カエッテコーイ ヨソサマノウチヤゾ~
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2018/04/30 20:29
ギャーーーゾエってそっちだったの
両刀ですか。。

侯爵は他の人を好きになれてれば幸せになってたのにね。
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2018/04/30 19:41
ゾエ、そうそう両刀使い、しかも美女好きです ヾ(≧▽≦)ノ゙
アバター
2018/04/30 19:28
3600文字をこんだけ短くするのは。。大変だったでしょぅ^^;
侯爵の意識のなかに入り込んで覗く能力。。描写がとっても面白かったです♪^^
ゾエって両刀使いでしたよね?ww( *´艸`)チガウ?w
カズール危うかったですねww
アバター
2018/04/30 19:25
クリンケンベルグの真っ最中、みんな忙しそうで (*ノωノ)
ヒマそうなの、総帥とゾエしか思いつかなかったんですよーーーwww

カラート侯爵がオカシクなる過程は、もっと丁寧に書きたかったんだけどね (*´-ω-`)・・・
文字数がもう !! めいっぱいで諦めましたw
アバター
2018/04/30 19:17
ひとりSMー(〃 ̄∇ ̄)ノ彡☆ウキャキャキャッ 

しかしカラート侯爵の場面も
ゾエの場面も
うまいなぁ(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ
アバター
2018/04/30 19:13
ゾエさんに可愛がってもらえるとはある意味ご褒美な気がw
うん。悲鳴上げた後には高熱出して倒れてそうだ♡(。→ˇ艸←)

クリンケンベルグの影響でカラート侯爵の過去を追体験しちゃったのかぁ。
カズール災難だったねね( *ˊᵕˋ)ノˊᵕˋ*) ナデナデ
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2018/04/30 18:24
可愛かろう ?! カズールはw
アバター
2018/04/30 18:21
マゾー( ´w`)ww
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2018/04/30 18:07
今回のイベントに際し、これを書きます、と申告したことを数時間で後悔しました。
ハードルを自分の身の丈に合わないところまで上げてどーーーする !!

書きあげたら、3600文字、そこから削った削った !!! すげー削った (泣
お部屋画像は、庭園でも造りたかったけど、ミゴトに挫けました (っω`-。) 無理。

カズールは、と言えば、いつもの通り一難去ってまた一難。
あ~ロマンですねぇ (← え
私、カズール本人にとって好ましいシーンって、まだ一度も書いてないかも ?!



ARCHMASTER Presents 壮大な電車ごっこ 〜2018年6月まで

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