Nicotto Town



出会いはいつも突然に。 Case.1(1-1)


消えた彼女が摘んだプリムローズ

出会いはいつも突然に。 Case.1

【夢現】 -ゆめうつつ-
 夢かそれとも現実かということ。特に、それが夢か現実か区別しにくいように、はっきり意識しない状態。

 本当ならばいつだって楽しいことや面白いことばかりを求めたいのが人間の性だ。
 それでも辛い出来事を経験して乗り越えるのが人生だとも言う。
 結局どちらを選んでも、他者から見ればどうでもいいし前時代的な考え方とも言えるのかもしれない。
 ならどちらを選んでも「死なば諸共」だったのであれば、俺はどうすればよかったのだろうか?
 答えのない問いは昨日も今日も、そして明後日もこの先もずっと俺の跡から離れずに、俺はその答えを探し続けるのだろう。
 甘い筈なのに気付けば苦くなった感情を、今も愛してる俺は物好きなのもしれない。
 それ以外に答えを知らなかった結末の綻びを今も縫おうとして、自らに針を落としてる日常になんて名前をつけようか。
 思考に舞う戯言は責任のない現実逃避ばかりを見せては、今日も俺の心の空白に疎外感を零していくのだ。

 落とした感情を今も捜す彷徨う心は空白を漏らし、懐かしい思い出を繰り返しては、声にならない言葉を叫ぶのだから。

Prologue

 懐かしい夢を見ていた。
 それは自分の生きてきた人生の中で一番幸福で、輝かしい時間だっただろう。
 俺の最愛の彼女「松永花奈」
 『その彼女との日常が会ったから俺は生きてこれた』と言っても、過言ではないだろう。
 大学に入学して一回生の夏の時に、ショッピングモールに車で花奈と一緒にお買い物を満喫にし行っていた時の夢だった。
 彼女がお気に入りのブランドショップに入りショッピングを満喫している頃、俺はコーヒーショップで花奈に買ったカフェラテを啜りながら、花奈を待っていた。
「巧人くん!ちょっと来てよ」
 そう店内から俺を呼ぶ声が聞こえたので、俺は花奈が買った荷物を抱えて花奈の元へと急ぎ足で駆けつけた。
「こっちの白色のワンピースと、今着てる黄色のワンピースどっちがいいかなぁ……」
 花奈は気に入ったワンピースの黄色の方を着ながら、試着室の姿鏡でどちらが似合うかと比べ合いをしていた。
「普通に白とかでいい気はするけどなぁ、白とかだと結構合わせやすいし色が入ってるよりかは、花奈だとこっちの方が似合ってると思うんだよなぁ」
「そうですね、今の時期ですと白なら凄く爽やかなイメージが御座いますし、黄色の方よりお客様には似合ってますね」
 俺の台詞に合わせるように年配の女性の店員さんが、にこにこと相槌を打っていた。
「う~ん、でも私は黄色の方がいいかなぁって思うんだけど、やっぱり白のほうが無難なのかなぁ」
 花奈は姿鏡でワンピースを取っ替え引っ替え合わせながら悩んでいた。
 俺としてはどっちでもいいような気はするが、それを言い始めるとまたうんうん悩み始めるのを知っているので敢えて俺は言わなかった。
 華奢な体型で特にそのスタイルに悩んでいるということもないので、俺としてはこういった清楚なワンピースは凄い似合うし、ゆっくり選んでもらえればそれでいいかなと思ってる。
「そちらのワンピースですと、こういった感じの小物系のアイテムなんかと組み合わせますと、相性が良いので合わせやすいですからね」
 そう小物が置いてあるコーナーから先に用意していたであろうブレスレットなどを、花奈の腕元に合わせて紹介した。
 花奈がこのショップで前々から気になっていたワンピースを買うことは決めていたっぽいし、花奈が決めるのは時間の問題だった。
 この場所以外にも欲しいものは沢山あったので、花奈が買ったものの紙袋が俺の両手いっぱいあるわけだし。
 花奈はうんうん悩みに悩んではっきりと決まったのか、
「いつも私悩んじゃうし、他の所行っても同じことになるだろうから、巧人くんの選んだこれにしておこうかな」
 そのセリフに合わせて"ふんす!"と言わんばかりに決めた表情を浮かべていた。
「かしこまりました、ありがとうございます!」
 店員さんは俺と花奈を見て、本当に嬉しそうににこやかに笑顔を浮かべた。
「もう着替えたらそのままお会計するので、レジまで行きますね。ごめん巧人くん、もうちょっとだけ待ってて」
 俺に申し訳なさそうに謝る花奈だが、今日は花奈の買い物に付き合うということなので、そんなに気にしてなかった。
「んじゃ、俺は外で待ってから、ゆっくり来いよ」
「ありがとう!」
 花奈はそうにこやかな笑顔をみせると、鼻歌を歌いながら試着室のカーテンを閉めて着替え始めたので、俺は持ってきた荷物たちを抱えて、元座ってた椅子の方まで戻ることにした。

「ありがとうね、私だけだといっつもずっと悩んじゃうからさぁ、巧人くんといるとサクサクお買い物が進んじゃうね」
 先程買ったワンピースの入った袋も一緒に抱えながら、花奈は上機嫌で笑っていた。
 さっき買ったワンピースが余程気にいったのか、鼻歌も歌っていた。
「今日はそれで大量の荷物が嵩みに嵩んじゃってるわけなんですけどね。流石に両手じゃ持てないのでカートに乗せてるわけなんだがな」
「それは本当にごめんって、後でカフェラテもう一本奢るからさぁ」
 そう両手をあわせてごめんのポーズをとりながら、俺の先を歩きながら軽くふわっと結わえた髪を靡かせた。
 花奈とは幼馴染とは違うが中学の頃に知り合って、気付けば付き合っている様な仲だった。
 彼女と一緒の高校に行くことも決めて、いずれは彼女とも結婚するお付き合いになるんだろうなぁと思っている。
 きっと彼女の方も今は高校生だからみたいなものはあるんだろうけど、ゆくゆくその先のことも見据えていると感じていた。
「俺がカフェラテで餌付けされてるみたいだから、それはちょっと嫌だなぁ」
「じゃあなんだったらいいの?」
 不満げな表情を浮かべる花奈。
「そろそろディナーの時間だと思うんで、荷物を車に預けて一緒にディナーなんてどうです?お嬢様」
 なんてギザな台詞を並べては、肩をすくめながら笑ってみた。
「なにそれ!私が巧人くんに晩ごはん奢るの?えーっ」
「冗談だよ冗談、今日は一日花奈の付き合いたいところに付き合うって約束だからね、こういうのも許してほしいなーとか思うわけですよ」
「じゃあ分かった、今日は私に付き合ってもらったお礼に私が奮発しましょう!でも!今度は巧人くんが三倍返しってことで期待してるからね」
 しまった、余計なことは言うもんじゃあない。
 その後俺たちは束の間の休日を満喫しつつ、ディナーの算段をしながら駐車場の方まで荷物を片付けに行った。

アバター
2020/08/04 04:31
数年前(2013年)に連載を初めて以来、数年間休筆していた「消えた彼女が摘んだプリムローズ」の執筆を再開しました。最近note(https://note.com/sousensan)を初めまして、そちらの方でも連載をしていこうかなと思っておりますので、物好きな方がいらっしゃればそちらまでどうぞ。
久しぶりに書くに当たって設定を見直したので、そちらの方もよかったらnoteまで読みに見に来て下さい。
ありがとうございました。
アバター
2020/08/04 04:29

消えた彼女が摘んだプリムローズ

【あらすじ】
数年前に恋人の松永花奈を亡くした榛巧人。ある日年上の幼馴染、稗田夏生が隣に引っ越してきた。その数週間後に花奈の妹の椛が家に押し掛けてくる。巧人の思いとは裏腹に、彼女たちの思いが交錯するハイテンションだけど、少しセンチメンタル・ラブコメが今、始まりを告げる!

人物紹介

榛 巧人(はしばみ たくと)/25歳
付き合っていた恋人と死別していたが、立ち直り現在は就職活動真っ最中。
数年ぶりに再会した幼馴染の夏生とのお隣さんの生活を始める。
そして訳あり彼女の妹と同棲生活を始める。

稗田 夏生(ひえだ なつき)/32歳
巧人の幼馴染で姉貴分な性格。
うまくいっていなかった旦那と最近死別したばかりで、
巧人の住所を調べては隣に引っ越してきた。

松永 椛(まつなが もみじ)/22歳
亡くなった花奈の妹で、所謂「ボクっ娘」
周りの男性との交友関係に悩まされて、姉の彼氏の家に転がり込んだ。

松永 花奈(まつなが かな)/享年22歳
高校の時から付き合っていた巧人との彼女。
数年前、殺人事件に巻き込まれて亡くなりこの世を去っている。




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