Nicotto Town


楽屋裏のつぶやき


Moon night





 どこからか、ヴァイオリンの切なげなハイノートが聞こえてきた。
 ベッドの中でまどろんでいた青年は、耳に入ってきたその音にうっすらと目を開けた。
 CDでも掛けっぱなしで寝たのだろうか。
 そう思いながら、コンポのリモコンをサイドボードから取り上げストップを押す。
 が、それでも、その音は消えることはなかった。

 リモコンの電池が弱くなっているのか、とぼんやりと考え、むくりと起き上がった青年は、眠い目をしばたかせながら、コンポの方を見やる。
 けれど、コンポの電源は完全に落ちていて、暗い部屋の中には、ただ静寂があった。
 音の聞こえる方をたどると、どうやら、屋外らしい。
 彼はちらりと時計を見やる。
 午前0時。


――こんな時間に、外でヴァイオリンを弾くなどと、なんと酔狂な……。


 そう思いながらも、その音に導かれるように、彼はゆっくりとベランダへと足を運んだ。
 カーテンをすうっと引くと、外は妙に明るかった。
 とはいってもその光は、じりじりと照り付ける太陽の光ではなく、静かに降り積もる月の光……。
 彼は、ゆっくりと窓を開けた。
 それと同時に、ヴァイオリンの音も少しだけ、大きくなった。
 ベランダへ出ては見たが、くるりとあたりを見回した限りでは、ヴァイオリンを弾いている人の姿など見当たらない。
 けれど、その音は、室内ではなく室外で奏でられているものに違いなかった。


 その音に誘われるように、彼はすぐさま外へ出た。


 けれど、どれだけ歩こうが、音は近くならない。
 ある一定の距離までは大きくなるものの、それ以上の音量になることはない。


――しかし。どうして、誰も文句を言わないのだろう。


 彼は、ふとそんなことを思った。
 確かに、聞こえてくるヴァイオリンの音は、とても澄んだ音色だ。
 けれど、こんな夜中の、近所の迷惑も顧みない演奏を、何故誰も咎めないのか。
 不快ではないけれど、現に彼はこの音で目を覚ましたのだ。
 害がないとは言わせない。


 彼は、足早に、音のするほうへと足を勧めた。
 けれど、どれだけ行っても、その音は近づきもしない。
 いや、だんだん遠くなっているような気がする。
 どこまで歩いたのか、彼は河川敷まで来ていた。
 そこまでは、家から10分ほどかかる。そんなに歩いたのだろうか、と、ふと思う。


 と、突然ヴァイオリンの音がひときわ大きくなった。


 彼は驚いたように、天を見上げた。
 そこには、丸く大きな月。


 音は、そこから聞こえていた。
 何故、月からそんなものが聞こえるのか。
 そう考える前に「ああ、そうか」と納得してしまっている自分がいた。


 ただ、闇の中に浮かぶ白い月。
 それ以外のものは、ここには何もなかった。
 しんと静まり返ったあたりに、冷たい光が降りそそぐ。
 そんな中、ヴァイオリンの音色だけは、消えることがなかった。












 10年位前に、HPでUPしたものです。
 「月の魔力」というテーマを頂いて書いたものなのですが、なんとな~く、微妙な感じになってしまいました。
 久しぶりに、SSをUPしてみようかな?とか思って、のUP。
 単なるネタ切れとも言う(笑)

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2009/10/15 23:36
>あやさん
ありがとうございます~。
そう言っていただけると嬉しいですw
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2009/10/15 22:39
音楽関係のは、読んでてゆったりとした感じになれます♪
しかもヴァイオリン、月などが揃うとほんとに私の好みに合うもので・・・
本当にみおさんは凄いですねv
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2009/10/15 08:58
>ななみさん
うれしい~ww
空気とか、音とかね。
そういうものを感じてもらえると嬉しいと思ってるのでw
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2009/10/15 02:26
よく聞いていた人の歌を思い出しました。
透明な、秋の空気のような・・・

みおさんの書くものは、本当に絵が見えます♪
これは、音楽も聴こえてきますね(〃▽〃)
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2009/10/14 16:33
>白菜茶漬さん
ありがとうです~。
そういっていただけると嬉しいww

>さくらみるくさん
ホント、嬉しいですw
その言葉だけで、満たされる気がします~
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2009/10/14 13:20
いい感じです、、、、つい引き込まれて、、、、、
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2009/10/14 11:39
音楽が聞こえてきたような気がしました☆
ステキ♪



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