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【魔界スピンオフ】 護衛 前編 


「これはひどいね…」

廊下に横たわる息も絶え絶えの侵入者と血まみれの床、その周囲に散乱した破片を見て、
皇太子デミアン殿下は「昨夜の護衛は誰?」と、側近のひとりに問うた。

「ジュエです」

間を置かずに名を上げると、殿下の左斜め後ろにいた近衛が、ビクッと肩を揺らす。
殿下は「ジュエ、か……」と言いながら、自分の背後に立つ近衛の頬を両手で容赦なく引っ張りつねる。

「も、申し訳ありませんっっっ。すぐに治します」

ジュエが謝罪をすると、殿下は頬をつねったままと口の端を上げた。
それはどちらかと言えば見るものの恐怖を誘う笑みではあったが、ジュエは思わず見惚れ、にへらと笑う。

「殿下、その笑い方もカッコいいですねー」
「ムダ口を叩いているうちに、コイツ死ぬよ? 情報も得られずに死んだら…」

殿下の目がすっと細められ、ジュエは慌てて侵入者の傷に手をかざし、治癒の魔力を使う。
話が聞ける程度でいいからね、と念押しをして、殿下は自室に戻っていった。

夜明けには少し早い王宮の4階、王族のプライベートフロア。
側近が出勤するにも護衛が交代するにも早い時刻であったが、今、そこにいる人数は少なくなかった。

王宮に勤める皇太子殿下付き近衛のジュエは、ふたつの理由で、近衛のなかでは有名人だ。

そのひとつが、やや過剰防衛のきらいがあること。
やりすぎだ、と言われるたび治癒の魔力を使い、尋問が出来る程度まで回復させては辻褄を合わせる、
といった効率の悪い仕事をしている。
それでも近衛を外されず、いまだ皇太子付きという名誉を得ているのは、もうひとつの理由。
それが、大した身分を持たないジュエの名を、王宮じゅうに知らしめていた。

「ジュエには困ったもんだね」

困ったと言いつつも、さして困っていない様子の殿下を前に、
入室を許可された側近のひとりは、「ジュエを近衛から外しますか?」と問う。
殿下は、大して表情を変えずに答えた。

「そのままにしておけ。オモシロいから」

それを聞いて (本当にいいのですか? いつか死にますよ) という言葉を側近は飲み込んだ。
本当にジュエが死んでしまったら、きっと殿下は後味の悪い思いをするだろう。

だが、殿下のことだから、そんな後味の悪さも全て折り込み済なのかもしれない。
そう思わせる出来事が起こったのは、数日後のことだった。

「ジュエ!!!」

左前方から近づき攻撃を仕掛けてきたのはタダの囮、失敗するのが前提だったろう。
本命はもうひとり、右側面から攻撃してきた男。片方が派手に目を引いている間に殿下を……。
そういうことなのだろうと、その場にいた誰もが思っていた。
まさかどちらも釣りで、大本命の暗殺者が王太子殿下の背後にいるだなんて、考えもしなかった。

気付いたのは、近衛のジュエひとり。
刃と殿下の間に自分の身を滑り込ませ、暗殺者の殺意を自分の胸で受け止めた。

「剣を抜くよりも速かったので」

胸を真っ赤に染め、よろめく身を殿下に支えられながら、言い訳にもならないことを口にする。
そうしてジュエは、にへらと笑った。
それを見て殿下も 「どうせおまえは死なないだろう?」 と極めて冷静に口の端を上げる。

「任せてください」

ジュエも軽口を叩くかのように答え、意識を失った。
同時に、殿下の顔から表情が抜け落ちる。

殿下が、怒りを露わに激高する姿は何度か見たことがあった。
口の端をニヤリと上げて、その美貌のまま冷酷な言葉を発するのも、さほど珍しくはない。

だが、無表情のまま氷のように冴え冴えとした気をまとい、
拘束された暗殺者の片目に、おもむろにナイフを突き立てるほどの不機嫌を表したのは、
そんな姿を目にしたのは、これが初めてだった。

「殿下…」

血止めをして運ばれていくジュエを眺める殿下の前に、近衛の長が跪く。

「殿下の心胆を寒からしめたことはお詫び申し上げます。ですが、」
「解っている…」
「護衛が傷つくことなど大した問題ではありません。御身が無事であることが全てです」
「解っていると言っている。くどい!」
「では、どうぞお気をお静めください」

気付くと、殿下の足元から周囲に薄氷が広がっている。側近の足元も、近衛長の膝も凍り付いていた。
殿下もようやく気付いたというように、瞬時に凍気を沈め、氷を消し去る。
その日の視察で殿下は、もうそれ以上の言葉を発しなかった。

近衛ジュエは、幼い頃の殿下が下層から拾ってきた孤児だ。
どんな出会いがあったのか、自分のおもちゃにすると主張した殿下の、
遊び相手兼護衛とするべく育てられたと聞く。
ジュエは殿下に拾われたことを、命を救われたことを大きな恩義とし忠誠を誓っていることは、
王宮に勤めるものなら誰もが知っている。

武芸全般を教え込んだ古参の近衛に言わせると、
ジュエは優秀で、手近にあるもの全てを武器として使いこなす器用さも持ち合わせていた。
ただひとつ誤算があったとすれば 〝全て〟 の中に、自分の命まで安易に含めてしまえることだろう。
実際、ジュエは殿下を庇い、己れの身を盾にしてこれまで4度、死にかけている。
そして、そうまでして殿下を護るジュエを、近衛の長は有用と認めていた。

その一方で、そうまでして護られる殿下は、何を思っているのか。
側近には計り知れないが、決して平静とは言い難いことくらい、見ていれば察しがつく。
……殿下は、今夜も、眠れないかもしれない。
殿下の身の回りを世話する女官たちも同じことを考えているのが、手に取るように解った。

ジュエが近衛として復帰したのは、それから一カ月後のことだった。

「おまえは本当に丈夫だな」
「治癒の魔力って、めっちゃ便利ですよねーーー」

呆れた顔をする殿下のナナメ後ろで護衛するジュエは、傷が治りかけ、体調が落ち着くと同時に、
自分自身に対し毎日、治癒の魔力を使ったのだと自慢げに話す。
それに釣られたのか殿下も軽口で答え、それにジュエも何気なく応じる。

「私が怪我をしたら、ジュエに治してもらおうかな」
「殿下は怪我をしませんよ」

自信に満ちたジュエと違い、殿下の表情は、どこか寂し気に見えた。

就寝時刻となり護衛が一礼をして殿下の自室から扉の外に移ったのを機に、
側近も「失礼します」と頭を下げ、ドアを後ろ手で閉めようとした時、殿下のつぶやきが耳を掠める。

「ジュエはきっと私を置いていく…」



後編に続く。
.

アバター
2019/05/20 07:52
自分メモ ( ..)φ

童話作家ワンピ(メル)
雪花の国聖歌隊の帽子
イースターバードの髪飾り
まとうゴージャスなきらめき
どこでもダイヤモンドダスト
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夏のお嬢さんヘア~2018~
アンティーク童話の不思議な木々のフレーム
シャイニーズファンタジー
アイブロウOR-1
マスカラゴージャス
カラーコンタクトL-PI-1
アイシャドーグラデカーキブラウン
口紅アイリス

たぶんこんな感じだったような…
アバター
2019/01/20 21:26
なんかね。2人の気持ちがわかるような気がする。
ジュエは、自分を拾ってもらい共に育った殿下に、自分の命を差し出すのも顧みないし、役に立つことに喜びを感じてる。
自分の命で殿下が助かれば、それでいい。それに自分には治癒の魔力を持ってる。
殿下は、そんなジュエを心強く思いつつ、一方で家族のような情を持っていて、ジュエが安易に、命を差し出すことを恐れてるのかな?
近衛兵としては、有能なのが、反対に不安をかき立てる。
いつか、1人で逝ってしまいそう
アバター
2019/01/20 20:17
読みに来ようと思いながら、出来て無いです。
読みたい。
アバター
2018/12/23 18:54
本当は、こんなところで切りたくなかったんですけどね ( ̄~ ̄lll)
ニコのブログが6000文字、入らんかったから。

゚ღゆうなღ゚さんが、治癒の魔力を持っているとしたら、
もしかしたら天使の血が入っているかもしれない、と言っていたので……

黒58弾の悪魔の羽根を使いたかったんですよーーー。
これ、堕天使にも使える!

え? そういうおもちゃ? ニコではマズイっしょw
ウチに未成年のお客さまは来ないけど。
アバター
2018/12/23 18:41
多分殿下はジュエが自分の代わりに痛めつけられて初めてジュエに萌えるんだよね
殿下の敵は多そう ジュエはきっと殿下に抱かれてもいいと思ってるよね〜( ´∀`)
ついでだ 抱こうよ ねっ
アバター
2018/12/22 23:49
何だろうこのツンデレでありながらヤンデレな?
>ジュエはきっと私を置いていく…
これだ!   ←何が?
アバター
2018/12/22 22:11
ジュエは女の子っぽくて
シュピールツォイクは男の子っぽいのねー

どちらもカッコいいわぁ

やっぱり戻って来てあげてー(≧∇≦)



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