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【源氏遊び】 それぞれの不安 内裏編 


『……のように空木宮様は、お心安らかに経を写す日々と拝察いたします』

清涼殿の東の庭、呉竹台の近くで手渡された文は、ひどく無味乾燥なものであった。
落胆を隠しきれずにいる今上帝に、「ご不満のようですね?」 と和泉の兄・帥和は苦笑する。

解り切ったことを聞くなとばかりに睨みつける帝に、
帥和は、幾重にも折りたたまれた文を差し出し、「こちらは私あての私信ですが」 と前置きし、

「アレの無礼を不問に処すおつもりがございましたら、お読みください」



  兄上様御許

  御目通りが叶った夜、空木宮様はおひとりで宮邸を抜け出されました。
  尊き御身がなんということを! と、ひそかに後を追いましたところ、行きついた先は洛南の醍醐寺。

  門をくぐり、宮様が迷いなく歩んだ先には、桜の木がございました。
  そこで宮様は月明りを頼りに、いまだ蕾の桜の愛おしむように眺めておられましたが、
  ある枝に触れたとたん、宮様の御身体はまるで力を失ったように、かしいで。

  急いでお支え申し上げましたが、そのお顔は、深い憂いがあるようにお見受けいたしました。
  周囲も伺いましたが、あったのは深い闇ばかり。
  その中にわずか一輪、開花したばかりの桜の淡紅が浮かんでおりました。

  なぜ宮様が深夜に、それもひとりでお出になられたのか。
  なぜ醍醐寺で、なぜ桜であったのか。

  それにつきましては不安を覚えております。
  ですが兄上様! 今回特筆すべきは、そこではございません。

  褒めてくださりませ、兄上様。なんと私、ナマ宮様の御肌に触れる栄に浴しました。
  ナマ宮様ですよナマ宮様! 天にも昇る心地とはまさにこのこと。
 
  宮様の指は細く長くしなやかで、手は温かく、筆よりも重いものを持たない殿方の手でございました。

  よき匂いがふわりと鼻をくすぐった折などは、
  そのまま抱きしめてしまいたい欲求にもかられましたが、
  己れが男姿であったことを思い出し、涙を飲んで踏みとどまりました。



不安げに瞳を揺らし、ぶ厚い文を目で追う今上帝の表情が
やがて苦虫をつぶしたようなものに変わっていくのを、帥和はニヤニヤしながら眺めていた。

「筆より重いものを持たない男の手とは…… 褒めておるのか?」
「そこは和泉ですから」

帝は文を読み進める。



  その直後、空木宮様は私の腕にすがり、なぜか 「帝を頼む」 と仰せになられました。
  絶え入るようなか細い御声で、夜更けのことでなければ聞きもらしていたかもしれませぬ。
  何を望まれたのか、正直なところ掴みきれてはおりませんが、
  お任せください、と申し上げたところ、宮様は微笑まれ、夜目にも解るほどお顔の色が良くなられました。

  宮様の不安のひとつが、帝の御身であることは拝察されまするが……。
  私如きがお役に立てるとは思えませぬ。

  帰路では宮様とふたりきりで、そぞろ歩きを堪能いたしました。詳しくは割愛いたしますが、
  宮様は私の夜歩きを「鬼にでも行き合えばただではすまぬ」と心配してくださり、感涙ものでございます。

  姿かたちがお美しいだけでなく、立ち居振る舞いが雅やかであらせられるだけでなく、
  心根まで清らかな宮様に、二度惚れ三度惚れをした宵にございました!



「……羅城門に鬼が出た可能性がある、と検非違使が騒いでおったな。宮はそれを知りながら夜歩きをしたのか?」
「まさか……! 空木宮様をお疑いになられておいでですか?」

帝はふと鼻で笑い、帥和に流し目をくれる。

「宮に姦計の類は出来ぬ。……出来たら今よりも生きやすいであろうな」
「ですが、姦計を得手とする中には〝鬼の動向を知るからこそ夜に洛外を歩けた〟と疑う者もおりましょう」
「宮に夜歩きをさせるな、と和泉命婦に急ぎ伝えよ」
「仰せのままに」

 ⇒ 空木宮邸編に続く



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残念ながら1ブログに入りきらず (っω`-。) 2つに分けました。
のちほど、それぞれの不安・宮邸編 (またの名を和泉編) をアップします。


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2020/05/23 13:18
そりゃ~心配でしょうねぇ…… 宮様、自己評価低いし。
和泉が私信のつもりで書いた文を読ませられる帝も、気の毒ですが (((o≧▽≦)ノ彡
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2020/05/23 13:17
いい香りのする扇子、そういえばウチにもあった覚えが。
子どもの記憶だからアテにならんけど (。-‘ω´-)ンー
和紙貼りではなく、骨から扇面まで全部 竹? か何かで出来ていた気がする。
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2020/05/23 13:17
はい、そこ笑うポイントです (*ノωノ)
影和にとっては美味しいところ多いんですけどね、展開が早くてwww
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2020/05/23 13:17
おや? ロマンチックに見える? そりゃーーー嬉しいわヾ(≧▽≦)ノ゙
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2020/05/19 20:08
帝も宮様が心配でたまらないんだよね

和泉ちゃんの恋するパワー全開の文w
宮様の憂いを心配しつつも、宮様を前にした┣¨キ┣¨キ┣¨キの賛美がとまらないw
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2020/05/17 23:53
なんか昔、実家に「白檀の扇子」とか言うものがあって
父親が仕事で中国だったか香港だったかに行った時に買ってきたものだった。
ぱたぱたするといい匂いがするやつ。
そういうの今でも売ってるのじゃないの???

さて、お話面白かったです。
シリアス度は高いけれど、和泉ちゃんのわくわくどきどきな様子が伺えて
お兄さんも帝もちょっと苦笑気味なのがいいねぇ。
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2020/05/17 23:30
誰も書いてないけど
ナマ宮様にもうワロてしまい(≧▽≦)
影和さん、ちゃんと美味しいとこもっていってる感じですね。
当時は恋愛に男女の区別なかったらしいので
男の姿でもどんどんぐいぐいうっちゃんに迫ってください!(えw)

さて続き続き♪^^
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2020/05/17 22:46
ロマンチック〜
特にここ^。^

>よき匂いがふわりと鼻をくすぐった折などは、
  そのまま抱きしめてしまいたい欲求にもかられ〜
  涙を飲んで踏みとどまり

雅な夜桜の香り感じた
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2020/05/17 21:58
いや~そんなしっとりな手紙、コイツには無理www
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2020/05/17 21:56
「母上様 お元気ですか 昨夜 杉の梢に明るく光る星1つみつけました・・・」って静かな手紙じゃなくて不穏な動きを知らせる可及なものだw
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2020/05/17 21:55
白檀! 伽羅! ネットで匂いも調べられるといいのにー
って、源氏遊びやってて、つくづく思うわ~。
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2020/05/17 21:54
ロマンだけどさ~にーちゃんの心配は尽きないと思うんだよねー (*´-ω-`)・・・ 
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2020/05/17 21:54
え? ドン引き要素、無かったですけど? 和泉的には _(L〃_ _)ノシ バンバンバン‼
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2020/05/17 21:53
頼まれても和泉が何かできるとは思えないんですけどー ( ̄~ ̄lll)
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2020/05/17 21:05
うっちゃんの薫物は白檀とか伽羅かしら(´∀`*)ウフフ
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2020/05/17 20:54
「宮に姦計の類は出来ぬ。……出来たら今よりも生きやすいであろうな」
この台詞好きだな。政局に翻弄された兄弟愛。ろまん。
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2020/05/17 20:49
おおー つづきがー(≧∇≦) 

帥和エアメール持ってるー(o´艸`)プ

とりあえずうっちゃんドン引きされないで済んだっぽい(。´・ω・)?
よかたー\(^o^)/

つづきーo(^-^)o ワクワクッ
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2020/05/17 20:48
和泉命婦、卯木の君を頼みましたよ(o´艸`)

続きが楽しみー



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